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VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第二章:新たな力
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第五十八話:北の集落

今回はセーフ。

北の集落について最初の感想は「人多!」だった。まるで田舎から上京してきたみたいな感想だが、まさにその通りだった。

どこを見ても人・人・人の群れ。辺りには木や石で創られた家が立ち並び、あちこちから掛け声が聞こえてくる。どうやら俺達が到着したのは鍛冶師が集まる地帯のようだ。


「お? 兄ちゃんも移住者かい?」


ふと横を見ると同じように林を抜けてきた集団がいた。先頭にいるのは獣人族のようだな。


「ああ。この先の〝ダンジョン遺跡″に挑もうと思ってね」

「なんだ、同じ理由か。おっと、俺はガンツだ」

「アルケだ。よろしく」


差し出された手に握手を交わしてからこっちも名前を告げるとガンツさんは目を見開いた。


「コレは驚いた! いつも世話になってるよ」


発言からしてルーチェのお得意様のようだな。俺は商品を納品するだけで売り子になることはないからこうして感謝を言われると素直にうれしく思う。


「ちょっと、そろそろ進んでくれない?」

「おっと、わりい」


ガンツさんがどけるとその後ろから残りのパーティーメンバーが現れる。そして最後の一人が登場した時、俺は思わず「あ!」と叫んでしまった。

突然の行動に向こうのパーティーも俺もパーティーも驚いていたが、俺が驚いた最後の一人は俺のことを視認した後、驚いた顔を見せるもゆっくり微笑んだ。


「お久しぶり。ブローケンヴァイン以来ね」

「ええ。お久しぶりです、ファイさん」




思わぬ再会を果たしたファイさんと俺だが、その場で話すとそれぞれのパーティーメンバーに迷惑をかけるとお互い判断したので、一旦宿を取ってから改めて合流することにした。

〝ダンジョン村″の呼び名は伊達ではなく、北の集落には十を超える宿屋があった。当然経営しているのはプレイヤーだ。

彼らは〝カーペンターズ″のように趣味でCWOをプレイしている人たちだ。ギルドではなく個人個人の力だけで経営し、掲示板でお互いの近況を報告して勝負しているらしい。

このような形態は珍しくなく、料理や造形を主としている人々が競っている掲示板では毎日熾烈な争いが繰り広げられている。


宿屋は俺の一人部屋・アリアさん/アリサさん/ティニアさんの大部屋・スワン/リボンの二人部屋の三部屋だ。一旦全員部屋に行って状態を見てからアリアさん達の部屋に集合し、今度の話し合いをすることにした。


「しばらくはここに滞在して情報を集めるんですよね?」

「ええ。まだ情報が不足していることが西の遺跡で判明しましたからね」

「ついでに武器も強化したほうがいいですね。さっき見えましたが、ここの鍛冶師は確かにいい腕を持っていそうです」


ティニアさんの言葉に背負っている弓に視線を移すスワンとリボン。確かに二人の装備はこの機に強化してしまった方がいいかもしれないな。


今まで気にしなかったが、今回アリアさん達が装備しているのは全てNPC専用装備らしい。言われてみれば今までアリアさん達が使っている武器を使っているプレイヤーを見たことが無い。

唯一あるのはフライパンぐらい……そういえばあのフライパンで料理しているところ見たことないよな。戦闘専用のフライパンとか? もしくはアリアさん専用装備とか?

…………これ以上考えるのはやめよう。


「それじゃ、当面は情報収集と二人の武器の強化ってことでいいの?」

「はい。ふたりはそれでいい?」


俺達の視線が二人に注目するとスワンがおそるおそる手を上げた。


「すごく助かりますが、いいんですか?」

「何が?」

「だって、強化素材はみんなで獲得したモノじゃないですか」


ここで強化する以上、使う強化素材はこれまで俺達で倒してきたモンスターのドロップになる。それを二人だけのために使うのは申し訳ないとスワンは思ったわけか。

よく見ればリボンも申し訳なさそうな顔をしている。


「かまいません」

「問題ないですね」

「むしろ、余ってもしょうがないから使っちゃえ」


しかしアリアさん達はあっさり言ってのけた。そこには何の未練もない。


「アリサさんが言ったように余ってももったいない。それに俺の杖には強化素材が使えないし」

「「え!?」」


俺のメイン武器である〝錬金術師の杖″は【合成】はできても何故か【強化】ができない。それについては「元々この杖は調合用であり戦闘用ではないのもその一つだが、他にも理由はある」とあの老人から聞いている。それがいったいどういう意味なのかは未だに判明していないが、基本的に錬金アイテムで戦うのが俺の戦闘スタイルなので特に気にしてない。


「で、でも! アルケさんが持ってる盾なら……」

「あれも専属の鍛冶師がいるからここで強化するつもりはないな~」


俺の発言は真実ではあるが間違いでもある。当然シュリちゃん以外にも強化はできるが、そうなると付属している二つの効果について答えなくてはならなくなるので出来ないのだ。


そんなことを話していると約束の時間が迫っていたので俺は一旦宿を後にした。






「すいません、遅れました」

「時間前ですよ」


待ち合わせに指名しておいた再会した場所に向かうとすでにファイさんは待っていた。装備は依然と変わっていないようだが少し輝きが増している気がする。


「コレ? 最近よく切れる素材を見つけたので強化したのよ」


俺の視線に気づいたファイさんが答えてくれた。なお、その素材は俺が最初に遭遇したライオンさんでした。それに気づいて話そうとしたが「倒すの結構苦労したのよ。アイツ素早いから」とファイさんが言ったので口を閉じた。

NPC二人の魔法攻撃であっさり殺されたなんて知ったら落ち込みそうだ。まあ、その二人がNPCの常識からずいぶん外れてるけど。


その後ファイさんは初めに〝要塞遺跡″に辿り着き、そこを攻略することに集中したそうだ。「途中で諦めるのは負けるのと同じだ!」とガンツさんが鼓舞し、先日ようやく突破したそうだ。

そして次の遺跡に向かう時に「だったら北の集落に言ってドロップを整理しませんか?」とメンバーの一人が言ったのでここに立ち寄ったらしい。


「籠りっぱなしでアイテムボックスがいっぱいだからね。だれも反対しなかったわ」

「確かにそうですね。となると、それは【強化】に使うんですか?」


それしか考えてなかった俺はファイさんの言葉に驚くことになった。


「ううん。回復アイテムと交換するのよ」

「はい?」

「あれ、知らないの? 『回復アイテム売ってる集団はお金に換金しやすいドロップと回復アイテムを交換してる』って掲示板に書いてあったわよ」


ファイさんの言葉を聞いて俺はしばらく固まってしまった。ついさっき情報不足を話していたのにいきなり知らない情報が出てきてしまった。


「……まさかクエスト攻略掲示板で回復アイテム関係調べてないの?」


ファイさんは俺と再会した時以上に驚いた顔で俺を見つめてくる。俺が頷くのを見てファイさんは呆れたような溜息をついた。


「信じられない。どうやって生き延びてきたの?」

「まだ不足してませんし、ポーションは作れますから」

「作れるって……そうか、【錬金術】!」

「そういうわけです」

「なるほど、それなら知らなくてもしょうがない……あれ? メール?」

「うん? こっちも?」


ほぼ同時に届いたメール。それを読んだファイさんは勢い良く俺に顔を近づける。


「アルケさん! 今ガンツから……」

「こっちもメンバーから届きました! 失礼します!」

「私も行くわ!」


くそ、みんな無事でいてくれ!

次回は3月4日(水)です。

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