第三十六話:古代魔方陣のスキル
「では、もう体は大丈夫なのですか?」
「ええ、全く問題ありません」
再び俺が倒れていた部屋に戻ってアリアさん、アリサさん、そしてティニアさんと話している。
ちなみに、ディンさんは「俺は仕事があるから」と三人が接近する前にどこかへと行った。正しくは避難したと言うべきか。それを許してあげるから例の発言は撤回してほしい。あの瞳はマジな眼だった。
アリアさんが調薬し、持ってきてくれた薬はポーションの他にも各種異常状態回復薬もあり、せっかくなので頂いた。これはこれでありがたいモノだからな。
中にはまだ調合できない状態異常回復薬もあるので今度調べて挑戦してみよう。
そんなわけで当初俺が懸念した三つ巴による戦いや女性三人に追いつめられるような状況にはなっていない……よね?
「そういえば、どうやってここまで来れたんですか?」
何か話題は無いかととっさに思いついたことを訊いてみる。
なお、一番聞きたいのはアリアさんの意見。なぜならアリアさんはこの中では一番戦闘能力が低い。そのアリアさんでもここまで来れるルートがあるのなら是非とも知っておきたいと思ったからだ。
「それは……」「えっと……」
アリアさんとティニアさんが苦笑しながらある方向を見つめる。その先には胸を張るアリサさんの姿。
「これでもハイフェアリーですから。あの程度の相手なら問題ありません!」
「それでも結構道も険しかったですよね?」
「強化系の魔法って便利なんです♪」
つまり“三人分の強化系魔法を使用しながら襲ってくるモンスターを迎撃した”ということだろうか?
ハイフェアリーってどんだけの強さなんだかさらに分からなくなった日だった。
その後も少し話し、ルーチェのことを思い出して急いでアトリエへと戻った。
すでに開店していたルーチェだが残っていた在庫で運営できていたようで品切れになることは免れた。
その際、今まで連絡手段が無かったことに今更気づき、本日店番だったマリルさんのコミュアドレスを知った。今度クララさんとクラリスさんにも訊いておかないとな。
ルーチェに納品後、アリアさんたち三人に心配したことに対するお礼と急にスプライトに帰ったことの謝罪を書いたコミュを送った。実は思い出してすぐに走りだしたのでその場に置いてけぼりにしてしまったのだ。
三人とも特に気にしていなかったが俺の気が済まないので『今度お礼に新作のアイスをごちそうする』と送ると大変喜んでくれた。
その時にエイミさんにも心配をかけたことを思い出し、同じようなコミュを送ろうとしてアドレスを知らないことに気づいた。
「そういえば、ミシェルから隊長達とコミュを送れるようにしてほしいってこのまえ書かれてたな」
というわけで、ミシェルに『以前話していた隊長達とのコミュ登録について、応じるので都合のよい時を教えてほしい』とコミュを送っておいた。
さて、あらかた用事が片付いたところでいよいよ新しいスキルを確認することにする。
まずスキルの名前は【融合】。
説明によると【錬金術】の派生スキルらしく、【錬金術】が素材を元にアイテムを作るのに対し【融合】はアイテム同士を組み合わせ、そのアイテムの上位版もしくは全く別のアイテムを生みだすスキルだ。
なお【融合】が発動する条件が2つある。
1つは【錬金術】が最低【上位錬金術】までランクアップしていること。これはクリアしているので問題ない。
もう1つは【融合】で使用するアイテムのランクだ。このランクは最低でR以上である必要がある。つまり、ランクがCやUCだと【融合】が発動しないのだ。これに関してもまあ、Rのアイテムはあるので一応問題ないと言える……か。これでまた調合する量が増えることになるな。
「まあ、試しに一度やってみるか」
使用するアイテムはおなじみフレイムボム。失敗して爆発する可能性も考慮し、実験する場所は例の“薬草の畑”を超えたいつもの平原。個人的に“実験場”と呼んでいる場所だ。
「では、【融合】発動!」
初めての経験ということであえて言葉にしてスキルを発動させる。
実は【融合】の発動は【魔法陣魔法】と同様に地面に魔法陣を描くことで発動する仕組みだ。
地面に置かれた二つのフレイムボムの間に杖を突き立てることで杖から魔法陣が描かれる。
【魔法陣魔法】なら魔法陣を覚える必要があるが、【融合】ならその必要はないようだ。しかしアップデートによりスキル欄が増えるのなら【魔法陣魔法】を習得するために覚えるようにした方がいいのかもしれない。
余談だが【融合】を習得したことで最後のスキル枠を埋めてしまい、今の俺では【魔法陣魔法】を習得することができなくなっている。
このことはすでにエイミさんには伝えてあり「しょうがないですね」と理解を得ているがその際に見た悲しそうな顔は忘れられない。
そのためにもスキル枠が増えたらすぐに習得できるように今から努力しておこう。そのため、俺がクリアできるレベルのクエストであることを祈るばかりだ。
さて肝心の【融合】だが、魔法陣が広がっていくと二つのフレイムボムが自然と浮き上がり、旋回を始める。さらに上昇し、それにより旋回の円が徐々に小さくなっていく。
そしてとうとう二つのフレイムボムは同じ位置となり、赤い光の玉となる。
内心『成功したか?』と思ったが、降りてきた光の玉は地面に着くとただの黒い塊となった。【錬金術】で何度も見た〝失敗作″だ。
「まあ、そう簡単いくわけないか」
そして新たなフレイムボムを取り出し、その日は【融合】の挑戦だけで終わった。
翌日、昨日の今日で何とアップデートの日時が発表された。
その予定日は今日から約1ヶ月後。もしかしたらあらかじめ予定されていたアップデートだったのかもしれないな。
もしくは誰かが隠し里を発見したタイミングで発表できるようにしていた可能性もあるな。
ダイブしてしばらくしてラインからコミュが届いた。どうやら例のドワーフエリアのボス討伐に成功したらしく、ドワーフエリア第二の街“ブロス”が解放された。第一の街が“アイン”だったから次は“ツヴァイ”に似た名前だと思ったんだけどな。
ブロスでは想像通り近くにこれまで発掘量が少なかった鉱石が採れる鉱山があり、多くのドワーフ族プレイヤーがブロスで鍛冶に励んでいる。
シュリちゃんも当然ブロスに行ってると思いきや、彼女はアインに留まり続けている。その理由は「せっかく建てた店を手放す気になれなくて」と話している。確かに俺も遠くに新しい採取先を見つけてもアトリエを手放す気にはなれないもんな。
この調子で他のエリアも解放されていくといいなと思いながら調合していたせいでフレイムボムがただの黒い塊となってしまった。集中せねば。
それからフレイムボムを調合して【融合】を試すという作業が続いた。しかし一週間経っても一度も成功してないので、もしかしたら他にも成功する要素があるのかもしれないと思い、エイミさんを訪ねることにした。
あ、エイミさんは本業であるフェアリーガードの仕事を終わらせるためにここしばらくアトリエには来ていない。ある程度仕事を終わらせて時間を作り、【錬金術】と魔法陣の関係についてより詳しく調べてみたいそうだ。当然、きっかけは俺なのだが。
「お久しぶりですね」
「お久しぶりです。あれからどうですか?」
「全く成果無しですね」
「そうですか」
対面に座り、エイミさんが入れてくれた紅茶を飲む。もの凄くおいしいです。
「それで、何かわかったことはないかと思いまして」
「残念ながらアルケさんが吸収してしまった古代魔法陣に関してはなにも新しい報告はありません。というより、古代魔法陣そのものをアルケさんが持って行ってしまったので、調べようがありませんから」
はい、おっしゃるとおりですね。
「それでも、協力はさせてもらいます。私の方もようやく仕事が一段落したのでまたお世話になりますね」
「そうですか。ならセリムさんにも伝えておきます」
その後、【魔法陣魔法】について講義を受けているとドアがノックされた。
「ミシェルだが、入って大丈夫か?」
「ええ」
以前のホームランがあったせいかノックするようになったミシェルが入ってくる。ということは時間ということか。
「では、行こうか」
「ああ」
腰を上げてミシェルの後を追う。それに付いてくるエイミさん。
さて、いよいよ隊長達とご対面だ。
次の投稿は11月19日(水)になります。




