第七十八話:イレギュラーステージ
だいぶ遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした!
混乱するエルジュをなんとか落ち着かせ、上様と戦った時のことを話す。
「やっぱり、あの爆弾すごいんだね」
「あれがすべてじゃないと思うけどな」
「それもそうだけど、やっぱり欲しいよ。まだ販売できないの?」
「安定供給は無理だな。Lvが足りない」
今ではトッププレイヤーの中でも上位組、通称『攻略組』として有名になったエルジュでさえも欲しがるグレンダイム。ほんと早いとこ問題なく作れるようになりたいものだ。
……というか、ここ最近ほとんど調合してないな。これが終われば最終試練だから少し取り組んだほうがいいかもしれない。そうすれば、携帯用錬金釜でも多少は品質が高いものができるかもしれないし。
そんなことを考えていると全員のチェックが終わったようなので俺たちは魔法陣の中に入る。全員が入ると魔法陣の輝きが増し、俺たちの視界を光で染めた。
光が収まったさきには足場が見えなかった。
正確には足場は水の中に沈んでいた。
「水中ステージ?」
「ううん。水の高さは私の膝ぐらいまでしかないから大丈夫」
不安な声を出したスワンにエルジュが答える。もしかしたらカナヅチなのかもしれないな。
「それで、このステージの攻略方法は? 当然調べてあるんだろ?」
「当然だよ兄さん。このステージの敵はジャンプフィッシュだよ」
「それってトビウオ?」
「そうそう。それが狂暴化した感じ」
エルジュのさらなる説明によると、この水中のどこかを優雅に泳いでいるがこちらを察知するとすごい勢いで突撃してくる。それだけだと要塞遺跡のモンスターぽくないが、なんと鱗が魔法を反射する性質を持っているらしい。
単純な名前のくせに厄介な能力持ってるんだな。しかもその鱗はドロップ報告がないらしい。
「反射するといっても初級魔法程度だけどね。それ以上でもダメージが通りにくいけど」
「いつもの魔法では仕留めきれないと?」
「お二人の魔法なら……どうなんだろ?」
やけに自信なさそうだが、エルジュからすればティニアさんとアリサさんの実力は攻略組以上とのことで比較できないのだと言う。
やっぱこの二人はどこかおかしい。もっともその筆頭たるアリアさんがいないんだよな。もしアリアさんがここにいたらエルジュはどんな反応をするのだろうか、ちょっと興味が出てきた。
「なら、今回は三人に任せるな」
「うん。弓使いにとっては良い訓練でもあるから。二人ともがんばろうね」
「「うん!」」
というわけで、この階では俺が【看破】でジャンプフィッシュを探し、ティニアさんとアリサさんが魔法で誘導、三人がそれを射止めるという流れだ。
方針が決まったところで水の中に足を入れる。エルジュが言っていたように水深は浅く、俺からすれば膝よりも低い。
それでも普段より動きにくい分、素早い敵相手だとこちらが不利になる。そういう意味でここに登場する敵を素早いモノにしたのだろう。
しばし歩いているとあることを忘れていたことに気づき、振り向く。
「そういえば確認してなかったんだけど、結局どうなんだ? 一騎打ちで得られる報酬はあるのか?」
「あ、答えてなかったね。確か〝秘伝の巻物″っていうアイテムがもらえるよ。でも別のアイテムがないと解読できないみたい」
「それだけか?」
「うん。それだけ」
答えを聞いたので視線を前に戻す。【看破】で敵を探しながら俺は自分の予想が外れていて少しがっかりしていた。てっきり、戦闘主体のパラメーター構成が解読アイテムをもらえると思っていたのだ。
(となると解読アイテムはいったい何処……っと反応があったな)
視線の先にある曲がり角。そこに敵の反応を見つける。俺がまだ遭遇していない敵のため、表示されるのは『ENEMY』だけだ。
「いたぞ。あそこの曲がり角、その少し手前右側だな」
「オッケー。二人とも矢を用意して。お二人とも、炙り出しお願いします」
エルジュが言った炙り出しだが、文字通りティニアさんが火属性魔法を放っておびき寄せるため間違ってはいない。いないのだが……念のためダイブアウトしたら少し勉強させておこう。
「行きますね。〔フレイムレーザー〕!」
もはやティニアさんの定番魔法と化した〔フレイムレーザー〕は俺が指定した場所に向かって放たれる。すると海面に火が走り、ある場所で弱まった。
「あそこだね! 二人とも続いて!」
エルジュの掛け声とともに今度は矢が放たれる。特にアクトは使用しておらず、数に物言う物理戦だ。三人による矢の雨が水の中に吸い込まれていく。
その状態が二分ほど続き、とうとうジャンプフィッシュがその名の通りジャンプしながらこちらに突撃してきた。
この場にアリアさんがいたらフライパンのホームランで終わるのだが、今回その役割は三人の矢に任される。
「「「〔ツイスターストライク〕!」」」
三人が同時に発動させたアクトは一見アクトの光に包まれた矢を放ったようにしか見えないが、実際は矢が高速回転しており、その力によって敵を貫通させるというモノ。
それを聞いたとき、思わず「矢のドリル?」と訊いてしまった俺は悪くないと思う。実際三人とも苦笑いだったし。
そして放たれた矢は、時差はあるものの、三本ともジャンプフィッシュに命中しジャンプフィッシュは光の欠片となった。討伐成功だ。
「いい感じだよ二人とも。でもリボンは少しタイミングがずれてるから注意して」
「うん、わかった」
「スワンはアクトに少し威力をつけすぎ。もう少し弓を引く強さを弱めてもいいかも」
「そうですか、気をつけますね」
戦闘と言えるかどうか微妙だが、戦闘後エルジュは二人に指導を始める。なお、エルジュが言った「引く強さ」だが、当然弓は引けば引くほど矢の勢いが増し、強くなる。しかしそれだと弓の耐久値の減りが早くなるので適切な強さが求められる。
「よし、次行こう」
二人への指導が終わったようでエルジュから声をかけられると俺たちは再び足を進める。そうしながらしばし歩いていると水が流れているエリアに入った。
「こうなると見つけるのも一苦労だな」
「ほんと、兄さんの【看破】に感謝だよ」
普通はこの流れのせいで水の中が見にくく、ジャンプフィッシュに不意を突かれてしまうらしいが、【看破】の反応を阻害することはないので楽に進めている。
このまま次の階まで進めるのではと思った俺たちだが、俺があるものを見つけたことで事態は急変する。
「あれ? ここから流れていたのか」
それは壁の一部に空いた穴。そこから水が勢いよく流れていた。
「こういう穴がいくつかあるんだ。ちなみにその中にボタンとかが隠されていることはないから」
「なぜボタン?」
「迷宮、ダンジョンならお約束でしょ?」
確かにトラップもしくは隠しルートの入り口なんかを隠すには絶好の場所だが、いくらなんでもこんなわかりやすい場所に隠すものか? 俺なら流れていく水のちょうど真下とかに……
「へ?」
思わず声をあげてしまう俺。なんと俺が推測した穴から水が流れ落ちていくまさにその場に【看破】が反応しているからだ。
「どうしたの?」
「いや、なんかあるっぽい」
エルジュも驚いた顔をしていることからこれは重要な発見なのかもしれない。俺としては平穏に行きたかったが、それはできない状況になってしまった。
(このままスルーしたいがエルジュの目がキラキラしているから無理だな。もしかしてエルジュを連れてきたのは失敗だったか?)
そんなことを少し考えながら俺を含め全員の視線が下に向けられる。
しかし流れの始点だけあって流れが速く、何があるのかさっぱりわからない。
「エルジュ。CWOって潜れるのか?」
「【水泳】ってスキルはあるよ」
「なら試してみるか」
そう言うや否や俺は空気を吸い込み、顔を水に突っ込んだ。
次回は水曜日22時に投稿できるようがんばります!
改めて、遅れてしまい申し訳ありませんでした!




