第四十七話:久々のランクアップ
勝利を喜んでいると新たにウィンドウが現れ『キーアイテム〝ピースNo.5″入手』というメッセージが書かれている。
無事キーアイテムを入手してホッとしていると、ここに入ってくるときに開けた扉が開いた。どうやら今まで閉じていたようだが全く気づかなかった。
もうここには用は無いと全員が扉に戻ろうとすると「あれ?」とアリアさんが声を発する。アリアさんの声に振り向くとアリアさんはアリゲートタイタンが最初に座っていたソファがあった場所を見ている。
「どうかしましたか?」
「いえ、何か違和感が……」
アリアさんの声に従い、全員ソファがあった場所に集まる。見たところ何も変化のない地面と壁にしか見えない。
「ここです。ここが何だかおかしいような気がするんです」
アリアさんはソファがあった場所から少し離れた地面を指す。全員が注目するも特に模様が書かれているわけでもない。
しかし、アリアさんは薬剤師として様々なモノを見てきている。その言葉を唯の気のせいで済ませることはできないと思い、【識別】を発動させる。
「!?」
すると指している床の色が他の床と異なり、赤く染まっていることが判明する。
しかし、判明したのはそれだけだ。
「なにかわかったんですか?」
俺の顔色が変わったことに気づいたスワンが尋ねてきたので床の色が異なることを伝える。
それを知って全員がその床に乗ってみたり、赤つながりでティニアさんが【火属性魔法】を当ててみたりするが何も変化が無い。
「どうします?」
リボンの言葉に誰も答えることができず、時間も遅いことから今日はこれまでと決め、メモに場所を残しておいて遺跡を跡にし、スプライトに帰還する。
クエスト特殊フィールドは遺跡内部を除きどこでも転移可能で、転移する場所はイベントフィールドに転移した転移泉となり、再びイベントフィールドに転移すると最後にいた場所に戻る仕様になっている。
まあ、そうでもしないとNPCがクエスト中ずっと特殊フィールドに捕らわれることになるからな。
「それでは、私たちは一度ギルドに戻りますね」
「ああ。一応例の床のことは秘密にしておいてくれ」
「わかってます。でも情報があれば手に入れてきますね!」
「スワン、それじゃ私たちスパイみたいだよ?」
「気にしない気にしない」
「無理しなくていいからな?」
「ええー?」とスワンが頬をふくらましているが俺もスパイ工作なんてしたくない。本音を言えば情報は欲しいけど。
二人が転移泉から転移すると残ったアリアさん達もそれぞれの場所に戻って行った。
俺はアトリエに戻ると採取したアイテムの分類分けをする予定を一旦置いて、自分のスキルを見直していた。
アリゲートタイタンでの戦闘では錬金アイテムを使う余裕もなく守ることしかできなかったので、なにか新しい戦闘スタイルを発掘できないかと思ったのだ。
さすがに女性にばかり戦わせるのは男としてのプライドが廃る。
現在のスキルは(サブも含めて)【上級錬金術】Lv.22【杖】Lv.27【盾】Lv.18【識別】Lv.35【俊足】Lv.13【付加魔法】Lv.30。
そして気づいたのだが、【付加魔法】がとっくにランクアップ可能レベルに到達していた。
基本的に最初のランクアップに必要なレベルは30。ランクアップするごとに必要なレベルは+5加算されている。中には必要なレベルがそれ以上のスキルもあるが俺が習得しているスキルに該当するモノは無いので問題無し。
『+5なんて楽勝!』と最初の頃は言われていたがランクアップすると得られる経験値が結構減ることが検証班によって判明した。例えばあるモンスターを倒すと100得られた経験値が、ランクアップすると最大でも75が限界のようだ。
さらにランク3になると多くても50、つまり最初のころと比べて半分まで下がるらしい。おかげでランク4にまで上がったスキル報告は現状でも両手があれば足りるほどしかない。
まあ、そんな事情などのんびりモードでプレイしている俺にとっては関係ない。
というわけでさっそく【付加魔法】をランクアップすると二つのスキルが表示された。
一つは【付加士】。これは単に【付加魔法】の強化版だ。
もう片方は【強化魔法】。こっちは名前通り、ステータスを強化する魔法を覚えるらしい。
【付加魔法】は物体に属性を与えられるが強化はできないので、普通に考えれば【強化魔法】の方が今後役に立つのだろう。しかし俺にとっては【付加魔法】が使えなくなると錬金アイテムが調合できなくなるので【付加士】一択しかない。
【付加士】にランクアップした途端、新たにいくつか付加できる属性が増えたが、正直使いたくない。【呪い】とか【枷】とかどういうことだよ? 【加護】というのもあるから全く使える物が無いわけでもないのだが。
次に注目したのは【杖】Lv.27。【杖】はランクアップしても名称が変わらず、スキルの横に☆が付く。つまり、ランク2なら☆一つ、ランク3なら☆二つという表示になる。
あとLv3上げれば次のランクになれるのでそれによる効果を期待し、さっそくレベリングしようと考えるが、効率のよい狩り場なんて知らない。
とりあえず今出来るのはここまでという事で入手したアイテムを分類し、今日はダイブアウト。
夕食後、掲示板をチェックしてレベリングに適している場所を探す。いくつか候補があり、その中で選んだのは樹海の中にあるという場所。
近いし地形をよく知っているのもそうだが、出現するのは植物を擬人化したモンスターが多く、状態異常さえ注意すれば今の俺なら死ぬことはなさそうだ。
さて、レベリングの場所は決まったので期末に向けて勉強するようにしよう。遊び過ぎてダイブできなくなったら心ちゃんと世良ちゃんにも悪いしな。
翌日、今日は朝からダイブする。コレは一日中攻略に励むのではなく、現実の昼過ぎからCWO時間では夜時間になってしまうので朝からイベントエリア攻略に向かおうと昨日解散する前に話し合っていたのだ。
まだまだ夜時間は怖い。
俺は予定時間よりもさらに早くからダイブし、昨日調べておいた場所で【杖】のレベリングを行う。
登場するモンスターは情報通り擬人化した植物、ほとんどが頭に草をかぶった小人だったので〝錬金術師の杖″でボコボコ殴る。レベリングのためとはいえ軽く罪悪感を覚えるな、これ。
ちなみに、もしかしたらいるかもと思ったパニヤードは出現しなかったことは本当に良かった。もし出現したら速攻でレベリング終了だったよ。
なんとか時間ぎりぎりでLv.30に到達し、【杖】を【杖☆】にする。
そこで得たポイントで今までほったらかしにしていた【識別】をランクアップさせ【看破】にした後、集合場所の転移泉に向かう。
今回は俺が最初だったが、すぐ後にアリアさん・ティニアさん・アリサさんが到着する。スワンとリボンを待っていると同じようにイベントエリアに転移するパーティーや逆にスプライトに帰ってきたパーティーもいる。中には「ようやく寝れるぜ」なんて言ってるプレイヤーもいる。もしや徹夜したのか?
それからしばらくして二人が到着し、俺達もイベントエリアに転移する。
また追いかけっこは嫌なので転移した瞬間に周りを警戒し、今回はなにもいないことを確認する。
「今日はどうしますか?」
アリアさんの提案に俺は「もう一度例の遺跡に行きたい」と告げる。その理由は先ほどランクアップさせた【看破】ならあの床のことが分かるかもしれないと思ったからだ。
理由と共にそのことを告げると全員が賛同してくれたのでさっそく遺跡に向かう。
今回は誰も戦っておらず、クリアもしているのですんなり入れ、ボス部屋も燭台に炎が灯るだけでアリゲートタイタンはいない。そのかわりソファは存在していた。
戦闘が起こらないことを確認するとサブにしておいた【看破】をメインの【俊足】と交換し、さっそく発動。
すでに例の床の近くに移動していたのですぐ近くにあるとは思ったが、【看破】を発動した途端、例の赤い床の上に『↓』の矢印が表示された。これがランク2とランク3の性能差ということだろうか。
矢印のおかげで改めて場所を探す手間が省けたのですぐさま赤い床まで移動する。そして前回同様床の近くまで進むも、やはりそれ以上の反応は無い。
やはり何も無いのかと思うも前と同じように床の上に立って見ると視界に何故か『→』が表示される。
矢印に従い顔を右に向けると部屋の入り口から奥までの距離の中央付近の壁に立てられている燭台の前に【!】が表示されている。
そのことを全員に告げ移動しようとすると【!】のマークが消えた。慌てて確認するがMPは消耗し続けているので【看破】は発動していることが分かる。
試しにもう一度赤い床の上に乗ってみると【!】のマークが復活した。
このことから誰かがこの床に乗っている必要があることが分かり、【!】のマークが見えるのが俺しかいないことから俺がそのまま乗ってみんなを誘導することになった。
補足:この床の謎ですが、【識別】なら実は他の赤い床も見えています。前回のアルケはMP節約のために床の上に乗っているときに【識別】を発動させなかったので床に気づくことができませんでした。
ではまた三日後に。




