第六十八話:残されし希望
いつもよりも一時間も遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
さて、エキストラステージ“一騎打ち”の説明のために一旦みんなのところに戻る。
そしてティニアさんから一発殴られました。炎は消してくれたけど保護用に強化されていたので地味に痛い。
「しかし、“一騎打ち”ですか」
「雰囲気的にはあってるけど、どうしますか?」
とりあえずリボンの雰囲気には激しく同意だ。個人的にも一騎打ちに挑戦してみたいと思っている。
しかし、目的はダンジョン遺跡の一発クリアなのでここは全員での攻撃を取るべきだろう。“一騎打ち”は時間が余っていれば挑戦すればいい。
……と考えていたらいつの間にか俺以外のメンバーで話し合いが終わっていた。
「というわけで、がんばってねアルケさん」
「え、“一騎打ち”でいくの?」
「……もしかして聞いてませんでした?」
アリアさん。その笑顔がすごく怖いです。よく見ればティニアさんとアリサさんが抱き合って震えてますよ。
謝って女性陣で話していた内容を聞くと『全員で戦闘しても結局最後は魔法が通用しなくなるため、ならば一騎打ちになっても大して変化はないのでは』という結論になったらしい。
そういうわけでアリアさんの回復薬でHPを全快し、ティニアさんとアリサさんにスピードや防御力などのパラメーター上昇系補助魔法をかけてもらう。なお、その補助魔法はスキル一覧にもあったので内容は問題ない。
まあ、一番の問題は果たして俺だけで倒せるかということなのだが。
再び上様のもとに近づき、YESをタップする。
すると部屋の中が光の壁で途切られる。つまり、この中が一騎打ちの状態でのフィールドとなるわけか。目算だが部屋全体の半分かそれより少し大きいくらい。“一騎打ち”を選択できるのは戦士系だけではないので魔法を放てる大きさも必要ということだろう。
「ほう、一騎打ちを望むか。それでこそ若者というものだ」
笑みを浮かべる上様。しかしその眼は全く笑っていない。間違いなく獲物を追い詰める肉食獣の目だ。
(早まったか?)
思わずそんなことを思ってしまうくらいに鋭い視線を感じていると上様が刀を構える。どうやら「READY FIGHT!」みたいな開始宣言はないようだ。
状況的にどう考えてもこっちが圧倒的に不利。いくらパラメーターを上昇させても巣の値が低いからまさにサポート的な役割でしかない。
つまり、取れる戦法は一つ。上様が油断している今の状態で一気に攻める短期決戦だ。実際長期戦になったらこちらに勝機はない。
「というわけで、一気にいきますよ!」
まずはあいさつ代わりのフレイムボム、ただし三連投。これをどうするかでこの後の戦闘の流れが変わる。
避けるのであれば一気に追い詰める。まさかとは思うが投げ返してくるのなら盾を構えての突撃。
そして上様の行動はある意味一番期待していた刀での破壊だ。
当然刀による振動で爆発し、広範囲のため他の二つも爆発して上様の視界を奪う。その間にお決まりのレインティアとライジンディスクのコンボを仕掛ける。いつもと違うのは自分の手前ではなくどちらも投げることで上様の近くに設置することだ。
煙が晴れてきたので俺の姿をとらえた上様が突撃してくる。しかしその攻撃は例のコンボで強制的に止められ、さらに盾を構えながら接近し、フレイムボムの攻撃も加える。
一旦はこれが続く限りこの攻撃を繰り返す。この戦闘だけで在庫の錬金アイテムが使い切ってしまうかもしれないが、これまでの冒険でこのクエストフィールドにも魔力石があることは確認していたので問題ない。
さて、コンボを続けること8回くらいだろうか。こっちの在庫はほぼ使い切り、残っているのはレインティア1個とライジンディスク3枚、そしてグレンダイムが4個だ。フレイムボムはすでに使い切った。
途中で上様がこちらの攻撃パターンに気づいたようでフレイムボムを切ることをしなくなったため、あえてこちらから突撃することで接近し、至近距離での爆発による煙発生で視界をつぶすことにした。当然こっちもダメージを受けるがそこはアリサさんの回復魔法で何とかしのぐ。それでも厳しいときは光の壁限界まで体を預け、アリアさんに回復薬を投げてもらう。どうやら回復関係のアイテムならこの壁を超えることができるようだ。
アイテムを使い切ったらあとは最初の“盾で防ぎ、杖で殴る”戦法に切り替える。“一騎打ち”をしてから気づいたのだが、上様の攻撃がさっきよりも弱くなっている。どうやら上様のステータスは相手をするメンバーで強さが変動するようだ。でなければいくらアイテムを使いまくってるとはいえ戦闘経験が乏しい俺がここまで戦えるわけがない。
それに関しては運営に感謝し、じわじわとお互いにHPを削っていく。それでも上様から与えられる攻撃のほうが強いので、現状三回攻撃していったん退避をし、HPが4割以下になったら無理せず離れ回復するという流れになっている。
なお、上様は一度も回復行為をしていない。さすがです上様。
おそらく“一騎打ち”を始めてからすでに二十分、いや三十分は経っているだろう。ここでとうとう恐れていたことが発生する。
上様の攻撃により〝翡翠の盾″の上部にヒビが入った。これは耐久値の値が0に近づいている証拠だ。あと数回上様の攻撃を受けたら間違いなく耐久値が限界を迎え壊れてしまう。そうなれば俺は防御手段をなくなるため負けることは間違いない。
となれば切り札を使うしかない。これまでの攻撃から上様の連撃にもいくつかのパターンがあることは見抜いている。俺は切り札、グレンダイムを握りしめ〝翡翠の盾″をしっかり構える。正直グレンダイムの爆風によって〝翡翠の盾″が崩壊する可能性もあるが、これしか手段がないのも事実だ。
俺の決意を感じたのか上様は刀を右肩に近づけ切っ先を天に向ける。おなじみの殺陣シーンに入る前、柄を回す時と同じ体勢だ。
一瞬お互いの視線が交差する。深く深呼吸をし、俺は上様に向かって突撃する。
上様は姿勢を崩さずそのまま俺を待ち受ける。
とうとう上様の刀の範囲内に入った瞬間、連撃が襲い掛かってくる。それによって〝翡翠の盾″のヒビが全体に広がっていくが何とか持ちこたえてくれている。しかもこの連撃は数少ない見抜いた動作の一つだったので時々攻撃を受け流すように盾を動かし、少しでも耐久値を残す。
上様の連撃VS〝翡翠の盾″の耐久値はなんとかこっちに軍配が上がり、俺はグレンダイムを投げようと右腕を後方に動かす。
しかしそんな俺に上様は微笑むと最後の攻撃として振り下ろした刀の柄の底を叩き、刀を回転させ柄を握り直し、さらに体を回転させた。このままでは無防備になっている右側から回転してきた刀によって俺の上半身は切られる。
とっさに盾を動かすも上様の速さに追いつけず、刀の刃が脇腹に触れる。
その瞬間、俺の体を光が包む。しかしそれは死んだときのエフェクトではなく耐久値が無くなったときに起こるモノ。
その正体は〝フェアリーガード正式装備(旧式)″だった。
小さな光の玉が俺の全身から発生し、俺の姿はインナー装備だけになる。
突然の事態に驚いた上様が刀を止める。それによって俺のHPはぎりぎりで持ちこたえた。その隙を逃がしてはならないとグレンダイムを上様の顔面に押し付ける。
それによって発生する大爆発。上様は爆発を直接受け、俺はなんとか〝翡翠の盾″で直撃を防ぐ。しかしグレンダイムの威力はすさまじく、何回か床を転がった後、〝翡翠の盾″も同様に光へと変わってしまった。
これでこっちは完全に丸腰。残る手段はまさに特攻だけと理解したところで俺の耳に響くキンという甲高い音。
晴れた爆風の先で上様が刀をしまい、穏やかな笑みで俺を見つめていた。
次回も水曜日に投稿します。今度は時間を守れるように頑張ります。




