第五十七話:拠点移動
さて、あの子の運命は?
試練開始からすでに三十分以上が経過している。
現在の状況だが、パニヤードもどき(俺命名)は俺が何もしてこないので興味を失くしたのか部屋の中をうろうろしている。
女性陣はそんなパニヤードもどきをじっと見つめている。例えるならば『初めての一人での外出を影から見守っている家族』みたいな感じだろうか。
そんな中、俺はどうすればこの試練を突破できるのかひたすら考えていた。
当然、一番簡単な方法は今も部屋の中をうろつくパニヤードもどきを攻撃して倒すことだ。しかし、それをすれば女性陣から総攻撃を受け、今後のクエスト攻略が相当厳しくなることは容易に想像できる。
最もそれをしない一番の理由は、あのパニヤードの仲間を攻撃することはしたくからだ。
違う個体とはいえほぼ同じ見た目。もしかしたら仲良くなれるかもしれないのに同胞を殺したせいでもう会えなくなるのは寂しい。
(ほんと、どうすればいいんだよ……)
結局解決策が出ないまま、さらに十分が経過した。
俺が継続して考えていると後ろから話声が聞こえてくる。しかしその声には男性らしき声が混じっていることに気づき、振り向くと俺達とは別のパーティーメンバーが扉の前にいた。
「どうしました?」
「あんたがリーダーか? あとどれくらいかかりそうだ?」
扉が遠かったので近づきながら声をかけると向こうは戦闘準備を整え始めている。
「あとどれくらいと言われてもなぁ」
「なんだ? そんなにやばいのか?」
「あれ? 見えないのか?」
「知らないのか? 前のパーティーが闘っているときは部屋の中の敵は見えない仕組みなんだぜ」
まあ、万が一同じ相手だったらそれを倒すシーン見てれば簡単になるからな。カンニング対策してないわけないか。
そうなるとどうやって説明しようか。相手のパーティーは全員男性で明らかに“敵=殲滅”の考え方に見える。そんな相手に「モンスターが可愛いから攻撃できない」なんて言ったところで理解してもらえないだろう。
そんなことを考えている俺に、ある意味救いの声が聞こえてくる。
「そんなに厳しいなら一回出てみればいいじゃないか」
「へ?」
「これも知らなかったのか? パーティー全員が退出すると『撤退した』と判断されてまた最初から闘う事になるんだぜ? まあ、同じ相手とは限らねえみたいだが」
「おいおい、どこかで情報集めなかったのか? 情報不足は自分の首を絞めるぜ?」
これには何も言い返せない。確かにこっちの情報不足だからだ。しかしこれでパニヤードもどきと戦う必要が無くなったので良しとしよう。
ふと視界を部屋に戻すとすぐ近くにパニヤードもどきが近付いてきていた。
そのパニヤードもどきは俺の足元まで近づくと俺を見上げてくる。
「オナカ、スイタ」
「えっと、きのこはどうしたの?」
「キノコ?」
〝きのこ″という単語を理解できないそぶりをしたことで間違いなくパニヤードでないことが判明。そしてここまで近づいているのなら可能かと思って【看破】を発動させて改めて観察する。
〝パルセード″
きのこを必要としないパニヤードの亜種。主食は水。
モンスターが相手なら分かるのはこの程度か。パニヤードでないことは証明できたが、だからと言って倒せるかと問われれば、当然無理だ。
とりあえず水が主食みたいなのでアイテムボックスから〝清水″を取り出してパルセードに渡す。
「イイノ?」と言ってるような顔で見上げてくるので頷くと〝清水″が入った瓶を傾ける。
一口飲んだ途端、目を見開いて瓶を見つめるパルセード。
もしかして口に合わなかったか? と思ったが次の瞬間一気に飲み始める。どうやら美味しくてびっくりしたみたいだ。
あっという間に一本飲みほしたが、空になった瓶を寂しそうに見つめているのでもう一本出してあげると嬉しそうにそれを掴んで飲んでいく。
結局もう一本、計三本飲み干すと急にパルセードの体が光り出す。そして「オイシカッタ」と言って光と共に消えた。
呆然とする俺に『CLEAR!』のメッセージウィンドウが表示され、同時に獲得アイテムとして〝錆びた槍″と〝パルティリング″がアイテムボックスに収納された。
その後調べてわかったことだが、パルセード及びパニヤードはモンスター種族で言うと“ゴースト系”に分類していた。『幼い子供が死んで成仏できず姿を変えて生まれ変わった存在』らしい。
CWOのゴースト系はどんな敵でも【物理攻撃無効化】を持っており、倒すには魔法攻撃か魔法効果を持つアイテムで攻撃しなくてはならない。
つまり、俺がパルセードを倒すためには錬金アイテムを使うしかなかったわけだ。それを知った瞬間「できるか!」とツッコんだ俺を責める人はいないと信じたい。
西の遺跡から集落に戻ってきた俺たちは一旦ログハウスに戻り、俺は何が起こったのかを話した。当時の状況は当然全員見ているのですんなりと受け入れられ、今度についての話をすることになった。
「残るクエストアイテムは剣と盾ですね」
「北の集落の先にある〝ダンジョン遺跡″とここから東にある〝要塞遺跡″だね」
「ここからだと〝要塞遺跡″の方が近いです」
「でも〝要塞遺跡″のほうが難易度高いみたいです」
「モンスター全て防御型のステータスだし」
北にある〝ダンジョン遺跡″は文字通りダンジョンになっており、入り口から地下に進み、最下層である十層のボスを倒せばクリアとなるオーソドックスなモノだ。
一方、東にある〝要塞遺跡″は遺跡と言うより城塞みたいな見た目で、登場するモンスターも小型ゴーレムや盾を装備したオークなど防御に特化したモノばかり。当然魔法耐性も高い。
議論した結果〝ダンジョン遺跡″を優先することになり、今から移動すると夜時間になるので今日はこれで終了。
ダイブアウトした俺がリビングに行くと空がソファでうつぶせになっていたが、華麗にスルーした。自業自得だ。
翌日、「明日からテスト返すから楽しみにしてろよー♪」と人によっては死刑宣告を担任がした以外は特にこれとなく平和な学園生活を終わらせCWOにダイブ。
全員そろってクエストフィールドに転移し、〝カーペンターズ″の方々に北に行くことを告げてから出発する。その際に「ログハウスはどうなるんですか?」と訊いたら「新たな人用の素材として解体するかそのまま残しとく」と言われたので残してもらうことにした。〝要塞遺跡″に行くにはこっちの方が近いからな。
レギルさんを案内した時の道をアリサさんが覚えていてくれたのでそれに沿って移動する。その途中休憩できる程度の空間があったので一休みすることに。
「一応、北の集落についておさらいしておきますか?」
「そうだね。確か一番大きな集落なんだっけ?」
「それについては様々な意見があるのでよく分からないです。ただ、私たちがいた集落よりもかなり大きいことは間違いないです」
北の集落。
もはやそれだけでどこの集落か分かるほど有名になった集落の一つだ。〝ダンジョン遺跡″に一番近い集落でもあるから“ダンジョン村”とも呼ばれている。
アリサさんが言った「一番大きな集落」や〝ダンジョン村″の呼び名の通り結構な大きさがあり、ときどき連絡をくれるレギルさんによれば「鍛冶はできるけど腕のいい人がいるから勉強することの方が多いね」らしい。俺としてもそこにいる回復を担当している集団には興味がある。もしかしたら【錬金術】に応用できることがあるかもしれない。
「それだけにトラブルも多いみたいです」
「トラブル、ですか?」
「はい。剣を修復する代わりに高い修復代を請求されるとか、回復アイテムを独占しようとした集団が現れたとか」
「それって、前にいた奴らかしら?」
「外見まではわからなかったので……」
「なら、会えば分かるでしょ」
一部物騒な話もあったが情報を整理したところで休憩を終わらせ先に進み、とうとう北の集落に到着した。
次回は2月25日(水)の予定です。




