第五十四話:臨時開店
今回は予定通り投稿できました。
スーパーアリアさん(俺命名)により制裁され冷静になった彼らに話を聞いたところ、どうやらクエスト攻略掲示板に俺のことが書かれているらしい。おそらく昨日ポーションを作ってあげた誰かが書き込んだのだろうが、正直いい迷惑だ。
しかし、ここまで回復アイテムが少ないプレイヤーが多いのも問題なのではないだろうか? そう思って一番手前にいたプレイヤーに聞いたところその理由が判明した。
簡単に言えば場所によってモンスターの強さが変化しているらしいのだ。
この遺跡周辺でも第二陣には厳しく、俺達がこの間までいた最終遺跡付近となるとさらに強くなるらしい。しかも相手をしたプレイヤーの強さはラインとPVPで対戦して互角だったプレイヤーだと知って、あの時出会わなくて本当に良かったと心から思った。
そんなわけでポーションなどの回復アイテムはかなり不足しているらしい。そうなると俺が取る行動は一つしかない。
「というわけで、臨時ルーチェ開店!」
元大工のプレイヤー、正確にはギルド〝カーペンターズ″の方々にご協力いただき一人で住むには立派なログハウスを建ててもらい、中に〝簡易錬金窯″を設置する。元から俺専用の小型ログハウスを建ててもらうつもりだったので渡りに船だ。
後は調合したアイテム(ポーションだけだが)を販売するのだが、ここでお金をもらっても意味が無いので〝ポーション1本=薬草3枚&調合水桶一杯″にすることにした。こうすれば調合しても俺が持ってる素材が無くなることも無く、素材不足で暴動が起こることも無い。調合水を知らない人にも分かるように案内板も作ってもらった。
桶に関しては昨日作ってもらった桶ではなく女性でも楽に持てるさらに小型の桶を大量に作ってもらった。「この程度なら楽勝」と言っていた通りわずか数分で一人当たり5個生産できる彼らのスキルはもしかしたらランク4なのかもしれないな。まあ、こっちとしては桶一杯分できっちりポーション三本分の調合水となるので調合が楽になるから大助かりだ。
そんなわけで始まった臨時開店だったが、ポーションの調合待ちの列どころか調合水を組むための桶の保管場所でも全く列が途切れない。ティニアさんが売り子を担当してくれ、スワンとリボンがそれぞれ薬草と調合水を受け取り、アリアさんが薬草を鑑定してランク分けしてくれ、アリサさんが整列をしてくれている。
……俺達は一体に何しにクエストに参加しているのだろうか?
ちなみに、〝カーペンターズ″の皆さんも忙しそうに桶を作ってくれているが、彼らはそれでもうれしそうだったので問題ないだろう。
初めから想像をオーバーしていたが噂がさらに広がったようで次から次へと列が伸びている。俺はずっと中で調合しているから分からないがスワンが「あ、折り返した」と思わず言っていたから少なくてもどちらかの列はここから集落の端よりも多くの人が並んでいると言う事か。ちなみに、この臨時ルーチェは集落を上から見ると左端に当たる。
そしてとうとう、ある意味お約束の存在が現れた。
「おら、どけ! ニュービー共!」
「そうだ! 俺達を先に通しやがれ!」
中にいても聞こえてくる声。調合の手を止めずにティニアさんに問いかけると返ってきたのは想定内の返事。
「どうやらそこそこ実力のある方々が暴れているようですね」
「その割には冷静ですね」
「アルケさんこそ」
声が聞こえてくることからおそらく入り口近くにいるのだろうが、俺達は互いに笑みをこぼすだけで対応はしない。
そう、この事態はすでに想定済み。だからこそ、アリサさんに整列をお願いしたのだから。要するに、アリサさんは“整列”担当ではないのだ。
*アリサ視点*
「ちょっとお兄さん達? 順番ぐらい守れないの?」
「ああん!? なんだテメエ?」
「ここでポーション調合している客人と同じパーティー組んでる妖精族よ」
「だからなんだってんだ?」
「さっき言ったでしょ? 順番を守りなさい」
言いながら私は列の最後尾を指す。現状ポーションを作るよりも桶を作る方のペースが速いので調合待ちの列よりは短いがそれでももうすぐ折り返すところまで来ている。
こうやって改めて思い知るとアルケさんって苦労してるのね~。【錬金術】ってそんなに人気ないのかなぁ?
……過去に散々否定し続けた私達妖精族が言えることじゃないか。
「ふざけんな! なんで俺達がわざわざ並ばなきゃいけないんだ!?」
「順番を守るのは客人の世界でも常識じゃないの?」
「俺達は第一陣で、トップギルドだぞ!」
「だから何? 優遇しろとでも?」
「当然だろう?」
私と話している男以外の人間の目も同じ目をしている。確かにここに集まっている客人たちよりは実力があるみたいだけど、私には関係ない。
しかし、なんで客人はこんなにいろんな性格がいるのだろうか。この前もアルケさんを待ってると何度も声かけられたし。こういうときはハイフェアリーってことも抑止力にならないしなぁ。
「馬鹿言ってないでさっさと並びなさい」
そんなことを考えながら、私は再び最後尾を指し、彼らの後方から現れた新しい客人たちを列に並ばせるために移動する。しかし先ほど話していた男が私の肩を掴んだ。
「この手は何?」
「な~に。ちょっと教育定期指導をしてやろうと思ってな」
この男の顔を表現するならまさに『ニヤニヤ』だろう。明らかに自分を格上だと信じている顔。
全くこういう馬鹿ばっかりなのかしらトップギルドって。
って、ふと見ればこの男のパーティーメンバーが今にも割り込もうとしているじゃない!
「あれ、あなたの仲間でしょ? あんなのと一緒にされていいの?」
ここで仲間を叱ったのならまだ手加減してあげようと思った。
「何言ってんだ? 当然の権利だろ?」
しかし、彼らはせっかくの提案を自ら放棄した。
なら………………遠慮はいらないわね♪
「〔ライトニングスピア〕!」
私が最も得意とする魔法。それを詠唱無しの状態で放つ。
この方法だと魔力がいつも以上に消耗するがこの程度ならハイフェアリーである私にとっては些細なことだ。
そういえばアルケさんが「それは内緒にしといて!」って言ってたような……まあ、後で謝りましょう。
ここでさらに畳みかけようと思ったのだがあの男はたった一撃であっさり死亡した。
…………え? 確かトップギルドって言ったよね? これでアルケさんが言っていた客人最強クラスなの?
「リーダー!?」
「テメェ!」
あの男が死亡したのを見ていた他のメンバー5人が一斉に武器を抜く。そうなれば当然騒動となって波紋が広がる。さすがにここで騒ぎを起こすのは良くないわね。
そこで場所を移そうとしたんだけどいきなり5人が倒れた。何が起こったのか近づいてみると全員の後頭部に矢が刺さっている。
眼に魔力を込めて視力を無理やり強くして臨時ルーチェのログハウスを見ると姉さんがスワンさんに弓を返しているのが見えた。さすが姉さん。
普段はあんな感じだけど、フェアリーガードに入れるくらいの腕前があるもんね。
これだけなら尊敬だけで済むのに……なんでアレ(フライパン)を持つとああなっちゃうんだろ?
「さて、止めをさしちゃいますか」
決めた以上容赦はしない。かわいそうだと思うけど、私たちにとって戦闘とはまさに生死を賭けたものだから。
後でアルケさんから聞いたところ、彼らは客人同士が行えるケイジバンというコミュみたいなもので私たちのことを散々批判したそうだけどあの時並んでいた他の客人たちのおかげで彼らの非が確定されたらしい。
「闇打ちとか逆恨みには十分注意してください」とアルケさんには注意されたからあの魔法常に展開しておこうかな?
それと詠唱無しで魔法を放ったこともなんか話題になってしまったみたい。こればかりは訓練しか習得方法知らないから訊かれたらそう答えることにしようっと。
*アリサ視点(終)*
さてトラブルは合ったがその後も調合を続け、今日は土曜日。
期末勉強以上にCWOに恐怖心と不安を覚える中今日もダイブ。本日スワンとリボンはお休みだ。さすがに二人にはここ二日間でかなり疲労していたので休むように伝えておいた。
そんなわけで俺とアリアさん達四人でクエストフィールドに転移する。今日は週末という事でこれまで以上にたくさん人が集まっているだろうと思いきや、待っていたのはほんの十数人。
それもすぐ終わり、久しぶりにのんびりとした時間が流れる。
「なんか拍子抜けでしたね」
「でも、おかけで助かりました」
臨時ルーチェを一旦閉店させ、俺は完成してから一度も入ったことのないログハウスで一息入れる。
すると誰かがドアをノックする音が聞こえてきた。
一番近かった俺が「どちらさまですか?」と訊くと「近くで鍛冶をしている者です」と返ってきたので鍵を開ける。
「どうしました?」
「いや、あなた達の意見を聞こうと思って」
意見とはどういうことだろうか?
アリアさんもエルフ族なので弓は習っています。当然主力武器は鈍器ですが。
*スキル紹介*
【詠唱破棄】
ランク4のスキル。【~魔法属性上級】を3つ以上習得すると習得可能になる【詠唱短縮】のランクアップスキル。通常よりも多少MPの消耗が多いが魔法名だけで魔法を発動できる。
多くの魔法使い系プレイヤーが習得に励んでいるが、今のところプレイヤーの中でコレを習得している人物は片手で数えられる程度。
次回の更新は2月4日(水)予定です。次回も無事更新できるようがんばります。




