第七十二話:新装備
「よう、来たか」
オウルの店に入るとまるで待ち構えていたかのようにオウルが立っていた。
「待たせたか?」
「いや、そろそろ来る頃じゃないかと思っただけだ。まさかのタイミングでこっちのほうが驚いてる」
よく見ると苦笑交じりの表情に見えることから、どうやら本当に偶然だったようだ。
「それで、新しい鎧はできたのか?」
「ああ。前よりもかなり高性能なヤツがな」
一転して自信満々の笑みを浮かべる。その様子から本当に高性能なんだろう。なんだかワクワクしてきた。子供のころ新発売のおもちゃを買ってもらう時の心境によく似てる。
オウルは一度奥に行くと鎧一式をカウンターに置いた。
どうやら以前のような皮鎧ではなく鎖をつないだチェーンメイルで、主に緑色なことからベースは翡翠のようだな。
そして少し黒みがかった白い装飾が鎧全体に施されていることからこの鎧も魔方陣を組み込んでいることが予想できる。
オウルから許可をもらって【看破】を発動させる。最もこの鎧は俺のものになるからわざわざ許可を取る必要はないのだが。
〝ヴィリディアメイル一式″・防具・R
頭部以外の全て一式で扱われるチェーンメイル。魔法陣込み。
【防御力向上・中】【重量軽減・小】
【同色化】:周りが緑系の自然物で構築されている場合、相手の攻撃が当たりにくくなる。
確かに高性能だ。それ故に気になる点がいくつかある。
「この【重量軽減・小】が今回の魔法陣の効果か?」
「ああ。それはお前さんからもらった鉄とメノウのインゴットを混ぜたもので作ってる。どうやらメノウは混ぜる媒体によって能力を変化させる特性があるみたいだな」
それは驚きの情報だ。となると今後も必要になりそうだな。
「あと、なんでこれでランクRなんだ?」
「それは……なんて言うか……」
急に歯切れが悪くなるオウル。どうしたのか疑問に思っていると急に頭を下げられた。
「は?」
「すまん! それまだ完成品じゃないんだ!」
「へ?」
これで完成品じゃない? 冗談だろ?
「実は、それが完成したのは今朝でな。正直間に合うかどうか微妙だったんだ」
CWO的な時刻だともうすぐお昼だ。そうなると確かにぎりぎりだなって問題はそこじゃない。
「実はまだメノウの最適調合が何か判明していないんだ」
「最適調合?」
「これまでの俺の経験からの勘なんだが、おそらくその【重量軽減】はもっと効果が高いはずなんだ」
つまり、小ではないというだろうか?
俺の表情から俺が考えていることを察知したオウルが頭を縦に振る。
「本当ならそんな未完成品を客に出すのは俺の鍛冶師としてのプライドが許さない。だが、お前さんにも時間がないだろ?」
「そうだな……」
クエスト終了までもうわずかということを考えると厳しいのは事実だ。
オウルの顔を見ると本当に悔しそうな顔をしている。
「だから、これは未完成品を渡してしまった償いだ。受け取ってくれ」
オウルはカウンターに戻り、引出しをあけると一本の短剣を取り出した。長さは普通の短剣より短いからおそらくナイフの類だろう。
しかし、それ以上に目を見張るのは刃と柄の間、つまりは鍔に当たる部分に埋め込まれた宝石のようなものだ。
オウルが俺に差し出したので受け取り、その能力を確認する。
〝リゥムダガー″・ナイフ・Sp
【投擲】専用のダガー。埋め込まれたポータジュエムの効果で手元に自動で戻ってくる。
*スキル【投擲】付属*
「はあ!?」
思わず大声をあげてしまうがこれはしょうがないだろう。間違いなくお詫び程度でもらうには破格の性能だ。
「何考えてんだ!?」
「そう思うだろうが、ちゃんと理由はある」
「理由?」
「それは俺がまだ見習いだったころ師匠にいつも剣のメンテを頼んでいたある戦士がいてな、その人が相棒としていた武器なんだ。
そして俺が独り立ちするときにその戦士が引退するからってくれたモノなんだ」
「そんな貴重なモノ、なおさら貰えないぞ」
「いや、お前にもらってほしい。そして、そいつをもう一度輝かせてほしい」
「輝く?」
「武器は使ってこそ、その価値がある。部屋に飾ったり儀式で使う武器もあるが、やはり武器の本質は戦うための道具だ。
だけど、俺は戦闘にかんしては全く駄目だ。だからこそ、お前に託したい」
気持ちはわかるし、俺を選んでもらったのはとてもうれしい。しかし、俺もそこまで戦闘をするわけじゃない。俺はあくまで錬金術を極めたいだけだ。
「だったらミシェルとか他にいるだろ?」
「確かにそれも考えた。だけどな、そのダガー、よく見てくれ」
オウルの言葉に従い再びダガーに視線を落とすが、特に変わったところは見られない。
「……やはりまだわからないか」
「どういう意味だ?」
オウルは一旦ダガーを手に取ると丁寧にカバーに入れる。カバーも年季が入ってるように見えるからおそらくカバーごと渡してもらったのだろう。
「これはその戦士から聞いたんだが、このダガーは【鍛冶】だけで作られていない」
「……すまない。何が言いたいか全くわからない」
するとオウルは笑みを浮かべる。それは答えを知った後で俺が驚くのを確信しているような笑みだ。
そしてその予測は当たっていた。
「このダガーを作る元になったインゴットや埋め込まれている宝珠は……どちらも【錬金術】で生み出されたものだと言っていた」
「!?」
驚愕し、ダガーを見つめる俺。つまり、これはまだ俺が到達できない高み、その一つの完成品だということだ。
「これを未完成品の鎧を渡すお詫びとしてお前に授ける。ただし、いつか俺の手で同じモノ、いやそれ以上のモノを作れるよう、協力してくれ」
「……それ、お詫びになるのか?」
俺の問いに、オウルは先ほどと同じ笑みを浮かべる。
「お前が目指す道標を提供することが一番の詫びになるとは思わないか?」
その一言で俺は降参だった。確かにこれは最高のお詫びだ。
「わかった。このダガーはありがたく受け取る。そしていつかこれを上回る性能を持つダガーを作れるインゴットを提供するよ」
〝ヴィリディアメイル一式″と〝リゥムダガー″をアイテムボックスにしまい、さっそく〝ヴィリディアメイル一式″を装備する。
一瞬俺の身体が光に包まれ、光が晴れたのを確認してから店に置いてある姿見を見ると、そこには緑色に彩られた鎧を着こなした俺の姿がある。
「あと、これはおまけだ」
オウルが投げてきたのは腰に巻くベルト。これも緑色に彩られている。
そしてこのベルトは背中にホルスターのような収納スペースが左右どちらにも付いていた。
「さすがだ」
俺は利き手である右のホルスターに〝リゥムダガー″を差し込む。まるでそれに合うように、いや間違いなくそのために作られたため、すんなりと入る。
左側は空いたままだが、これに関しては後で考えることにしよう。
「似合ってるぜ」
「ありがとな」
新しい装備を身にまとい、俺は店を出る。
転移泉に戻る間にどうせならと他の装備も確認しておく。
(メインの武器は今のところ〝錬金術師の杖″でいいだろう。〝ガーディロッド″は扱いを練習してからだな。サブ武器は〝リゥムダガー″を手に入れたけど、これも要練習だからやっぱり〝清緑の盾″だな)
なお、頭部については何も装備しない。昔から何かを被るのは苦手で帽子ですらなんか違うと思ってしまうからだ。
(後は……アクセサリー枠か。〝調合石のストラップ″は外せないし、〝チャーム・ロッド″も装備していたほうがいい。となるとあと枠は一つだが……)
そこまで考えてあるアイテムを思い出す。そしてそのアイテムを見つけ最後のアクセサリー枠に入れる。
すると右手の薬指に青色に光る石が埋め込まれた指輪が現れた。
(どういう効果かわからないけど、せっかく貰ったんだからな)
俺はもう一度装備一覧を確認し、再び転移泉に向かって歩き出した。
〝パルティリング″・アクセサリー・-
パルセードが落としたリング。
【??】:??
パルティリングの??はまだ解放されていないため公開できませんし、質問にも答えられません。ただ一つ言えるのは、付属されているスキルは皆さんが待ち望んでいたモノだということです。
次回も水曜日投稿目指してがんばります。




