第九十一話:青き可能性
思ったよりも感想コメント荒れませんでしたね。もう少し演出を入れたほうがよかったのかなと後悔中。
いきなり登場したパルセードに困惑していると目の前にウィンドウが出現した。
『条件達成! 〝パルティリング″に【召喚】のスキルが解放されました!』
『【召喚】:たまにモンスターがドロップする〝~~リング″を媒介にしてモンスターを召喚できる。召喚するモンスターによって時間ごとに消費するMPが異なる』
呆然としていると再び響く水の音。三回にわたって白武者の攻撃を受け止めた水の盾も気になるがそれよりも先に回復が最優先だ。
振り返れば同じように回復薬を飲むみんなの姿がある。どうやら全滅は免れたようだ。
(さて、どうする?)
思わぬ援軍のおかげでなんとかなっているが、パルセードの力が加わっただけでは正直有利になったとは思えない。
以前パルセードについて調べたとき、その強さはだいたいワンワンの倍くらいというプレイヤーたちの判断結果が出ていた。というのも、パルセードはそこそこな割合で西の遺跡に出現するらしく、多くのプレイヤーからは『魔法職さえいれば一番楽に倒せるボス』として注目されていた。
しかし、クエスト開始からしばらくして姿を見かけなくなり、今や幻のボスとなっているらしい。
その時の情報を思い出して1分持てば上出来だろうと考えていたが、パルセードは俺たち全員が全回復するまでの時間を稼いでくれた。
その仕組みはまさに“水”だから。
白武者が攻撃するまでにぶつかった衝撃で辺りに散った水を再び呼び戻し、水の盾を無限に作り出していた。さらに、徐々に慣れてきたのか最初の大きさよりも小さく、しかしながら刀が当たる部分を厚くすることで攻撃を完全に無効化して見せたのだ。
(でも、いくらなんでもここまでAIが発達する物なのか?)
モンスター、というよりCWOの世界に生きるすべての生物はAIで動いている。仲にはアリアさんたちのようにちょっとネジが外れているような存在もいるが、それでも全体数に比べれば少ないはず。
その中で召喚されたばかりのパルセードがなぜここまでの知能や力を持っているのだろうか?
「というより、兄さん?」
俺が思考の渦にはまっていると後ろからエルジュの声が聞こえてきたので振り返る。
「ん? なん……」
「あれ、どういうこと!? なにしたの!? いくらでお持ち帰りしたの!?」
「ちょっと、ま……」
「そうです! どうやって捕獲……ではなくて確保……でもない…………そう、保護していたのですか!?」
「ティニアさんまで!?」
いきなりの展開に戸惑うが、よく見れば一人を除き女性陣の目がギラギラしている。
「そういや、さっきのウィンドウに条件が達成されたって……」
「ハヤクソレミセロヤ、オラ!」
よし。考えるよりも前にエルジュたちを正気に戻そう。
そう思ってログを見直そうとログウィンドウを表示した瞬間、何かが後頭部に飛んできた。
「って、パルセード!?」
飛んできたパルセードは息も絶え絶えとなり、自力では立てない状態だ。慌ててHPやMPを確認するとHPは残り2割、MPは空っぽだった。
「ごめん! 今回復を……」
『『『プチ』』』
ん? 何の音だ?
「「「フフフフフフフフフフフフフフフッフフ」」」
さらに聞こえてくる不気味な声。その音源がすぐ後ろだと気付いているが絶対に振り返りたくない。
正面を見ればこちらに対して二振りの刀を構えている白武者だが、ほんの少しずつ後退しているようにも見える。
「ジャマ」
「!」
その一言に本能的な恐怖を感じた俺が左に移動したとたん、白武者の存在を視界に入れた四人が、暴走を始めた。
「シネヤ!」
「殺ス!」
「欠片スラ残ルト思ワナイデ!」
「許ナサイ!」
それぞれの咆哮と主に放たれる魔法と矢の雨。
ちなみに先ほどのセリフは上からエルジュだったモノ、リボンちゃんのはずの何か、アリサさんと思われる物体、そしてアリサさんみたいな存在だ。
もはや戦術やMPの節約なんてものが存在しないかのような連続攻撃を白武者は日本の刀でなんとか耐えているがHPバーは確実に減っている。
バーゲンやかわいいものに対して女性は豹変すると聞いたことはあるけど、これは本気で恐ろしい。
「あの、その子大丈夫ですか?」
「ヒィ! ハ、ハイ!」
「えっと、そこまでおびえなくても……」
おっと、唯一まともなスワンちゃんにまで恐怖するとはいけないいけない、平常心平常心。
何とか心を落ち着かせパルセードに〝ミドルポーション″を飲ませる。しかし思ったよりも回復しない。
「となると、〝清水″のほうがいいか」
残り少なくなった〝清水″を与えると勢いよく飲み、みるみるHPバーが回復する。これで死ぬ心配はなくなった。
それを確認して一安心した俺は〝生命の甘露″が入った〝聖樹の籠″を取り出す。これでみんなのMPを回復しつつ、あの攻撃を続けば勝てるのではないかと思ったからだ。
しかしその籠はスワンに取られ、「その子を診てあげてください。万が一にでも死なれたらもう止められませんよ、アレ」と言われてしまったのでスワンに籠を託した。
「マスター」
「……ん? って今のお前か?」
スワンが籠を受け取り、みんなの元へと飛んで言った矢先、急に聞こえてきた透明感ある声に戸惑うがすぐにそれがパルセードの元だと気付く。
「ワタシモ、タタカイタイ」
「え!? いや、でも……」
まさかの参戦継続発言に驚くがパルセードは蒼色の瞳をじっとこちらに向けている。
状況を確認するとスワンが回復支援をしていることにわずかな理性が気づいたのか全員最大火力の大技をバンバン使用している。このままいけばなんとか勝てるかもしれない。
「いや、パルセードが戦う必要は……」
もう無い、と言おうとして俺の鎧を必死になって掴もうとするパルセードの姿が映る。
「タタカイ、タイ!」
清水の相性のおかげか徐々に回復しているものの、まだHPは半分しか回復していない。一応万が一に備えて〝生命の甘露″の予備は残しているのでパルセードのMPを回復することはできる。
俺が迷っているとパルセードは鎧を掴もうとした手とは別の手である方向を指す。しかしその先には脱落者用の客席があるだけで、他には何もない。
いや、あった。さっき出したログウィンドウが。
そしてそこに書かれていた一文をパルセードは指していた。
『以下の解放条件を達成しました。
【召喚解放条件⑤】:中に眠るモンスターが『助けたい』と強く願うことで達成。この解放条件を達成するにはモンスターを特殊な方法で倒す必要があり、そのため条件を達成したばあい〈【召喚】によるMP消費を20%軽減〉の付属スキルがついてくる』
「助けたい……」
その言葉が先ほどのパルセードの言葉とつながる。
「でも、なんで?」
俺はリングを手に入れたからずっと装備していたわけじゃない。たまたま装備を新しくする際に思い出して装備していただけだ。なのに、どうしてそこまで想えるのか?
そんな俺の疑問を表情から悟ったパルセードは、なぜか泣きそうな顔をした。
「イタク、ナカッタ」
「へ?」
「コウゲキ、シナカッタ。オイシイ、ミズ、クレタ」
「ちょっと待て。まさか、すべての戦闘覚えてるのか!?」
コクンと頷くパルセード。姿を消したのはずっと痛い目、つまり攻撃されてて苦しかったからだとでもいうのか。
NPCキャラの中にはそういう行動をする者がいてもおかしくないが、まさかモンスターにまでそんなシステムを動員していたとは。もしかしてそういうモンスターがリングを落とすのだろうか。
「マス、ター」
考え事に夢中になっていた俺を再びパルセードが現実に戻す。俺を助けるためにこうしてリングから出てきてくれたのならその思いに応えたいが、どうしても決意することができない。
「「「「きゃあ!」」」」」
「ッ! みんな!」
そんな時に聞こえてきた悲鳴に驚いて顔を上げれば、二振りの刀を振りぬいた状態の白武者と吹き飛ばされる女性陣。追撃しようとする白武者をすぐさま立ち上がったティニアさんがスカーレットファンで応戦している。
しかしリボンはダメージがひどいのか舞台に倒れたままでエルジュもスワンをかばったせいで舞台に倒れている。そのスワンはエルジュに駆け寄ろうとするがエルジュの口が動きそれに頷くと近くで転がっていた籠を持って起き上がろうとするアリサさんの元へと飛翔する。
この時点でリボンが脱落。エルジュもアリサさんのMP回復を優先させたことから戦える力はもう残っていない。スワンはもともと戦力外とすると戦えるのはティニアさんとアリサさん。
(こうなったら、やるしかない!)
俺は〝生命の甘露″を取り出すべくアイテムボックスを表示する。すると少し遅れた別のウィンドウが開いた。
邪魔だ! と思ってそれを手で払おうとして表示されている文字を見て動きが止まる。
『【融合】発動可能・成功率10%
対象有機物:パルセード × 対象無機物:特殊な加護を受けた水系アイテム
融合に挑戦しますか? (*失敗すれば対象物はどちらも消滅します*)
YES / No』
次回も水曜日投稿です。
次回は戦闘系ヒロインならおなじみのあのシーン。
いろんな方々「え、私そういうの無いよ!?」




