第三十九話:親愛の証?
本日は遅れて申し訳ありませんでした。
スプライトまでの片道転移魔法陣を使うためアルバ―ロの入り口に到着する。
「「お疲れ様です」」
「おつかれ~」
この前とは別の人たちみたいだが、どうやら俺のことも知っているようで挨拶してくれた。
「おや?」
そのうちの一人が俺たちの後方を見て首をかしげている。それが気になったので振り向くと近くの背の高い草から別の物が見えている。
というより先ほど見たばかりの物、すなわちキノコが生えた麦わら帽子だ。
「もしかして、さっきのパニヤードか?」
俺の声に反応したのか、見えていたきのこと帽子が草の中に隠れる。間違いなく、さっきのパニヤードだろう。
「もしかして、付いてきたの?」
そのままじっと見つめてると観念したのかその姿を見せるパニヤード。
涙の跡を見るともの凄く罪悪感を覚えるが、パニヤードはトコトコこっちに向かって歩いてくる。
あ、転んだ。
「……グス」
再び顔を上げるパニヤード。その瞳には涙が溜まっている。……運営、なぜこんなモンスター作ったんだ?
転んだまま動かなくなるパ二ヤード。その姿に昔の空を思い出し、思わず近寄って抱き寄せる。
「よしよし、大丈夫か?」
背中をぽんぽん叩き、涙を拭く。するとようやく笑顔を見せてくれ、頬を胸に当ててすりすりしてくる。
なんだか保母さんになった気分だが、振り向いた先にいたエイミさんの顔を見て凍りつく。
その眼は明らかに獲物を狙うハンターの目、訂正可愛いモノを見て可愛がりたい気持ちを抑えきれない女性の目だった。
「アルケさん!」
「は、ハイ……」
「私にも抱かせてください! いや、そのコください!」
「いや、俺の物じゃないし……」
「何言ってるんですか!? モンスターをテイムしておいてその言い方はひどくないですか!?」
「だからそんなことしてな……テイム?」
あれ? そういえばなんでモンスターに触れてるのにダメージを受けないんだ?現状、パニヤードはエイミさんの魂の叫びを訊いて怯えたのか、俺にしがみついている。
以前ティニアさんに締め落とされたことがあるので、この行動もモンスターからの攻撃とシステム的には認識されてもおかしくないはずだが、俺のHPは全く減っていない。
そこで久しぶりに【識別】を発動させてみた。実は上達した【識別】ならモンスターの名前、種族、属性くらいなら分かるのだ。
もしかしたら今の状態もわかるかもと思い、試してみた。
パニヤード・小人型モンスター・植物属性
状態:【チャーム】
「【チャーム】って、そんな異常状態があるのか?」
「知らないんですか?」
「基本、生産職なので」
その後、エイミさんから話を訊いた。
【チャーム】とは『自分のことを好きにさせる状態異常』で、その代表モンスターがサキュバス。実は樹海の奥地にも現れるらしい。
まあ、そのエリアはまだ解放されてないし、されたとしても相当奥みたいなのでしばらくは会うことは無いだろう。
「つまり、このパニヤードは俺に惚れちゃったと?」
「そういうことです。どちらかというと、母親を求めるようにも見えますけど」
現在、パニヤードは俺の胸に頭を付けたまま眠っている。その姿は恋人に安らぎを感じているよりも母親に抱かれて安心してる子供のようだ。
「それと【テイム】とは違って効果は一時的なモノですから、起きたらサヨナラですね」
もの凄く寂しそうにつぶやくエイミさん。まあ、それはしょうがないよな。
結局俺たちはパニヤードが起きるまで門から少し離れた岩場に移動して話をしていた。
空が暗くなってきた頃、ようやくパニヤードが目を覚ました。
「おはよう」
怖がっていきなり攻撃されないよう優しく語りかける。パニヤードはまだ眠たそうに目をこすっていたので、また頭をなでてあげた。
「キュ~」
嬉しそうに鳴くパニヤード。もう少しこの雰囲気を楽しんでいたいが、そろそろ俺もダイブアウトしないといけない時間だ。
そっとパニヤードを抱きしめ、地面に下ろす。
その意味を理解したのだろう、パニヤードは悲しそうな顔で見つめてくる。
よくテレビでこういうシーンを見たことはあるが、実際にやるとここまで気持ちが揺さぶられるのか。
しばらく視線が交差するも、エイミさんが俺の肩を叩き、そっと離れる。
「マッテ!」
そんな俺たちを追いかけてくるパニヤード。ここで振り向いてはいけないとわかってるのでそのまま進み……結局振り向いてしまうの俺を責められるのはいないだろう。
パニヤードは俺のすぐ近くまで来るも、足元までは来ない。
すると帽子を脱ぎ、それを俺に差し出してきた。
「もしかして、くれるのか?」
嬉しそうに、そしてかすかに名残惜しそうに帽子を差し出すパニヤード。俺は帽子に手をかけ、そこに生えているきのこを一つ抜く。
「これだけでいいよ」
そして帽子をパニヤードにかぶせてあげる。キョトンとしたあと今まで以上の笑顔を見せ、俺に抱きつくパニヤード。
その頭を再度なで、パニヤードは樹海へと戻っていった。
なお、振り向いた俺が見たのは鼻から血を流し、その血だまりに横たわるエイミさんだった。一瞬、マジで死んだのかと思い、相当焦った。
その後アルバ―ロの門番にエイミさんを預け、俺はアトリエに帰還。すぐに裏手の庭にきのこを植える。
【識別】した結果、きのこの名前は〝パニヤードのきのこ″とそのまんまだったが、『栽培可能』とも書かれていたので庭で試してみようと思ったのだ。
アリアさんから訊いた店で買った〝家庭栽培セット″を用意し、そこにきのこを植える。最初は「これでいいのか?」と思ったが、現状植物系素材を栽培する方法はこれしか判明していないのでこれしか試す方法が無いのだ。
「せめて、枯れないでくれよ」
あのパニヤードの最後の笑顔を思い出し、希望と期待を込めてきのこを栽培セットに植える。後は待つだけだ。
翌日、いつものようにダイブインするとセリムさんが食事中だった。それだけならなにも問題ないのだが、その料理とは鍋で、しかもそこには見たことがあるモノが入っている。
「セリムさん?」
「あ、食べる?」
「確かにおいしそうだけど、それどこから持ってきたきのこ?」
個人的にきのこ鍋は好物に入るほど好きだが、問題はそこに入っているきのこ。
「庭に生えてたやつ」
「NO――――――――――――――――――――――!」
叫び声を上げながら俺は庭に急いだ。せめて一個でも無事なモノがあることを信じて!
そして、俺の視界に入ってきたのは……
「あ、アルケさん! これすごいですね!!」
「エエ、ソウデスネ」
庭として与えられた場所を埋め尽くすばかりのきのこ。当然〝パニヤードのきのこ″だ。
「魔物研究をしている知り合いが『パニヤードは頭のきのこしか食べないため、きのこの増殖能力はもの凄く高い』と言ってましたけど、ここまでとは思いませんでした!」
「ソウナンデスカ」
ちらっと植えた場所を見てみれば、今まさに新しいきのこが成長しており、さらに別のきのこが新しく映えてきたきのこに押し出され、庭をコロコロ転がる。
「とりあえず、一旦しまいますか」
〝聖樹の樹籠″を取りにアトリエに戻る。
結果、三人がかりで一時間ほどきのこを籠に入れる作業が続いた。
あ、これ以上はいらないので栽培セットは片付けました。
次回もいつも通り三日後です。




