第五十九話:訪問者(ティニア視点)
すでにご存じの方もいると思いますが、残念ながらモンスター文庫二次選考に進むことはできませんでした。
しかし、一次を通過しただけでも十分名誉だと思いますので、これからもがんばって投稿は続けていきます。
*ティニア視点*
アルケさんが「約束があるから」と言って部屋を出た後、私たちはスワンさんとリボンさんの武器強化について話していました。
「スワンさんはリボンさんより弓の扱いに慣れてませんか?」
「はい。実は少し習ったことがあって」
「そうなの? 初めて聞いたよ」
「中学校の体育の授業で弓道があったの」
「きゅうどう?」
「えっと、こっちの言葉で言うと……学校って言うところで行われてる弓の競技のことです」
スワンさん・リボンさんと話しているのはアリア姉様。私とアリサは魔法中心なので実は弓はあんまり得意じゃないんですよね。
アリサはアリア姉様のお手伝いということで一緒に話を聞きながらこれまで獲得した素材を選別してます。少し広い部屋を取ったのは正解でしたね。
私の担当は給仕です。疲れた頃に部屋に備え付けのお茶やお菓子を出してます。本来の職業ということもありますが、やはり戦闘よりもこちらの方が落ち着きます。
それからしばらくして二人の弓の強化方針が整ってきたところで、扉を叩く音が聞こえました。アルケさんにしてはお早いお帰りですね。
「すまない。少し話がしたいのだがいいだろうか?」
おや? この声は先ほどお会いしたガンツさんという獣人の方ですね。何かあったのでしょうか?
少しだけ警戒しながら扉に近づきます。この宿の扉は外からの音は聞こえますが、外からは室内の音が漏れない仕組みとなっています。しかし、扉の上の部分には少しだけ横に動かせる場所があり、それを動かせば扉を開けずに話ができるみたいです。
この仕組みといい、やはり客人の方々は私たちの想像をはるかに超えてきます。この仕組みは帰ったら『水仙』にも取り入れましょう。
おっと、待たせてしまいましたね。えっと……ここですね。
「すいません、お待たせしました」
「いや、こちらこそ急に来て申し訳ない」
やはり声の主はガンツさんでした。それに耳を澄ませば他の方もいらっしゃるようですね。わずかしか動かせないので向こう側はほとんど見えないのが欠点ですね。これも覚えておきましょう。
「それで、どのようなご用件でしょうか?」
「それなんだが、あなた方がポーションを格安で販売していたのは本当なのか?」
どうやらあの集落で行ったことを知っているようですね。客人専用の連絡手段があるのはアルケさんから聞いていたのでそれについては驚きませんが、格安というのはどういうことでしょうか?
「確かにポーションの販売はしていましたが、格安とはどういう意味ですか?」
「……そういえば、あなたはNPCだったな。この集落ではポーションを得る方法はフィールドドロップとの交換なんだ」
「ドロップと?」
「そうだ。一番安い物でもドロップ3品が必要だ。しかもランクや種類によってはさらに必要なこともある」
それが基準なら確かに私たちが行った販売は格安になりますね。お水は桶に汲むだけなので用意する必要があるのは薬草3枚だけ。しかもランクは問わないとなれば、ここの基準と比較して格安なのは間違いないです。
「すると、お話と言うのはポーションを売ってほしいと?」
「そのとおりだ。可能か?」
可能かどうかならおそらく可能だろう。しかし、それを可能なアルケさんが今いませんからお答えできませんね。
「すいませんが、私たちのリーダーはアルケさんなんです。なのでアルケさんが不在の今、その質問にお答えすることが出来ないのです」
「そうだったのか? ならファイが戻ってくるのを待つしかないか」
向こう側も納得してくれたようで一安心です。万が一強要してきても私が扉を開けた瞬間にアリサが魔法を放てば問題ないでしょう。
「では一旦失礼す『ここで間違いないのか!?』……ん?」
私にも聞こえました。なにやら騒動が起こっているようですね。
「何かありましたか?」
「いや、こっちも声が聞こえただけだ。おい、ちょっと見てきてくれ」
ガンツさんがパーティーメンバーの誰かに偵察を指示したようですね。なら待ってみましょう。
「リーダー! 例の回復薬販売集団が押し寄せてきてるぜ!」
「何!?」
回復薬販売集団とは先ほどお話しに合ったドロップと回復アイテムを交換している団体さんでしょうか?
私がそんなことを考えているとドタドタと大勢の足音が聞こえてきます。
「おい! そこをどけ! 中にいる奴に話がある!」
男性らしき声が聞こえてきます。ガンツさんの後ろにいるメンバーが言葉を発しようとしましたがガンツさんが手を伸ばしてそれを制し、扉から遠ざかります。
入れ替わりに声の主が扉に近づいたようですね。
「聞こえているか、中にいる奴! とっとと開けろ!」
どうやら部屋を訪ねる礼儀を知らない人のようですね。なら、こちらもそれなりの対応をいたしましょう。
「申し訳ありませんが見知らぬ人を勝手に部屋に入れるわけにはいきません」
「なんだその態度は! こっちがだれか知らないわけじゃないだろ!?」
「度々申し訳ありませんが、こちらは先ほどこの集落に初めて到着したばかりでして、生憎この集落における知り合いは先の方々だけなのです」
「はぁ? 北の集落に来て俺達を知らないのか? ニュービーですら俺達のこと知ってるぞ?」
そうは言われても知らない者は知りません。あ、もしかしたら客人の二人ならご存知かもしれないですね。
「すいませんが二人とも、聞こえてくる声の主を知っていますか?」
一旦仕組みを元に戻し、少し大声で訊ねましたが二人は首を横に振ります。これはまたしても情報不足のようですね。
なら、ここはすばやく本題に入る方がよさそうですね。現状相手が何をするかわからない以上、これ以上こちらにとって不利な情報を与えるわけにはいきません。
「それで、結局のところあなた達は何の用なんですか?」
「それを話すために部屋に入れろと言っているんだ!」
「お話ならここでもできます。わざわざ部屋に入れる必要がありません」
「グダグタ言ってないで、開けろ!」
こうなってくると何を言っても無駄ですね。このままですと部屋に突撃してしそうなので、先に礼儀知らずには少し痛い目をみてもらいましょう。
扉から離れてアリサに向けて手を動かします。アリサもそれだけで気づいてくれたようで杖を扉へと向けてくれました。そしてアリア姉様にも手を動かしスワンさん・リボンさんと一緒に扉から死角になっている寝床の方へ向かってくれました。
「おい! 何か言ったらどうだ!」
どうやら私たちが準備している間も何か言っていたようですね。再び扉に近づき、扉のロックを解除します。……この機能もいいですね。後で聞いておくことが増えました。
っと、のんびり思考はこれまでです。いざという時のために私も魔法を準備しておきましょう。
「おい!」
「今開けますから少し離れてください」
「フン! ようやくわかったか」
この時点で私は思考を完全に迎撃対応に変更しました。アリサにも魔法を込めた右手を見せて準備させます。
そして扉を開けた途端、私は右に飛びます。案の定、扉が開いた途端、手に武器を持った男性が二人入ってきます。
「『パラライズ・レイ』!」
初期の雷属性攻撃魔法を放つアリサ。攻撃力は皆無ですが当たった相手を必ず【麻痺】状態に出来るのでそれなりに使える魔法です。しかも、広範囲とまではいきませんが、横に並ぶ2体くらいまでなら効果が及ぶので二人とも同時にしびれてもらいました。
すると後ろで控えていた男性、先ほどまで扉の前で叫んでいた張本人がまたしても叫んできました。
「貴様! どういうつもりだ!?」
「どういうつもりも、女性しかいない部屋に押し掛けてくる無礼者を警戒するのは当然のことだと思うけど?」
「貴様……ん、NPCだと?」
その言い方あまり好きじゃないんですよね。
私と話していた男性は部屋の様子を見て疑問顔を浮かべました。
「おい、ここにいるはずの錬金術師はどうした?」
次回は3月11日(水)に投稿します。




