第四十話:ブローケンヴァイン討伐作戦
前話に登場したパニヤードの人気に驚いています。
というわけで、近いうちに再登場させます!
思わぬ大量収穫となった〝パニヤードのきのこ″だが、俺にとってはかなり大きな利益となった。それは、その特性が関係している。
パニヤードのきのこ・素材アイテム・HR
パニヤードの頭に生えてるきのこ。パニヤードはこのきのこしか食べられないので、栄養が逃げないよう人間の目には見えないほど小さく特殊な胞子で実を守っている。
食用には向かない。
説明にも書かれていた『特殊な胞子』こそ、俺が求めていた『周りに影響を与えない特性』だ。
この〝パニヤードのきのこ″をガラス砂の代用として調合した結果、無事調合に成功した。しかも、胞子の特性により毒草の毒性があまり抜けず、結果として教本のモノ以上に凶悪なモノとなってしまったのには、乾いた笑いをしてしまった。
なおガラス砂を使っていないため、顕現すると瓶ではなく小さな白い塊となって出てきた。その見た目から、俺はこれを〝ポイズンタブレット″と命名した。いつか本物の〝ポイズンボトル″も調合してみたい。
その後も〝ポイズンタブレット″を調合し続け、昨日とうとう薬草の根から〝ポイズンボトル″とも〝ポイズンタブレット″とも違う、新たな毒性のアイテムを調合することにも成功した。
「『……というわけで、討伐作戦をしませんか?』っと」
ファイさんにメールを送り、俺はその返事を待った。
その間は依頼された〝スノープリズム″を調合したり、【融合】に挑戦したりして時間をつぶした。なお、【融合】は未だに成功事例はない。くそぅ。
しばらくしてファイさんから連絡が届き、第十三次ブローケンヴァイン討伐作戦が開始されることになった。いや、どんだけ苦労してるんだよ。
「実際、今回でダメならもう周りを気にすることなく討伐しようと考えていますから」
行進中に隣に来たファイさんがそうつぶやいていた。なんでも「これ以上は時間が無い!」とNPC側の代表が言い始め、もし俺のメールが届かなければ広範囲火属性攻撃を用いても討伐する予定だったらしい。
そのため、今回の作戦には魔法を使えるエルフ族のプレイヤーが参加している。「もう無理だ」とNPC代表が判断したところで、彼らが参戦してブローケンヴァインを討伐する予定になっているからだ。
獣人族は種族属性として魔力が他の種族よりも少ない。そのため、一度広範囲火属性攻撃魔法を使うと次を放つのに長い時間を必要とする。MPを回復できるアイテムもあるが、その回復量はあまり高くないので時間短縮にはならない。
そこで「魔法に特化したエルフ族の知り合いに支援をお願いできないか?」とプレイヤー側に要望したところ、計20名のエルフ族プレイヤーが集結した。
これだけなら種族を超えた協力として美談になるのだが、その大半がレアアイテム狙いなのが、まさにこの世界がCWOなのだという象徴だろう。
ワイルドストリートを進み、最後に相手したのがいつなのか忘れかかっているブローケンヴァインと対峙し、“周囲に損害を与えない最後の討伐作戦”が開始された。
出だしはこれまでに培ってきた経験が活き、ほとんどダメージらしいダメージを受けることなく進んでいる。
そしてとうとう核にして唯一ダメージを与えられる巨大な目玉が現れた。初めてそれを見ることになったエルフ族プレイヤーたちから悲鳴が上がったが、一度見た側からすればここからが本番だ。
それを示すように獣人族のプレイヤーとNPC全員が獣化を始める。そして俺はこの時のために調合した例の毒アイテムを準備していた。
(でもコレ、効果範囲が非常に狭いからな~)
〝ポイズンボトル″は毒が入った瓶を相手に向けて放ち、瓶が割れると中の毒の液体が散らばる仕組みだ。そのため、かかった量によって毒になる確立や毒の威力が変化する。
また〝ポイズンタブレット″も大きさが小さいだけで仕組み自体は変わらない。
つまり、どちらも周りに四散してしまうので『周りに被害を出さない』というこの作戦のコンセプトに適さないのだ。
一方で今俺が持っているコレは四散することは無い。そのかわり、効果範囲が極端に狭い。具体的には効果範囲は発動して半径1m程度しかない。
つまり、この毒アイテムを使用するには突撃し、直接目玉にぶつける必要があるのだ。
当然ながら俺はこの提案をした時、その役目はここに集まった獣人族の中で最も強い者か最も素早い者だと思っていた。
しかし、説明をした後で獣人族全員が出した回答は『その役を俺に託す』だった。その理由は「作った人間が使うのが一番討伐できる可能性が高い」から。
俺はそれを承諾し、突撃できるタイミングを待っている。
普通なら提案された段階で臆病風に吹かれたり、怖くて辞退したりするだろう。特に普段戦闘しない生産職なら特にだ。
しかし、俺にそんな気持ちはほぼなかった。獣人族には悪いが、この程度のピンチならジャイアントデーモンに突撃した時よりはるかに楽だ。
だからこそ、今回必要なのは勇気ではなく、タイミングを見失わない観察力だ。
戦闘開始から二十分程度は経過した頃、とうとうそのチャンスが到来した。獣化した獣人族たちが連携した攻撃が見事に決まり、ブローケンヴァインの蔓が殲滅され、一時的に目玉を守るモノが無くなった。
その瞬間、俺は駆けだした。瞬く間に蔓が再生を始め俺を妨害しようと延びてくるが獣人族たちが俺の行く手に生えてくる蔓を切り落としていく。
CWOでは植物系モンスターの繁殖力や再生力は初期値段階でも結構高い。それ故に植物族モンスター相手では一撃の攻撃力に重点を置いている魔法使い系プレイヤー以外では苦戦することも多い。
それでもスキルでなんとかできるのがCWOだ。実際俺もあるスキルを使用することで今の状況を可能にしている。
それが【疾走】。【早足】がランクアップしたスキルだ。
効果は単純。【このスキルが発動している間、移動速度が倍になる】。
しかし、このスキルは戦闘をしない生産職の間では割と好評なスキルだ。その理由も単純で“採取しているときにモンスターと遭遇しても逃げ延びれるから”だ。
また戦闘職のプレイヤーの中でも短剣のような一撃よりも連撃、すなわち手数で攻撃するプレイヤーがよく利用している。
しかも【疾走】は消耗するMPも【早足】と大差なく、例のスキル枠増加クエスト関連の掲示板の一つ“習得して損が無いスキルランキング”の上位に入っている。
そんな【疾走】を俺は結構使っている。普段の採取もそうだし、【錬金術】関連で追われた時もそうだった。まあ、ランクアップに至るための経験値が溜まったのはあの騒動のおかげなのが微妙だが。
さて、普段から使っているということはその分それに“慣れている”とも言い換えることができる。
何が言いたいかいというと、スキルを使うとすぐにそれに対応できる。つまり、そのスキルを最大限活かせるということだ。
【疾走】で駆けていく俺を見て何人かがそのスピードに驚いた声を上げているがそんなことを気にする余裕は無い。支援があるとはいえ、一直線に目玉まで駆けて行かないと蔓が復活してしまう。そうなれば近接戦闘手段が【杖】しかない俺には攻撃手段が無くなってしまう。
駆けたら最後、その先に待つのは成功か失敗しかないのだ。
そしてそのギャンブルの結果は……一応俺の勝利だった。
ここで一応が付くのは目玉のすぐ近くまで駆けた俺に目玉の上にあった細い蔓が俺に向かって延びてきたからだ。
例え細いとはいえ先は尖っているし、纏わりつかれたら身動きが取れなくなってしまう。そこで俺は持っていた毒アイテムを投げつけた。
当然細い蔓は目玉から守るため毒アイテムを振り払おうとする。しかし、蔓が毒アイテムに触れた途端、毒を守っていた外側部分が割れ、中の毒が蔓に広がっていく。
ヴェノラント・毒アイテム・R
植物系モンスターに有効な毒を木の実の殻に詰めたモノ。毒の量は少なく、さらに中の毒は気化しやすいため、効果範囲は極端に狭い。
説明にもあるように、見た目はクルミサイズの木の実だ。調合方法は『毒性の植物×1+木の実(ランクR以上)×1+調合粉末×3』。
「これでどうやって毒を木の実の中に入れてるんだ?」と思ったが、側で見ていたエイミさんが興奮していたのを見て、これにも特殊な魔法陣が使われているのだろうと理解した。果たしてどんだけの魔法陣が【錬金術】には使われているのやら。
「!?!?!?!?!?!?!?」
言葉にならない悲鳴を上げるブローケンヴァインと腐っていく俺を襲ってきた蔓。
目玉をさえぎるモノは何も無くなったが、同時に目玉まではほんのわずかな距離しかない。再びヴェノラントをアイテムボックスから出すのでは間に合わないと思い、いっそのこと目玉に体当たりでもしようとしてあるスキルを思い出した。
最後の一歩を踏み出した瞬間、体を反転させる。
すると当然背中が目玉に当たることになる。しかし、背中より先に(普段は隠しているが今は戦闘中のため具現化させている)〝翡翠の盾″が目玉に直撃する。
(疑似〔シールドバッシュ〕!)
なお〔シールドバッシュ〕は実際に【盾】のアクトの一つで、数少ない攻撃系のアクトだ。今回は単にぶつけただけだが【疾走】の勢いが付いた今なら多少はダメージを与えられると思いついたのだ。
「――!?」
ヴェノラントの時よりは小さいが確かな悲鳴を上げるブローケンヴァイン。
さらに体を反転し、その勢いのまま【杖】のアクト〔スマッシュ〕を目玉に直撃させる。
それによりさらにHPを減らすブローケンヴァイン。同時にすっかり忘れていた【威圧】が発動し、ブローケンヴァインがその動きを止める。
その影響は他の蔓全体にまで及んでいた。
「全力攻撃!」
好機とばかりに獣人族NPCの代表が声を上げ突撃し、他の獣人族もそれに続く。
硬直が解けた頃には多数の獣人族が目玉に接近しており、それらの攻撃から守るための蔓も数の暴力には勝てず、ブローケンヴァインは目玉に集中攻撃を受け、残ったHPはヴェノラントで始末した。
こうして、長い間獣人族を苦しめていたブローケンヴァインは討伐された。
ご愛読ありがとうございます。また3日後にお会いしましょう。




