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VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第二章:新たな力
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第六十九話:防具を求めて

今回は何とか間に合いました。ネタの神よ、私にネタを!

「よもやこれほどまでとは」


穏やかな表情のまま上様は口を開く。こっちはもう特攻しかないのでこれ以上隠し玉があるとまさにゲームオーバーだ。


しかし、俺の予想は裏切られることになった。


「失礼します」


突如俺と上様の間に、こちらに背を向けるように頭を下げ片膝を地に着ける姿勢で現れる。


「どうした?」


突然の乱入に上様の声に怒気が混ざっているように聞こえる。よく見れば柄に握られた手に力が入っているようにも見える。


「無粋なことをしてしまい、申し訳ありません。しかし、彼らの本陣を見つめましたので急ぎご連絡に参りました」

「ほう、それは真か?」

「間違いございません」

「よし。ならばすぐにでも参るとしよう」

「御意」


現れた時と同様に忍者の姿が消える。今更だけど上級で現れる忍者って彼のことだよな。

……さすがにないと思いたいが、もしあのスピードで敵として現れたら勝つの絶対無理じゃね?


「申し訳ないな、強き者よ。こちらの至急の用事ができたためこれで失礼する。その代わりになるかはわからぬがこれを其方に授けよう」


上様が手を振ると上空から錆びた剣が落ちてきた。これで残るは盾だけだ。


「そういえば、お主実は作る側の人間だな?」

「はい?」

「お主の攻撃には覇気を感じなかった。つまり、争い事はあまりしないのではないか?」

「えっと、はい。その通りです」


なんだこの質問? こんなの掲示板には書かれてなかったぞ?


「そうか。それでよくぞここまで戦った。これはその餞別だ」


すると上様は懐から何かが入った袋を俺に向けて投げた。受け取った感じだと相当軽いな。


「では、さらばだ!」


困惑する俺を無視し上様は手を挙げる。すると上様の後方から赤い手綱と鞍が特徴の白馬が現れる。白馬は上様に向かって走り、その横を通過する直前、上様は軽やかな動きで白馬にまたがる。そして左に方向転換し、そのまま走っていく。


「ってそっちは壁!」


俺の叫び度同時に上様が光の壁に到達するがまるで壁などなかったかのように走り抜け、やがて光の壁は消え、上様の姿も消えていた。


それを認識した瞬間、俺の前に『CLEAR!』のウィンドウが表示され、無事にダンジョン遺跡を突破したことを確認する。


「えっと、終わったんですか?」


俺が呆然と立っているのを不思議に思ったスワンが訊いてきたのでうなづくと全員が安堵のため息をつく。


こうして、俺たちはダンジョン遺跡を一発クリアすることに成功した。






さすがに疲れたので今日はこれまでとクエストフィールドから移動して全員と別れ、俺はアトリエに向かう。いつもなら戻ったらすぐダイブアウトするのだが、今回はそういうわけにはいかない。


アトリエに戻り、これまで作成した錬金アイテムの中から必要なものを選別していく。その様子をエイミさんが不思議そうに見つめてくる。


「どうかしましたか?」

「いえ。なんかいつもと違って見えるなと思ってしまって」


それに対してどう返そうか考えていると調合を終えたセリムさんがボソッと「装備壊れてる」と呟く。それを聞いてようやくエイミさんも気づいたようだ。


「そういえば旧式とはいえ三番隊の防具を身に着けてましたね。どうりでアルケさんとは思えなかったわけです」

「どういう意味です?」

「普通勤務以外であの防具を見つけている人は極わずかですから」


言われてみればミシェル以外の人で非番でもあの鎧を着ている人見たことないな。まあ、ある意味当然か。会社員が休みの日でもスーツ着ているようなものだもんな。


「なるほど。実際今日の冒険で完全に壊れてしまいましてね。そこでこれまで作ってきたインゴットで新しい防具を作ってもらおうと思いまして」

「造ってもらう? 【錬金術】では作れないのですか?」


その質問には答えられず、セリムさんに視線を向ける。当然エイミさんの視線もセリムさんに向けられる。


「【錬金術】でも作れることは可能。でも、まだまだ」


その指が俺を指していることから俺の【錬金術】ではまだレベルが足りないということだ。ということは最低でも次のランクにならないとダメっぽいな。


「まあ、元から頼むつもりだったから問題ないですよ」


一応備蓄してあった中から上質なものを選び、アイテムボックスに入れていく。そしてアトリエを出てからふと思う。


(シュリちゃんに〝翡翠の盾″を直してもらうついでに他の防具もお願いしようと思ったけど、あれってオウルからもらったんだよな。しかも元はミシェルが使ってたやつだ。やっぱり一度謝罪しなくちゃいけないよな)


俺は転移泉に向けていた足を逆方向に向けて歩き出した。







「ほう、やはり壊れたか。」


オウルさんが〝フェアリーガード正式装備(旧式)″の残骸を見てうなづく。思ったよりショックが大きくない、というか全然驚いてない?


「ここ最近のお前さんの活躍はミシェルや他の隊員からも聞いておる。そろそろその実力と装備が合わなくなるだろうと思っていたからの」


ミシェルはともかく、他の隊員からの情報か。いったいどんなことを言われているのやら。怖いから深く追及するのはやめておこう。


「それで、どうする?」


その言葉から“修繕して使うのか?”という風に感じたので俺は頭を横に振る。

そして持ってきた〝鉄″のインゴットを出して「これで新しいのを創ってほしい」とお願いする。


「どれ? ほうほう。これも【錬金術】か?」

「ええ、まあ」

「普段使ってるものよりも質がいいの。これはまだあるのか?」


訊かれたので今ある分よりも少し少なめに告げる。言わなかった分はこの後〝翡翠の盾″の修復用に使うやつだ。


「なら、それ全部置いてけ。いや待て。他にもあるのか?」


その質問に〝翡翠″のインゴットともう一つのインゴットも見せる。他にもインゴットは作っているが質がUCのものばかりなのでアトリエに置いてきた。

ちなみに、もう一つのインゴットは〝メノウ″というインゴットだ。



〝メノウ″・インゴット・R

色鮮やかなインゴット。主に芸術品に加工される。



「〝メノウ″か」


オウルは俺が出した〝メノウ″のインゴットを真剣に見つめる。正直これは使い道がわからず、今まで放置していたものだ。見た目きれいだからシュリちゃんにプレゼントしようと思ったんだけど、オウル妙に注意して見てるな。確かにランクRは貴重かもしれないけど、所詮加工品になるしか使い道がないはずなんだけど。


「ふむ。これならいけるか?」

「なんだ。これがどうかしたのか?」

「……お前さんならいいか。実はこの〝メノウ″なんだが、少し前に加工に失敗しての。別の作品に使う予定の塗料が混じってしまったのじゃ」


あらら。それじゃまさに使い物にならないな。せっかくきれいな色してるのにもったいない。


「しかし、それを処分しようとしたときに妙な感覚があっての。調べてみたら本来ならない性質を持っていたのじゃ」

「つまり、塗料の成分が混じって別のものになったと?」

「わしはそう考えておる。しかし〝メノウ″はなかなか出回らなくての。実験してみたいが在庫がないのじゃ」

「それなら余っている〝メノウ″使ってみるか? こっちも処分に困っていたし」

「いいのか!? それは助かるわい。 とりあえず新しい防具は整えてやる。代金は〝メノウ″と引き換えで構わぬ」

「それは助かる。それとは別に今すぐ着れる防具はあるかい?」

「そういえばそうじゃの。ちょっと待っておれ」


一旦奥に入り、戻ってきたオウルは鎧ではなく胸当てや籠手など全体ではなく部分を守る防具をいくつか持ってきてくれた。


「明日も使うのじゃろ? とりあえずこれでも着けておれ」


その場で装備してみると〝フェアリーガード正式装備(旧式)″には劣るがまあ、今はこれで納得しておく。

今の時間を確認して明日ダイブするころにはCWOの中ではすでに二日が経過している。それだけあれば新しい防具ができてるかもしれない。


もしまだならシュリちゃんの店で一式買うことにしよう。

なら最初からそうすればいいのかもしれないが、〝メノウ″の新たな可能性に期待してみたいのだ。


こうして防具のことはひとまずお願いし、俺はシュリちゃんがいるドワーフ族エリアに転移するために転移泉に向かって足を進めた。

次回も水曜日投稿がんばります。

なお、上様の登場は今後予定しておりません。

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