第七十四話:要塞遺跡突入
要塞遺跡に入ると進むごとにモンスターが出てくる。
しかし、さすがに一階だけあってたいしたことはなく順調に狩っていく。
「それにしても、こんなところでロックアントを見ることになるなんてな」
「本当ですね」
俺のつぶやきに同じくロックアントを攻撃しているティニアさんが同意する。エルジュ曰く、一階に登場するモンスターは各種族が最初に挑戦できるエリアの敵が出てくるらしく、俺はクエストフィールドにいながら馴染みの敵であるロックアントが出てきてちょっと興奮している。
「さて、そろそろ終わりだと思うよ」
別のところでロックバッファローを狩り終えたエルジュが弓を手入れしながらつぶやく。なお、ロックバッファローは獣人族エリアの敵で、ロックなのは角だけだ。
一応全身が岩のロックバッファローもいるらしいがそちらはレアモンスターということでめったに遭遇しないらしい。
「ここまで倒したモンスターは……次で百体目ですね」
「これで全部だっけ?」
「うん。最後の百体目はゴーレムって決まってるから、打ち合わせ通りにね」
後輩三人が話していると次の角を曲がったところで前方をとうせんぼするかのように立ちふさがるゴーレムを発見する。
ゴーレムなら最初の遺跡でも見たが、それに比べると小さくそこまで脅威には感じない。まあ、最初の遺跡で見なくても、土でできたゴーレムならそれほど脅威には見えないだろう。しかし外見に惑わされてはいけないことはすでに聞いている。
「確か魔法は一切通用しないんだよな?」
「うん。どんな属性の魔法もダメージを与えられなかった。しいて言うなら【土属性上級】の魔法ならちょっとだけ削れたくらい」
そんなわけで前衛が俺とティニアさん。後衛が後輩三人組。そしてアリサさんは支援を担当する布陣にする。アリサさんが支援に回っている理由だが、〝アシュレイ″は鎧を装備しているモンスターに対しては有効なのだが目の前にいるゴーレムは鎧を纏っていない。
それに鎧装備のモンスターが出現するのは三階からなので、序盤は余計なダメージを喰らわないよう控えてもらっているのだ。
「では、行きますか」
「ええ。参りましょう」
戦闘準備が整ったことを確認し、俺とティニアさんがゴーレムに向かう。
ゴーレムは俺に向かって拳で攻撃してくるがやはりゴーレムだけあって行動が遅い。一応【俊足】を使うことも考慮していたのだが、これなら必要なさそうだな。
「まずは一発!」
迫りくる拳をかわし、すれ違うと同時にがら空きの胴体に【杖☆】で覚えたアクト〔クイックスイング〕を叩き込む。
〔クイックスイング〕は攻撃力が低いのだが叩いた後すぐさま次の行動に移せる。装備を新調したとはいえ今でもステータスでは俺が一番低い。だからこそ、俺の戦術は攻撃したらすぐ離脱するしかない。錬金アイテムが使えないのならこれしかないのだ。
一方でティニアさんは〝スカーレットファン″を優雅に振り回す。それはまるで舞いを披露しているようにも見える。もしかしたら実際にこういう舞いがあるのかもしれないな。
そしてお互い攻撃を終えたら次の攻撃は後輩三人による弓の同時攻撃だ。攻撃力重視のエルジュは普通の攻撃、スワンとリボンはスピード重視なのでアクトを用いている。てか、普通の攻撃でもアクトよりも早く届くエルジュの攻撃はどうなってるんだ?
「アルケさん!」
俺が思考している間にも当然戦闘は継続しているわけで、ティニアさんが俺に忠告を飛ばし、それに気づいた俺はとっさに左に跳躍する。次の瞬間巨大な拳が俺が立っていた場所を叩いた。
「助かりました!」
「気をつけてくださいね!」
少し怒気をこもった声で告げるティニアさん。
確かに考えることは後でもできる。今やることはこのゴーレムを倒すこと!
思考を完全に戦闘に集中し、再びゴーレムに向かう。
そして戦うこと十分足らずでようやくゴーレムを倒すことができた。
「まったく! 兄さんは!」
「まあまあ、エルジュちゃん。アルケさんも反省しているから、ね?」
二階へと続く階段を壁に現れた矢印に従って進んでいる中エルジュは先ほどの俺の戦闘に怒りを表している。その戦闘とは当然ティニアさんの忠告が飛んできたあの場面だ。
「次からは気をつけるから、な?」
「次からではなく今後は絶対にしてほしんですけど」
「はい、すいません」
エルジュをなだめようとするとティニアさんからも叱られてしまった。それを見てくすくす笑うアリサさん。これはなんとかして挽回するしかないな。
「あ、階段が見えましたよ」
リボンの言う通り先に階段が見える。その階段に上がる前にエルジュから次の階の情報を教えてもらう。
「えっと、二階はさっき戦ったゴーレムの劣化版が出てくる階だね」
「劣化版とは?」
「さっきのゴーレムと外見はほぼ同じ。でも戦闘力は半分~七割くらい」
「となると、さっきと同じ布陣で大丈夫だな」
「兄さんが油断さえしなければね」
……気をつけよう、マジで。
一階よりも集中していたこともあって二階も特に被害なく突破でき、今は三階に上がるための階段付近にいる。
「次の階からいよいよアリサさんにも活躍してもらうことになりますね」
「待ってました!」
「でも大丈夫ですかアリサ? まだ〝アシュレイ″使いこなせてないみたいですけど」
「そこは大丈夫。万が一に備えての対策もあるし」
はて? 対策なんて聞いてないが?
「もしかして、アレですか?」
「そ。実は姉さんから教えてもらっていたんだ」
アリアさんから教わった? 会話の内容が理解できないが、同じく理解できなかったエルジュが二人に訊ねる。
「対策って何ですか?」
「自身に電気を浴びさせて一時的に早く動けるようにするの。それなら攻撃を当てる機会も増えるでしょ」
ああ、確かにアリアさんが使ってましたね。フライパンに。
「それって〔ボルティックアーマー〕ですか? 【雷属性上級】の?」
「客人の方にも似たような魔法が使えるの? これは単純に雷を纏っているだけなので魔法名とかはないわ」
「……よく感電しませんね」
「普通の妖精族ならきついかもしれないけど、ハイフェアリーである私は常に魔力光があるから同じ要領で結構簡単にできたよ」
なるほど。確かに常に魔力光があるアリサさんなら問題な……普通の妖精族であるアリアさんはどうやって習得したんだ?
「アリアさんも魔法がお得意なんですか?」
「いいえ。アリア姉さまは毒草、この場合状態以上を与える草全般のことですが、その効果を武器に付与することができます。様々な草に精通しているアリア姉さまだからこそできる技とも言えますが」
ティニアさんの言葉を聞いて思い出すのは雷撃をまとったフライパンを振り回すアリアさんの姿。……これ以上思い出すのはやめておこう。
同じことを想像したのかスワンとリボンも苦笑いを浮かべており、その顔を見てるエルジュは困惑の表情を浮かべている。
「……ところで三階で注意する敵はいるか!?」
「なんで兄さんそんなに必死なの?」
「いや、単に気になっただけで深い意味はないぞ?」
「……まあ、いっか」
その後エルジュから三階に登場するモンスター、つい先ほど倒したゴーレムやいよいよ登場する鎧装備のモンスターについて説明が始まる。
鎧装備のモンスターはリザードマンやボーンナイトだ。リザードマンは尻尾の攻撃に、ボーンナイトは盾も持っているのでそれに注意するようにと言われた。
それに対して全員うなづくとエルジュはさらに口を開いた。
では、また水曜日にお会いしましょう。




