第四十三話:冒険の始まり
久々の4,000文字オーバー。そしてフライパン人気が凄まじい…
あと祝500万PV達成! ご愛読ありがとうございます!
パーティーを結成した後それぞれの攻撃手段を確認し、簡単に模擬戦をして戦力を確認した。
スワンとリボンはエルジュと同じ弓を使う完全遠距離型で、【弓】以外の武器をほぼ使ったことが無いことが分かった。一応護身用に【短剣】も習得しているらしいがほとんど使う機会はなかったらしい。
その理由は、彼女たちが普段近接攻撃を全くしてこなかったからだ。
彼女たちの攻撃指導はエルジュであり、エルジュはなぜか弓での攻撃に異様なこだわりを持っている。
以前エルジュの訓練を見せてもらったのだが、相手が接近してくると鳥人族らしく翼を利用して上空に上がり、矢を放っていた。また上空に飛べない状況でも、〔ウィンドアーマー〕の応用で自らのスピードを上げて相手から退避する戦術を取っていた。
つまり、どんな状況であろうと相手に接近させない戦闘スタイルなのだ。
そんなエルジュを見てアバターを育てていたので二人とも(ついでにシオリンも)同じように弓での攻撃中心となってしまったらしい。
あとは困った状況になったらエルジュが助けてくれたというのもあるらしい。友達は大切にする奴だからな、あいつ。
しかし、今回エルジュはいないので彼女たちは自衛手段を身につけておく必要がある。そのため、ミシェルにお願いして【短剣】の訓練をつけてもらった。他に当てがいないのもそうだが、教官もしているミシェルなら何とかなるだろうという考えもあった。
急なお願いだったが、向こうも「最近はアルケのアイテムに頼りすぎな新人が多いからいい発破になる」と快く引き受けてくれた。短い期間なので所詮は付け焼刃にしかならないがやらないよりはましだろう。
一方ティニアさんとアリアさんは、意外なことに万能型だった。
“魔法職は後衛”というイメージだったが、ティニアさんとアリサさんで模擬戦をしてもらったところ、なんと近距離からも魔法を放っていた。お互い詠唱しながら接近し、ほぼゼロ距離から【火属性魔法】をバンバン打ちまくるティニアさんとエルジュと同じように【雷属性魔法】を自らに放って雷を纏うことで身体強化を行いながら鋭い打撃を放つアリサさんの姿は想像以上の衝撃だった。
相変わらず驚かされるこの世界のNPCたちだが、今回に関しては大きな戦力を手に入れたと喜ぶことにし、二人には前衛もお願いすることにした。今更だがこのパーティーは後衛ばかりだと気付いたのだ。
二人とも承諾してくれ、その後は水仙の近くで連携を調整してくれている。
そしてアリアさんと俺は回復・補助担当。
しかし、いざとなれば俺は錬金アイテムで攻撃も出来るし、やろうとすればアリアさんも攻撃に参加可能だ。もちろん武器は雷撃の鉄塊による殴打だ。もちろん、それは最終手段であり、この考えは本人には伝えていない。言えるわけがない。
とにかく戦闘能力を鍛えるよりも補助能力を鍛えるため、俺はアリアさん指導の元で様々な草や木の実の種類や特性を教えてもらった。
なおアリアさんはこれといった訓練はしていない。アリアさんはあくまで補助担当なのだ。一応ジャングルに生息する薬草や植物に関しての知識を父親から教わっているらしい。
あと俺に関してはパーティーの中で唯一盾を持っているのでヘイト担当も兼ねることになり、この間の隊長たちとの顔合わせの時に交換したアドレスを使ってフェアリーガード五番隊の訓練に参加させてもらった。おかげで【盾】のアクトもいくつか覚えられたのはラッキーだった。
こんな感じで俺たちはクエストの準備に励んだ。
クエスト当日、ダイブインして必要なアイテムを調整する。
今回のクエストでは事前に持ちこめるアイテムに制限があり、同じアイテムは10個までで、アイテムの総合計は100個まで。
そこで俺は溜まったセルを使い、セリムさんが以前使っていたような〝簡易錬金窯″を購入し、〝調合水″と〝調合石″・〝調合粉末″をそれぞれ10個ずつ。
攻撃用として〝フレイムボム″や〝スノープリズム″・〝ライジンディスク″も10個ずつ。
さらに何とか調合が間に合った〝ミドルマジックポーション″と〝ハイポーション″も10本ずつ。
そして切り札として〝グレンダイム″を5個。
後は素材となる〝清水″を5つとこの間も活躍した〝ヴェノラント″4個と〝ポイズンタブレット″4個、そして採取したアイテムの保管用に〝聖樹の樹籠″を一つ用意した。
なお、余っていた〝聖樹の樹籠″はアリアさんとアリサさん、そしてスワンとリボンにも渡してある。ティニアさんは「自前の物を持ってくる」と言っていたので、これで採取には困らないだろう。食糧を見つけてもアイテムボックスに入らなければ持ち運びが不便になるからな。
〝聖樹の樹籠″の効果を見て「これってチートじゃないですか?」とリボンが尋ねてきたが「使えるものは何でも使うのは当然のことだろう」ということで納得してもらった。実際コレがあるだけで相当楽になる。まさに聖樹様に感謝だ。今度お参りに行こう。
いつものように集合場所にしたスプライトの転移泉に行くとすでに全員が集合していたので駆け足で向かう。鳥人族の二人がいることもそうだが、NPCキャラが三人もそろっていることで結構注目を浴びているようだが気にせず足を進めた。
「ごめん、待たせたかな?」
「いいえ、大丈夫ですよ」
「まだ時間前ですから」
「問題ないですよ」
「こんにちは、アルケさん」
「しばらくよろしくね!」
それぞれが返事をしてくれ俺もそれに応えると先ほど以上に視線が集まっているように感じる。……なぜか俺に。
「お、最後のパーティーメンバー登場」
「彼女も美人じゃねえか」
「よし、向こうであったらさりげなく声かけようぜ」
おいそこの連中、クエストの目的を間違えてるぞ。
「てか最後に現れたプレイヤーって例の【錬金術】のプレイヤーじゃね?」
「言われてみればそうだな」
「つまり、ここで親しくておけばあのPVで最後に使っていた爆弾をお礼でもらえると?」
「コレは是非でもGETしないとな」
そこの連中もちょっと待て。悪いがグレンダイムはまだ売れるほど量が作れないぞ。
「しかし、あのパーティー美人揃いだな。というかあんなNPCどこにいたんだ?」
「それは確かに。もしかしたら女性しか入れない場所があるんじゃね?」
「つまり、百合エリアか?」
「えっと、そんなエリア聞いたことないわよ?」
「でも、いいわねぇ。特に最後の娘、好みだわ~」
……ワタシノミミニハナニモキコエテオリマセン。
さて、そろそろ開始時間が近付いてきたので最終確認。
時間になったら転移泉の側にいるプレイヤーにクエストに参加するかどうかを確認するメッセージウィンドウが表示されるのでそれを確認する。なお、パーティーの場合はパーティーリーダーにしか表示されず、このパーティーでは俺の前に表示される。
承諾すると特殊フィールドに転移されるので、まずは遺跡を探すことになる。
道中、休憩できそうな場所があったら無理せず休憩をとる。早期クリアを目指しているわけではないから慎重に行動するくらいでちょうどいいだろう。
そして(現実の)食事の時間が近付いてきたら次に合流する時間を決めてダイブアウト。NPC三人は俺たちがダイブアウトするとスプライトに帰還する。再度イベントエリアに転移するにはまた転移泉に集まるのが面倒だが、彼女たちの力はクエスト攻略には必須だ。これくらいは我慢しよう。
あと、もうすぐ期末もあるから勉強もきちんとしないとな。
……なお、努と空はすでに諦めている模様。ついでに栞ちゃんも。
「いよいよですね」
アリアさんの言葉が引き金になったのか、ついに俺の前にメッセージウィンドウが表示される。
周りを見ればすでに我先にと特殊フィールドに転移していくプレイヤーたち。ちなみに、わずかだがNPCキャラもいた。好感度システムが導入されてからずいぶん経つし、俺のようにNPCと仲がいいプレイヤーがいてもおかしくないか。
「よし、行こうか!」
「「「「「はい(ええ)!」」」」」
全員の返事を確認し、俺はメッセージウィンド『クエスト特別フィールドに転移しますか? YES/NO』のYESに手を置いた。
転移した先はまさにジャングルだった。
そして振り向いた先には巨大なライオ……ん?
「「「「「「……」」」」」」
「……………………ジュル」
「走れ―!!」
いきなり鬼ごっこが始まったが、少し離れたところでティニアさんとアリサさんの詠唱が終わったので反撃。未だに慌てているスワンとリボンをアリアさんに任せ俺も〝翡翠の盾″を構え参戦する。
「よし、来い!」
さっそく覚えたばかりの【盾】アクト〔ヘイトアブソーブ〕を発動させ、ヘイトを俺に集中させる。攻撃をした二人を狙っていたライオン型モンスターは方向転換し、俺に向かって突撃してくる。
結構巨体だったので、その攻撃を〔ワイドプロテクション〕で防ぎ、二人が詠唱する時間を稼ぐ。
「〔フレイムレーザー〕!」「〔ライトニングパイル〕!」
二人が同時に魔法名を唱える。それぞれ【火属性中級】【雷属性中級】の魔法なのだが、その威力は俺が知ってるそれ以上だった。思わず(パーティーメンバーの攻撃は無効になる仕様で本当に良かった)と思ったほどだ。
ライオン型モンスターは二条の魔法攻撃によりHPを0にしたので消滅。パーティーメンバー全員に経験値とセルが与えられる。
ちなみにNPCの三人には何も無いかと思いきや、セルが入った小袋が空中から落ちてきた。
「これが外の客人がよく言っていたドロップという現象ですか」
「面白いですね。大した額ではないみたいですが」
ティニアさんとアリサさんの手に落ちてきたセルと俺が手に入れたセルでは俺の方がはるかに多いが、これもプレイヤーとNPCとの違いなのだろう。
さすがにこれは申し訳ないので、帰ったらアイスでも振舞うことにしよう。
「二人は大丈夫?」
「ええ、もう落ち着いたみたいです」
アリアさんが言うように落ち着いたようだが何もできなかったことで少し気落ちしているようだ。
「まだ始まったばかりですよ。これから一緒に頑張りましょう」
しかしアリアさんのフォローでその瞳にやる気が宿る。さすがはやんちゃな二人のお姉さんだ。…………なんだか視線を感じるが気のせいだろう。
こうして、俺たちの冒険が始まった。
本来〔ヘイトアブソーブ〕は集団で襲ってきた敵に対して有効な技として考えていたのですが、“大声を上げてヘイトを自分に向ける”ことはアルケのキャラ的に合わないと思ったのでこっちを使いました。
ではまた三日後に。




