第七十三話:最後の遺跡
前話において宝珠のことをジュエムと表記したのですが、感想コメントにて「ジュエルじゃないのか?」という質問がありました。
この小説の中ではジュエル=宝石という扱いなので一緒の単語を使うわけにはいかず、『ジュエル』から丸みに聞こえる『ム』の音を入れ、ジュエムと名付けています。
誤解を招くような書き方をしてしまい、申し訳ありませんでした。
装備を確認しているときにあることを思い出し、もう一度オウルの店を訪ねる。
「なんだ? 忘れ物か?」
「いや、先ほど言ってた宝珠ってなんだ? そんなアイテム聞いたことないぞ」
「申し訳ないが、宝珠っていうのはまだこの世界が他の種族と一緒に住んでいた頃の産物ということしか知らん」
オウルの言葉通りだとオーパーツということか。となると情報を探すのが大変そうだな。
というか、それ関連のレシピってたいていの場合面倒なクエストの報酬って可能性が高い。どうやって入手すればいいんだろう。
「そうか。ありがとう」
「こちらでも情報を探してみようか?」
「それもありがたいが、こっちとしてこれの完成品が早くみたいな」
俺は着込んでいるヴィリディアメイルを指す。それに対してオウルは「任せておけ!」と親指を立てた。
転移泉に戻ってくるとさっそくエルジュが突っ込んできた。まあこの反応は二回目なので突撃してきたエルジュを抱くように受け止める。
「何この装備!? 素材は!? 入手経路は!?」
「とりあえず落ち着け」
目がキラキラしているエルジュの頭をチョップして黙らせる。
「遅くなってすまない。それじゃ行こうか」
「わかりました」
「はい」
「やりますか!」
「今日もがんばりましょう」
「よろしくね」
前々から思っていたんだが、こういう時の掛け声決めておいたほうがいいのかな。
エルジュも最後にダイブアウトしたのが北の集落だったので互いに場所を教え合った結果、人数が多いということでこっちの宿屋に集合することになった。
そのため、エルジュは先にクエストフィールドに転移している。
「そういえば二人は近接戦闘用の装備持ってきました?」
今回挑戦する要塞遺跡は守りに特化しているモンスターばかりのため、当然魔法抵抗力が高いモンスターも登場する。そうなると魔法が通用しない場合もあるためティニアさんとアリサさんの二人には念のため近接用装備を持参してもらうようお願いしておいた。
こういう時にアリアさんがいないのは痛いな。おそらくあの凶器ならまさしく最強の一撃になっただろうに。
「もちろんです。私はこれを」
微笑みながらティニアさんは袖から扇子を取り出した。一見するとただの扇子だが当然そのはずがない。
「もしかして鉄扇ってやつですか?」
「テッセン? アルケさんの世界にも似たような扇があるのですか?」
「え? 違うのですか?」
「ええ。これは〝スカーレットファン″と言います。よかったら診てみますか?」
ティニアさんが俺に向かって〝スカーレットファン″を差し出してきたので受け取り、【看破】を発動させる。
〝スカーレットファン″・特殊近接用武器・Sp
秘伝の方法で作られた扇。普通の扇と同じくらいの重さながら玉鋼よりも固いため、相手を切り裂くことも可能。
【火属性攻撃強化・大】
*付属アクト*
〔緋色炎舞〕30%の確率で相手を【炎上】させる。
さすがはティニアさんというべきか。そしてさらっと説明文に出てきている玉鋼は日本刀にも使用されていると聞いたことがある。
つまり、玉鋼があれば日本刀を作ることもできるかもしれないな。いや、もしかしたら調合でもできるかもしれないな。
……そういえば上様からもらった物、まだ確認してないな。
「あの~?」
じっと見つめすぎていたようでティニアさんから疑惑の声が上がり、慌てて謝罪しながら〝スカーレットファン″を返す。これならティニアさんのほうは問題ないな。
「私はこれを」
続いてアリサさんが見せてくれたのは細長い剣、いわゆるレイピアというやつだ。
「これは〝アシュレイ″。ちょっと特殊な石を使ってるから強度はすごいのよ。はい」
アリサさんも〝アシュレイ″と呼んだ剣を俺に差し出すため一旦ベルトから外した。今更だが〝アシュレイ″を装備しているため、アリサさんも今日はベルトを巻いている。
そして〝アシュレイ″のほうだが、これもやはりすごかった。
〝アシュレイ″・剣・HR
特殊な鋼から作られた細剣。その鋭い切っ先にかかればどんな鎧でも貫通する。
【貫通強化】鎧を装備している敵に近接攻撃が当たった時、敵の防御を半分にしてダメージを与える。
要塞遺跡に登場するモンスター相手にはこれこそ最強の装備だ。フライパンなんて目じゃないぞ、これ。
「こんなすごいもの、なんで今まで使わなかったんですか?」
「実はそれパロン様の武器なんです。今回の話をしたときに貸してくれたんです」
なるほど。パロンさんが持っているなら納得できる性能だ。特殊な鋼が何なのか気になるが、機会があればぜひ教えてもらおう。教えてくれればだが。
「それじゃ、今度こそ行きますか」
「そうですね。空、じゃなかったエルジュもそろそろ着いているころでしょうし」
「では、出発!」
リボンの声で全員が転移泉に集まり、俺たちはクエストフィールドへと転移する。
着いた先は泊まっている宿屋でさっそく外に出るとすでにエルジュが待っていた。
「装備とか大丈夫か?」
「もちろん! いつでも準備はばっちりだよ!」
たったそれだけで頼りになると思わせるのはさすがトッププレイヤーだ。その力を現実でも発揮してほしいと思うのは兄だからだろうか。
「そうだ。ここ最近何かあったの?」
「どういうことだ?」
「ここに来る途中、プレイヤー同士が言い合っているのを見かけたんだけど?」
昨日までそんな事態には遭遇していない。となると昨日ダイブアウトしてから何かがあったと思うのだが、まあ俺たちには関係ないだろうということで無視して要塞遺跡に向かうことにした。
要塞遺跡に向かっているとモンスターがだんだん固くなってきた。どうやら要塞遺跡に近づくごとにモンスターの防御力が高くなり、遺跡の中で一番固くなる仕様のようだ。
「しかし、その弓すごいね」
エルジュが視線を向けているのはスワンが握っている〝鋭羽弓″とリボンが背負っている〝フェザーチュリー″だ。同じ弓使いとしてはやはり気になるのだろう。
しかし、エルジュの戦闘スタイルは攻撃力に物言わせる完全攻撃型だからどちらとも相性が悪い。
そしてティニアさんとアリサさんだが、ティニアさんのほうは特に問題なし。久しぶりに使う武器ということで最初は攻撃が当たらないこともあったが今は安定している。
一方アリサさんだが、こちらはちょっと問題となっている。
普段魔法専門だからあまり武器を使う機会がなかったため、攻撃が当たらないことが多い。遺跡の中ということで攻撃できる範囲が小さいことを祈るしかないな。攻撃範囲が小さくなれば何度か攻撃すれば当たりやすくなるからな。
「そろそろ見えてくる頃ですね」
そんなことを考えているとティニアさんから指摘があり、その言葉通り10分後には要塞遺跡に到着した。
要塞遺跡はダンジョン遺跡と真逆で最上階である八階を目指していく。その攻略法だが『階層に登場するすべてのモンスターを倒す』だけだ。
全て倒すと壁に矢印が出現し、その先に階段が出現しているという仕組みとなっている。
全て倒さなければならないという条件のせいで実はこの要塞遺跡が一番難しいと言うプレイヤーも多い。それほどここのモンスターは固いのだ。
「さて今回の作戦だが、いつもどおり俺が盾役……と言いたいが」
「兄さんの想像通り。ここのモンスター相手に盾は必要ないよ」
エルジュの言葉で俺は自分の想像が正しいことを知る。つまり、ここに現れる敵は防御こそ固いが、攻撃力は大したことがない。
「となると、出てくるモンスターによって臨機応変に対応するしかないか」
「普通に防御力が高いモンスターの場合は魔法で、魔法抵抗力が高いモンスターの場合は武器で、ですね」
基本方針を決めたところで全員装備を確認する。俺も〝錬金術師の杖″を〝ガーディロッド″に変更し、盾もアイテムボックスに戻す。
装備を確認したところで遺跡の入り口に向かう。
さあ、最後の遺跡への挑戦だ!
次回も水曜日投稿がんばります。
*補足説明*
【炎上】:切り口から炎が燃え上がり、全身に広がって5秒間ダメージをくらい身動きが取れなくなる。
相手がモンスターで植物属性の場合、10%の確率で一撃で殺す。
相手がプレイヤーの場合、5%の確率で木製の装備を【完全破壊】する。




