第三十五話:実は偉業だった
例のコミュが届いた後、体の状態を確かめるため&今どこにいるのか確かめるために歩いていると、全身から煙が出ているエイミさん+激しく息を切らすティニアさんの姿を確認したので俺が倒れていた部屋でダイブアウトした。ワタシハナニモミテイマセン。
なお、俺が倒れていた部屋はダンジョンにあるセーブポイント、すなわち安全地帯と同じようなモノらしく、ダイブアウト可能領域だった。
これで一々スプライトに戻る必要が無いと思ったのだが、現実で寝る前に“俺にはルーチェがあるから結局は帰ることになる”こと気づき、脱力したままベッドにダイブした。
翌朝いつも通り登校していると隣を歩いていた空が急に腕を掴んできた。
「兄さん、見て! 新しい情報がある!」
「わかったから落ち着け」
「いいから、コレ見て!」
いつも以上に興奮している空に呆れながらも見せられたモノを見て、固まった。
見せられたのはCWOのホームページ。
「歩きながらは危ないから見るな」といつも注意しているが返事だけして止めないためもう諦めていたが、それが今日に限っては俺に味方した。
ホームページの見出しには『妖精族エリアにて新たな街の情報が解放されました!』という文字が堂々と表示されていた。
「なんかあるプレイヤーが樹海の奥に隠された街へと到達したことで公開されたんだって! しかもこの街はなんと運営が用意していたスプライトに続く第二の街じゃなくて隠し里みたいな感じなんだって! すごいよね!」
ちなみにスプライトに続く第二の街はアップデートで追加されたエリアの先にあり、すでにボス近くまでは到達しているが肝心のボスが討伐されていないためまだ解放されていない。
その理由の一つが「先にドワーフエリアの第二の街を解放して装備を強化しようぜ!」とどこかのギルドマスターが周りのギルドにも伝え、それに賛同した攻略組プレイヤーが多いためだ。
「おーい! 二人ともー!」
そしてその元凶たるギルドマスターが俺たちを呼んでいた。
「努さん! 知ってますかコレ!?」
「お、さすがは空ちゃん。情報が早いな。俺もその話をしたかったんだ」
そうして二人してあれこれ話し合いながら歩いているので放っておいて先を急いだ。
……正直に言うと何を聞かれてもうまく答えられる自信が無かったからだ。
昼休みもその話となった。後輩三人のなかでは栞ちゃんだけがそのことを知っていたので心ちゃんと世良ちゃんは話を聞いて驚いていた。
そんな話を聞きながら弁当を食べ、自分でも調べてみた。
まず、例の街の名前は“アルバ―ロ”というらしい。
特徴は通常の街ではなく、フィールドの中に設置された空間のため、死ぬことは無いが街中にいてもダメージを受けること。まあ、それについては追及しない方針で。
プレイヤーがその街に住むことは不可能かつ転移泉は存在しないためそこに行くにはフィールドを突破するしかないなど、正直すでに俺は知っていることばかりだったが、中には俺が知らなかったこともあった。
その内の一つが『その街でしか習得できないスキルが存在する』ということだ。
実はアルバ―ロのような隠し里みたいな場所はすでに何箇所か配置されており、そこにはスキル一覧には載っていないスキルが眠っているらしい。
なお、そこに辿り着くには特定の隠しクエストを攻略する必要があることも書いてあり、中には好感度システムが重要になるモノもあると書かれていた。
そのことから、【錬金術】を【上級錬金術】まで上げていることやエイミさんの好感度システムの数値が一定以上だったからこそアルバ―ロに行けたのだと推測する。
最も、その数値の大半は“好意”ではなく“興味対象”なんだろうな。
ついでに今回の公開により、近いうちにスキル枠が追加されるクエストを含めたアップデートがあるとも発表された。それにより、現在掲示板では『これまで通り第二の街解放のためにボスに挑む攻略派』と『アップデート前に隠し里を見つけてどんなスキルがあるのか探る探索派』で議論が繰り広げられているらしい。
そして目の前では攻略派の努と探索派の空がいがみ合い、後輩三人が怯えている。
そんな光景を見ながら俺は弁当を食べていた。お、今日も卵焼きがいい感じだ。
さて、放課後となりタイムセールも無い今日は素直に家に帰ることにする。
なお、空と努はすでに学校にいない。なんでも例のニュースを見て「早くドワーフの街を解放させる!」と意気込んでおり、今日中にボスを見つけてボコると騒いでいた。どうやら話し合いは攻略派の努が勝ったようだ。
まあ、俺が遅くなったのは今日日直だったのも関連しているのだが。
家に帰るとまずは夕食の準備。
思った以上に時間が経っていたので早めに夕食を食べておくことにする。ちなみに今日は焼きそば。そろそろ野菜が痛んできてるから一気に使い切ることにする。
そして食べ終わったらいつものように空の分をラップしてCWOへとダイブする。
最早慣れたアルケとして目覚めを経て体を起こす。なお、ここは例のアルバ―ロだ。
「さてと、まずは状況整理からかな」
昨日はほとんど情報を得られなかったので、部屋を出て付近を探索することにする。するとディンさんを発見したので話しかけることにする。
「具合はもういいのかい?」
「おかげさまで」
俺の心配をしてくれた後、適当な場所に座り事の顛末を聞くことにした。
まず、例の部屋での出来事。
ディンさんとエイミさんが足を踏み入れ、そして俺が足を踏み入れた途端、古代魔法陣が反応し、魔法陣が床から浮かび上がった。この時点で俺は既に白一面の世界にいたのだが、ディンさん曰く俺はゆっくりと魔法陣に向かって歩いていったらしい。ディンさんとエイミさんが止めようとしたのだが、魔法陣が光りだして二人を部屋の外へとはじき出したそうだ。
魔法陣はそのまま上昇を続け、次第に縮小し、まさに部屋の中心で滞空。そしてその真下に俺が立ってしばらくして俺の中へと吸収された。おそらく俺が誓いを告げたその後だったのだろう。思い出してくると顔が赤くなってくる。もう二度とあんなこと言いたいくない。
その後、倒れた俺に近寄り、例の部屋へと搬送して介抱してくれたそうだ。
話を聞きながら、俺はあることについて「やっぱり」と思っていた。実は魔法陣の吸収についてはおおよその予想ができていたのだ。
なぜなら昨日目覚めてから状況確認のためにステータスを開いたとき、俺のスキル枠の中に見たことが無いスキルが追加されていたからだ。
そしてもう一つの気になっていたこと。実はこっちの方が謎だったのだが『なぜここにティニアさんがいたのか?』だ。それについてはディンさんから謝られてしまった。
なんでもディンさんはアリサさんやパロンさんと同じハイフェアリーの里で育った旧知の中で、実は俺のことも話だけは聞いていたらしい。(なおどれくらいの付き合いかは「言った途端に雷が落ちてくるから言えない」と言われた。どの世界でも女性の歳は神秘のようです。)
そこで俺が倒れ回復魔法を使用しても意識が戻らなかったため、俺と付き合いの長いアリサさんに相談のため連絡と取った際に、たまたまその場が水仙でティニアさんにも聞かれてしまったらしく、ティニアさんがここまで来てしまったとのこと。
ちなみにアリサさんはアリアさんに事情を説明して薬の調薬をお願いしたらしい。
……これは帰ったら大変なことになりそうだ。
……と思った矢先、この場に入るはずのない声が聞こえてきた。
「アルケさーん!?」
「アルケさん! 大丈夫!? 生きてる!?」
……だから君たちほんとにNPCですか?
そして運営、好感度システム一度チェックしたほうがいいんじゃないか? NPCが暴走してますよ?
「アルケさーん! どこー!?」
……ついでにもう一人も登場。うなだれる俺にそっと肩に手を置くディンさん。その優しさが心にしみます。
「いっぺん死んでみる?」
訂正、嫉妬に狂っているだけでした。
誰か助けてー!
*その頃の運営の一部*
「アルバ―ロについてはまあ、何とかなる範囲だけど……」
「彼女達の行動は我々の想定を超えていますね」
「今のところ、他のNPCは問題ないのだろう?」
「ええ、他のエリアでも同じようなことは全く発生していません。あくまで彼女たちが異常なだけです」
「……どうしますか、主任?」
「こうなったら…………いっそのこと例のアレ、やってみるか?」
「アレ? それは感情プロテクトのことですか?」
「いや、そっちではなく例の企画だよ」
「しかしそれは、他のプレイヤーから絶対批判出ますよ?」
「そこでだが…………というのはどうだ?」
「それは確かに面白そうですが、例の彼が参加するとは思えないですよ?」
「その時は私の長女に何とか説得させよう」
(((((娘ならまだしも、とうとう長女とか言いやがったこの主任!)))))
「では、異論は無いと言うことで。さっそく企画部にプレゼンするための資料作成に取り掛かろうじゃないか」
「「「「りょうかいで~す」」」」
(大丈夫かしら、彼)
次の投稿は11月16日(日)になります。




