第七十九話:彫られた文字
今回は間に合いました。
あと、いつの間にか800万PVを達成してました。いつもご愛読ありがとうございます!
潜った視界の先には石畳の通路と流れる水。そして石畳に彫られた文字らしきモノ。
しかし、それを確認する前に息が続かず、慌てて顔を上げる。
「だ、大丈夫兄さん!?」
慌てて顔を上げた俺以上に慌てた声で駆け寄ってくるエルジュ。あれ? もしかしてヤバい行動だったのか?
「別に、どこにも問題はないけど?」
「……じゃあ、HP確認してみて」
エルジュの言葉に従いHPを確認すると全体の1/10ほど減少している。どうやら水中ではHPを消耗するらしい。しかも減少量は思った以上だ。
「減ってるでしょ?」とでも言いたげなエルジュの瞳に俺は頷くことで答える。
「やっぱり。【水泳】のスキルが無いと息継ぎができなくてすぐに体力が尽きるんだよ」
【水泳】はスキルの中では珍しい趣味スキルと呼ばれる部類のスキルだ。
趣味スキルとは戦闘には全く意味のないスキルで、CWOをもう一つの現実として楽しむ人向けのスキルだ。他にも【釣り】や【園芸】などがある。
ここにいるのは一応生産職の俺を除けば全員戦闘に重点を置いているプレイヤーおよびNPCしかいない。
万が一の可能性があるかとスワンとリボンを見るが二人は首を横に振る。せっかくの機会だがここは諦めるしかない。
「それじゃ、私が見てくるから」
「「「へ?」」」
俺とスワン、リボンの三人が見つめる先にエルジュの姿はなかった。いや、天使型の特徴的な翼が水面に浮かんでいる。
そして数秒後、その顔を水面から出した。
「うん。何か彫ってあるね。何かの文字かな?」
「いや、なんで?」
俺たちの中でも一番戦闘に特化しているはずのエルジュが趣味スキルを持っていることに疑問の声を上げるとエルジュが説明してくれた。
実はまだ到達していない第3エリアは二つの顔を持っている。一つが鍛冶師たちの街。そしてもう一つが漁業の街だ。
第3エリアは北側に鉱山が、西側に海が広がっており、南は第2エリアから続く道、そして東側が攻略するエリアとなっている。そして西側の海では水中ステージが用意されていることがベータ版で確認されている。そのため、エルジュは【水泳】のスキルを取得し、レベリングを進めていたらしい。
「なら俺も取っておいたほうがいいか?」
「ううん。水中ステージ結構難しいから止めたほうがいいよ」
エルジュですら難しいというなら俺には絶対無理だろう。海中の素材って結構魅力的なんだがな。
すると俺の顔からそのことを読み取ったのか「素材手に入れたら提供するから」とエルジュが言ってくれた。それはうれしいのだが、「報酬はグレンダイムで」は無理だ。
再びエルジュに潜ってもらうがここでも問題が起こった。
「ごめん。なんて書いてあるかわからない」
文字であることは間違いないのだがそれを見れるエルジュが読むことができない。
どうするか考えているとアリサさんがなにか閃いたらしい。
「その文字がどういう形をしているか説明できますか?」
「それはできると思いますけど」
「なら、私がそれを魔法で文字にします」
「「「「へ?」」」」
俺たちプレイヤー組が困惑する中アリサさんに言われエルジュが見えた文字の一つの形をいうと指先で空中になぞる。するとアリサさんの特徴ともいえる雷がエルジュが言った形で固定された。
「「「「……」」」」
まさかの出来事に俺たちは言葉を発することができない。どんだけ~?
「アリサ、皆さんが固まってますよ?」
「え? だってこれくらい誰でもできるよ?」
「それはハイフェアリーだけです」
「あ、そういえばそうだったっけ」
アハハと誤魔化すアリサさんにティニアさんがチョップを入れる。
しかしこれでなんとか文字を読むことが……
「ところで、この文字私知らないよ?」
「そういえば、私も見たことないですね」
「「「「え、知らないの!?」」」」
なんと文字を表示することはできても、妖精族の二人も読むことができない。もはや万事休すかと思ってその文字を見た。
「あれ、これって古代文字か?」
「「「「「はい?」」」」」
俺が見たその文字はエイミさんから教わった古代文字だった。もしそうなら文字を読めるかもしれない。
その望みにかけ、もう一度エルジュに潜って別の文字を確認してもらい、そしてアリサさんに雷文字を書いてもらう。
「うん、間違いない。古代文字だ」
これで光明が見えた。残る文字も雷文字にしてもらうが、ここでさらなる問題が発生する。
「さすがにこれ以上は厳しいかな」
さすがに全ての文字を表示するのは難しいらしく、今の時点で表示している文字を一度読んでみることにする。
「えっと、『ごをえたければさいだんにみず』って何これ?」
「さすがにこれだけではわからないですね」
「でも『さいだんにみず』はそのままですよね」
確かに、そのまま読めば『祭壇に水』ということになる。エルジュに訊くと「確かにこの先に祭壇があるみたい」ということ。
というわけでこの調子で残りの文字も解読する。
その結果、ここで書かれている言葉が『水の加護を得たければ、祭壇に水系のアイテムを置け』だと判明する。
「さて、次は祭壇を目指すか」
「その前に一つ注意!」
文字の謎が解けこの勢いで行こうとするとエルジュが大声を上げる。
「ど、どうしたのエルジュちゃん?」
「この階なんだけど、敵を倒し終わったら自動的に六階に転移されちゃうの」
「つまり、この先敵は無視するってことでいいのか?」
「そうしたいんだけど、ジャンプフィッシュって一度敵を見つけると追ってくるの」
どうやって対処するか考えているとまたしてもアリサさんがアイディアを思いつく。
「なら、〔パラライズ・レイ〕で【麻痺】させるのはどう?」
「その攻撃で死ぬことはありませんか?」
「攻撃力低いから大丈夫よ。基本的に【麻痺】させるのが目的の魔法だから」
その案を採用し、先に進む。
そしてジャンプフィッシュを見つけ、それをアリサさんに伝える。
「それじゃ、いくわよ! 〔パラライズ・レイ〕!」
アリサさんが魔法を発動させ、一筋の光がジャンプフィッシュに向かう。
「あれ?」
「どうしたエルジュ?」
「私たちも水面にいるけど、感電しないよね?」
「「「「「……」」」」」
それを聞いた俺たちと振り返って驚愕の顔を浮かべたアリサさんの視線が交差し、俺たち&ジャンプフィッシュは仲良く【麻痺】状態になった。
「いや~危なかったわ」
「もう少し反省させますか?」
あの後誰よりも早く【麻痺】が解けたティニアさんがすばやくジャンプフィッシュを倒してくれたおかげで無事だったが、一歩間違えれば全滅していた。
というより、機転を働かせて感電する直前で飛んでいたエルジュがいなければ間違いなく死んでいただろう。ジャンプフィッシュよりも先に溺死で。
「ありがとうね、エルジュさん」
「ありがとう、エルジュちゃん」
「お礼なんていいよ、二人とも」
後ろで感謝され照れているエルジュを見てる。……別にOHANASI中のティニアさんが怖いわけではないよ?
「さて、これからどうしましょうか?」
水面にうつぶせになっているアリサさんをスルーするティニアさん。しかし言葉通り今後のことを考える必要がある。
「動きを止める状態異常って他にないのか?」
「【麻痺】以外だと【石化】とか【気絶】とかかな?」
「【石化】はまだ方法が見つかってないし、【気絶】は確率の問題だからな」
五人が考えていると水面からブクブクと音が聞こえてくる。
その音に気づいたティニアさんが音の発信元という名のアリサさんの首をつかみ引き上げる。
「どうかしましたか?」
ティニアさん、まだOHANASI状態ですか。
「えっと、【気絶】なら方法があるの」
アリサさんは背中、正確には服の中に手を入れる。すると、そこから黒い物体を取り出した。
それを見た俺、スワンとリボン、そしてティニアさんの目が点になる。それほど取り出したものに驚愕したためだ。
「えっと、なんでそんなモノ持ってるんですか?」
一人正常だった、その正体を知らないエルジュがアリサさんに問いかける。
「これは姉さんから預かったモノなんです」
「そうなんですか。じゃなくて、それをどうするんですか?」
「どうするって、もちろん殴るんですよ」
「え~っと」
一人困惑するエルジュだが、他のメンバーにはその使い方を当然理解していた。まあ、見たことないエルジュにはフライパンが武器になるなんて想像もしなかっただろうし。
呆然としていると【看破】に反応があった。そういえばずっと使い続けたままだったな。
「一応、あそこにいるみたいですよ?」
「了解!」
俺が指した方向に走るアリサさん。当然接近に近づいたジャンプフィッシュは迫ってくるアリサさんに向けてジャンプして突撃してくるが、アリサさんは手に持ったフライパンを野球のバッターのように振る。
フライパンの丸い部分で吹き飛ばされたジャンプフィッシュが壁に激突し、見事【気絶】が発生する。確かに現実でも気絶する勢いだけど、よくアレの攻撃を受けて死なないなジャンプフィッシュ。これまでの戦闘だとそこまでのHPあった記憶がないんだが。
そのことを指摘すると「私は姉さんほどコレを使いこなしてないから」と返された。非常に納得したのは俺だけではないはず。
まあ、これで方法が見つかったので俺が発見し、アリサさんが吹っ飛ばすというスタイルで探索を進め、とうとう最奥に到達し、祭壇らしきものを見つけた。
誰がアリアさんしか持てないと言った? まあ、威力はそこまで強くないので最凶装備とはなりません。
次回も水曜日投稿目指してがんばります。




