第八十一話:正体
最近暑いですね~。皆さんも体調管理気をつけてください。
(執筆中に熱中症で危うく病院行きになりそうだった作者より。助かったぞ親友よ!)
七階への階段を探し歩き続け、ようやく階段を見つけたのだが、さすがは最後の戦闘階だけあって階段もいつもよりも豪華だった。
なんの違和感もなく登っていく俺たちだが、ただ一人立ち止まっている者がいることにスワンが気づき声をかけた途端、全員の足が止まる。
なぜなら、立ち止まっていたのはこの中で一番攻略情報を持っているエルジュだったからだ。
「どうかしましたか?」
「えっとね。この階段、前に来た時は普通の階段だったの」
全員が言葉を失う。つまり、この時点で“普通じゃない”ことが確定したからだ。
一方で俺はそこまで途方に暮れていなかった。
(やっぱフラグ回収したか。ということはこの先で待ってるのはあの鎧武者たちか)
思い出すのは二階で遭遇した武者鎧たちが逃亡したあの場面。普段なら攻撃を継続してくるはずなのに逃げた時点で何かがおかしいと考えるべきだ。
とりあえず一旦階段を下り、全員でミーティングスタート。
「さて対策を考える前に、本来ならどうなる予定だったんだ?」
「七階に登場する敵は三パターン。二階で遭遇した武者鎧全員と戦う、鉤爪装備と薙刀装備+回復持ちと戦う、両肩に三連装ロケット砲装備した鎧武者と兄さんが戦った銃装備+回復持ちと戦う。以上の三つ」
「どれにも回復持ちがいるんだね」
「そうです。あと、戦う敵は編成パーティーの構成によって決まるんだよ」
「どういうことですか?」
「二番目のパターンはこっちが遠距離主体のパーティーの場合、三番目のパターンはこっちが近接主体のパーティーの場合、そして混同なら最初のパターンなんだ」
「なるほど。こっちが苦手な距離の敵が登場するはずだったのか」
「うん。だからこのパーティーなら二番目のパターンのはずだったんだけど……」
こっちのパーティーは俺を除いて魔法使いと弓使いのみ。間違いなく遠距離主体のパーティーだな。
それを考えて作戦を考えてくれていたのだろうけど、この階段のせいで全て無駄になったというわけか。
「さてと、するとこの先はどうなるか想像するしかないか」
しかし想像といってもそれをするための材料が無い。あるとすれば階段だけか。
よく見れば今までは石でできた現実の道でも見るような普通の階段だったのに目の前にあるのは木製だ。手すりにも装飾が施され、よく見れば段の中央は赤く塗られている。まるでレッドカーペットみたいだな。
「まるでどこかの博物館とか劇場とかにある階段みたいですね」
スワンの一言に納得する。確かにこれは劇場にありそうな階段……
「劇場!?」
「うわ!? どうしたのエルジュちゃん!?」
突如大声を上げるエルジュ。もしかして何か閃いたのか?
そう思ってエルジュのほうを見れば頭を抱えている。うん。間違いなくヤバい展開だ。
「とりあえず、落ち着いたらお前がたどり着いた考えを伝えてくれ」
「そうする」
言葉にすら普段の元気が感じられない。これはそうとうヤバいみたいだな。
「ごめん。時間かかった」
エルジュが口を開いたのはそれから5分後くらいのことだった。さて、どんな絶望的な予測が飛び出してくるのやら。
「まず、この先に待ってるのは鎧武者たちであることは変わらないと思う」
「そうですね。先ほどエルジュさんがおっしゃっていたように、全ての敵が鎧武者だったのですから、今回だけ違うというのは考えられないですね」
「どうして? だって階段違うんだよ?」
「それもそうですが、エルジュさんには確信があるみたいですから」
ティニアさんの言葉に頷くエルジュ。しかし、階段とスワンの「劇場」の一言だけで確信が持てる理由がいまだにわからん。
「あくまで予想だけど、ほぼ間違いないと思う。上様がいたからこその考えなんだけど」
「上様? 上様が関係してるのか?」
確か両手に刀持ってる武者鎧と長剣持ってる武者鎧がいるんだったよな。でも上様が登場する時代劇に武者鎧なんて出てきたか?
「兄さんが考えてることは間違い。私が言いたいのは過去に流行った作品の登場人物をボスキャラとして起用しているという点だよ」
「つまり、この先にいるのは何かの映像作品のキャラということですか? でも、劇場だけじゃ……」
「なるほど。そういうことか」
スワンが言ってる途中で俺はエルジュがたどり着いた予想が分かった。まさか努から無理矢理教わった知識が役に立つ場面があるとは思わなかった。
「兄さんは分かったみたいだね」
「ああ。そう考えれば鎧武者なのも理解できる」
「うん。でもあくまで予想だから」
「てか、勝てる気がしないぞ」
「そこは、まあ、上様みたいな感じじゃないかな?」
兄妹で盛り上がっていると視線を感じたのでそっちを向く。同じくエルジュも感じていたようで同じように顔を動かした。
その先には話についていけないみんながいたのでスワンとリボンにはエルジュが、ティニアさんとアリサさんには俺が向かった。
「つまりですね、この先にいるのはあの武者鎧たちです。それは間違いないことだけは確かです」
「いまだに疑問はありますが、敵は同じでも作戦や編成が全く謎。こちらとしては出たとこ勝負という感じですか?」
ティニアさんの指摘に頷く。しかし、“出たとこ勝負”って言葉こっちにもあったんだな。
一応アイテムや装備を確認したのち、階段を上る。これまでと違う木の感触に戸惑いながら上ると、そこにはまさしくレッドカーペットが敷かれた道が続いており、その床を踏んだとたん奥の燭台に火が灯った。
壁に取り付けられた燭台の導きに従い通路を歩いていくと大きな扉の前に到達する。
「本当に劇場ですね」
「実際に見たことあるの?」
「何回か。母親が演奏会を好んでいるのでその付き添いで」
「なあ、もしかして心ちゃんってお嬢様なのか?」
「少なくとも、私たちの家よりは裕福なのは確か。でも、家に行ったことないから実際はわからないんだよね」
「これは! 素晴らしいです! このような扉初めて見ました!! なんとか持ち帰れないでしょうか!?」
「ティニア? 目が花魁というよりフェアリートレード長の眼になってるよ? この先戦闘なんだけど……これはダメだ」
扉の前で騒ぐ俺たち。要塞ばかりの見た目だったから違うものを見て興奮してるのかもしれない。
そして扉を開けようとしてあるものを見つけ、動きが止まる。それを不思議がったアリサさんが俺の手元をのぞき込む。
「取っ手もすごいわね。五枚の花弁がきれい」
「スプライトには咲いてない花ですね」
同じく覗き込んだティニアさんが言う通り取っ手の上部に五枚の花弁で描かれた花、紋章らしきものが刻まれている。
この瞬間俺は、いや俺とエルジュは自分たちの考えが合っていたことを悟る。
ここで躊躇しても意味がないので扉を開ける。視界に入ってきたのは両脇に並ぶ大量の椅子。そして舞台。一般的な劇場そのものだ。
椅子には触ることはできてもそれ以外のことはできなかったので舞台に向かって進む。
そして舞台まであと半分まで来たところで背後の扉が閉まる。
一瞬の暗闇。そして流れる曲と回転しながら辺りを照らす色とりどりのスポットライト。
((やっぱりー!?))
流れてきた曲でもう間違いようはない。
俺とエルジュが九割の絶望と一割の歓喜を感じている中、舞台の上から次々と落ちてくる鎧武者たち。実は登場する鎧武者たちは全て茶色に塗装されていたのだが、落ちてくる鎧武者たちは白・ピンク・紫・赤・黒・緑そして黄色に塗装されている。
「――!」
「「「「「「―――――!!」」」」」
スポットライトに照らされ、咆哮を上げる鎧武者たち。しかも決めポーズまでばっちりだ。
『EXボス登場! ~激闘!要塞華撃団!~』
それが敵の正体だった。
というわけで、鎧武者の正体は大正時代のロマンの皆さまでした。上様がヒーローなら一番最初のヒロインはピンクの人でした。続編もう出ないのかな~。
ちなみに、今年中学生になった従妹は曲だけ知っててタイトルや作品名は知らなかった事実が発覚し、愕然としました。これがジェネレーションギャップか。上様は知ってたのに。
次回も水曜日投稿ですが、その前に再開日である9日に記念話を投稿予定です。果たして間に合うのか!?




