第六十五話:ボス前のリラックス
ボス前のインターバル。
出現した階段を下りて九階に到着。
この階はボス前ということで休憩ステージとなっている。休憩ステージと言っても回復アイテムが置いてあるとか、HPを回復する施設があるわけではなく、敵が全く登場しないステージなのだ。それでも休憩用の机や椅子、飲み放題の水が置いてある。
ここだけは全ての入口と共通しているため、多くのプレイヤーが休んでいる。
なお、ここでのアイテムの売買や交換は禁止されている。
その代わり、あることができる。
「何この状況?」
「何なんでしょうね」
「まあ、聞いてた話には間違いないでしょうけど……」
「すいません。すいません。本当にすいません」
俺とスワン・リボンの三人が困惑している中一人謝り続けるアリアさん。
その原因はパーティーメンバーであるティニアさんとアリサさんだ。
「ええい、面倒ね! 〔ボルカティックバースト〕!」
「「ギャー!」」
「おい!? 今の【火属性上級】の中でも最強のアクトじゃないか!?」
「一体何なんだこのNPC二人!?」
「よそ見している余裕はないわよ! 〔テンペスト〕!」
「「グワー!」」
「今のも【雷属性上級】のアクトか!?」
「いや、あんなアクト知らないぞ!?」
「まさかさらに上の【雷属性特級】のアクト!?」
この時点ですでに分かると思うが、以前スワンとリボンの弓を強化する際に行っていたティニアさん&アリサさんのタッグマッチバトルがまたしても行われているのだ。
実は以前行われたタッグバトルの様子が掲示板で話題になっていたらしく、ここに降りてきた時にすでに休んでいたプレイヤーたちから模擬戦を申し込まれたのだ。
そう、ここで唯一認められているのは模擬戦だ。模擬戦ならHPや武器の耐久値が減らないためボス前のチームプレーが出来るためここではよく模擬戦が行われている。
しかし、今行われている模擬戦はチームプレーの確認という本来の目的から外れ、ティニアさん&アリサさんの異常タッグに挑む形式になっている。
そのせいでこっちが本来の目的であるチームプレーの確認が出来なくなっているが、これまでの疲れを取るために俺達は休むことにした。
「それにしても強いですね、あの二人」
「NPCってみなさんあんなに強いんですか?」
「いや、あの二人が異常なだけでしょ」
「そうですね。私ではあそこまで戦えませんから」
休んでいる俺達は邪魔にならない距離に離れてその戦いを見ている。他にも一部NPCもいるが見ているプレイヤーがおり、とくに魔法使いのプレイヤーたちはその戦術を学ぼうとしているのか真剣に見ている。
そんな状態が続き、俺達が十分休みを取れたところで二人に声をかける。
「お二人さ~ん! そろそろボス部屋行きますよ~!」
「「「「「待て! もう少しやらせろ!」」」」」
いやいやこっちにも都合があるからな。
「「え~? もう終わり~?」」
おい!? なんであんたたちが不満を言うの?
「もう少し殺らせてよ」
「そうだよ。まだまだ殺り足りないよ」
戦り足りないってあの二人戦闘狂だったか?
……ん? なんだか文字が違う気がする。
しかし二人が発言したことで周りのプレイヤーが喝采を上げてしまい、このまま撤収したら暴動になると思い、しょうがないのであと10分間だけ許可する。
「10分か~。ならここからはバトルロワイヤル方式にしようか」
アリサさんが告げたバトルロワイヤル方式。
文字通り自分以外全員が敵となる。タッグバトルやチームプレーとは真逆の個人の力が試される。
ちなみに、NPCのアリサさんにバトルロワイヤル方式を教えたのはここにいるプレイヤーたちだ。模擬戦を申し込まれた時に説明を受けていたのだ。
そして宣言後、ティニアさんと戦いたい人・アリサさんと戦いたい人に分かれてバトルロワイヤルが始まった。
何人かのプレイヤーは先ほどまで連戦連勝だったのは二人一緒だからだと思ったのか始まると同時に攻撃を開始するが、あえなく返り討ちに合う。
実はティニアさんは『水仙』の花魁兼フェアリートレードのトップのため自分の身を守るために日々鍛錬を行っている。
そしてアリサさんも魔族襲来の件以降ハイフェアリーの里長であるパロンさんに鍛えてもらっているらしい。
さらに二人とも自分一人での戦闘を想定して鍛錬しており、二人での連携は今回のクエストのためにお願いしたことだ。
どういう事かと言うとタッグよりも個人のほうが強いのだ。
「行きます!」「行くよ!」
ティニアさんは〔フレイムレーザー〕を地面に放って爆発させ、その爆風でプレイヤーを吹き飛ばす。〝フレイムボム″とは違い地面を爆発させた爆風ではダメージを与えられないがプレイヤー側は乱れ、慌てている。その隙に突撃したティニアさんは両手に炎を纏い、殴打の連続でさらにプレイヤーたちをかき乱す。
アリサさんは先頭のプレイヤーをしびれさせ動きを止め、さらに雷撃を放ってとどめを刺す。しかも〔ライトニングスピア〕は貫通性のため後方にもダメージが届く。それによって動きが止まった瞬間に詠唱を初め、先ほど見せた〔テンペスト〕を唱える。
なお〔テンペスト〕についてプレイヤーの誰かがランク4の【雷属性特級】と言っていたが、アリサさん曰くこれは【精霊詠唱】と言うらしくスキル一覧には載っていなかったのでNPC専用スキルと思われる。もしかしたらアップデートで追加されるかもしれないが。
「おお。人が飛んでるとこ初めて見た!」
「動けなくした相手にも容赦なしですか」
「まあ、作戦としては悪くないですよね」
俺達はゆっくり鑑賞しているがアリアさんはあまりにも強くなった二人を見て呆然としている。
「二人とも、立派になって……」
「あれ? 喜んでる!?」
まさかの行動に驚くもその後はティニアさんとアリサさんのじゅうりn……激闘を眺めながらとりあえず水を飲む。
結果開始五分でプレイヤー側は全滅した。
……今更の疑問だが、なんで俺この人たちと知り合いなんだろう?
そう思ってその原因に視線を移す。
「えっと、何でしょうか?」
アリアさんが困惑した顔で見つめ返してくるが、冷静に考えてみると出会ったきっかけはアリアさんだけどアリアさんを責める理由はどこにもないな。
「いえ、何でもないです」
「そうですか?」
納得はしていないようだがそれでもしつこく訊いてこないアリアさんのやさしさに感謝し、戻ってきた二人を出迎える。
「お疲れ様」
「別にいいですよ。そこまで疲れてませんから」
「ここはいいわね~。いくら魔法使っても終わったら勝手に回復してくれるなんて便利よね~」
ティニアさんはともかくアリサさんがまだまだ戦いそうにしているが、それはこの後のボス戦で発散してもらうことにする。
というわけで二人が十分休みが取れた頃にようやく最下層、十階に降りる階段へと足を進める。
十階は一直線の道があり、その先にボス部屋がある。なお、この道もモンスターが出現しない。
十階に降りてからしばらくしてようやく巨大な扉の前に立つ。
「さて、準備はいいですか?」
「はい」
「行けます!」
「いつでもいいですよ」
「さあ、殺りましょう!」
「楽しい狩りの始まりよ!」
どうやらまだ二人とも気分が高揚しているようだが、大丈夫だろうか?
「フタリトモ?」
「「!」」
しかし、アリアさんの一言で気を引き締める。さすがは姉。
全員の状態が整ったところで盾を構えながら俺は扉を開けた。
次回、ボス戦も水曜日に投稿します。




