第三十四話:誓いと想い?
部屋に入って目に飛び込んできたのは部屋を守る壁でも床に描かれた魔法陣でもなかった。
なぜなら部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、俺の視界は白一色に染まったからだ。
混乱する俺は答えを求めようとエイミさんに訊ねようして、エイミさんとディンさんがいないことに気づいた。
(トラップ!?)
すぐさま〝スノープリズム″を両手に顕現させ、左右の地面に叩きつける。もしかしたら発動しない可能性もあったが無事に吹雪を発生させることに成功し、同様に前後にも吹雪を発生させ状況を確認できる時間を作る。
さらに〝翡翠の盾″を構え、盾を持っていない手にはフレイムボムを顕現させ迎撃態勢を取る。
やがて吹雪が消え、辺り一面がまた白一色の世界に戻ると頭上から声が聞こえてきた。
『資格を持つ者よ。汝に問う。汝は何を求む』
声につられ頭上を見るも、やはりそこには白一色しかない世界。
『資格を持つ者よ。汝に問う。汝は何を求む』
再び聞こえる声。そこで俺は警戒心をそのままに声の問いに応える。なぜかそうした方がいいような気がしたのだ。
「【錬金術】の可能性を広めるために」
そう、俺が樹海の中にある街に来たのは強くなるためじゃない。もちろん【魔法陣魔法】を習得するための訓練だったのは間違いないが、一番の目的は【錬金術】のさらなる可能性を知るためだ。
そのために、【錬金術】と関わりを持つ古代魔法陣を見るために、俺はここに来たのだ。
『資格を持つ者よ。汝は正しき答えを示した』
すると俺の目の前に蒼く光輝く魔法陣が現れる。それは間違いなくエイミさんが見せてくれたあの魔法陣だった。
『資格を持つ者よ。己の真の誓いを我に捧げよ』
「真の、誓い……」
いきなり言われてもそんな言葉なんて知らない。
ついでに、こういう場合間違った言葉を告げると死んだりボスクラスのモンスターと戦うはめになったりと大抵の場合良くないことが起こる、と以前努が良く話していたことを思い出し、さらに言葉に詰まる。
しかし、いくら考えても正しい言葉なんて見つからず、頭上からは『資格を持つ者よ。己の真の誓いを我に捧げよ』としつこく言い続けられている。
いい加減うざかったので、もうやけくそでそんな感じの言葉を告げることにした。
「我、アルケがここに宣言する! 我は今後一生【錬金術】と共に歩み、その成果を世間に知らしめる! そしていつの日か、我は【錬金術】の極意〝コア・クリスタル″をその手に掴む!」
後になって聞けば赤面するほど中二病全快の言葉だがこんな言葉しか思い浮かばなかった自分が恨めしいと本気で思った。こんなことならもう少しそういう本とかゲームしておけばよかった。あ、ゲームは無理か。相性的に。
そして訪れる静寂。しばらくしても何も起きないことからこれはやっちまった系だと緊張が緩んだ瞬間、魔法陣の輝きが変化する。
蒼い光は紅くなり、さらには描かれている文字や記号までも変化していく。
(あ、死んだ)
突然の変化=失敗だと思った俺はあらがっても無駄だと思い、そっと目を閉じた。
同時に俺の体を何かが貫いた。
「……ケさ……ア……さん!」
誰か俺を呼び、そして揺らしている。
その声に導かれるように俺は閉じていた目を開けた。
その視界に映ったのは大粒の涙を流す女性。まだ意識がぼんやりしているが俺が今いる場所を思い出し、俺に名前を知っている女性、つまり声の主がエイミさんだと気づく。
「すいません、だいじょう……」
ぶ」と続けようとして違和感に気づく。エイミさんは確かフェアリーガードの鎧を着て、髪の色が赤かったはず。
しかし、今俺を見下ろしている人は鎧を着ていないし、髪も黒だ。
そして俺の知り合いで黒髪の人物は一人しかいない。
「ティニアさん?」
「! 私がわかりますか!?」
「それは、当然ですよ。間違えるわけが……」
ない」と続けようとしてまたしてもそれは叶わなかった。
ティニアさんが涙を流しながら俺に抱きついてきたからだ。それも相当な力で。
「アルケさん! アルケさん!」
ティニアさんは俺が無事だったことがうれしかったようで俺のことをきつく抱きしめる。それ自体は凄くうれしいのだが、はっきり言おう。骨が折れそうです。
すると俺の耳に聞こえてくる音。ハッとして目線を動かせば俺のHPゲージが緩やかに減少している。そして名前の横には今の状態を示すアイコン、すなわち【拘束】のアイコンが表示されている。
つまり音の正体は体力がレッドゾーンに突入したことを知らせる警告音だった。
このままでは死ぬ! とティニアさんに言いたいのだが、あまりに締め付けがきつくて口から出る声が言葉にならない。
そして俺は再び意識を失った。
「知らない天井だ」
再び目を覚ました俺は以前努に聞いたお約束のセリフ? を言うと俺は現状の様子を確認する。
まず周辺だが、どうやらどこかの部屋らしく俺はその部屋のベッドの上で横になっていた。上半身を起こし、中に何があるか確認しようとすると部屋の扉が開く。
「「あ」」
重なる声と何かが落ちる音。視線を下にすればそれは水の入った容器だった。同時に俺の額に載せられていたタオルが落ちてくる。
「えっと」
「普通ならこういうときは『大丈夫ですか?』と訊ねるべきなんでしょうが……」
入り口に立っていたのはティニアさんではなく、エイミさんだったが、どこか困惑した顔を見せる。じっと見つめていたが、エイミさんの背でなにやら黒いモノがゆらゆらしているのが見えた。
「あ、もしかしてティニアさんが後ろに隠れてます?」
俺の言葉に幽霊にでも出くわしたような声がエイミさんの後ろから聞こえてくる。するとエイミさんは落ちた容器を拾うためにしゃがんだ。そうなると当然後ろに隠れている人物が俺の視界に映る。
一瞬驚愕した表情を見せたティニアさんだったが、俺が精一杯の笑顔を見せるとようやく微笑んでくれ、俺の側へと歩いてきた。
「先程はすいませんでした」
「いえ。こちらこそ心配をかけてすいません」
お互い頭を下げるとそれが面白かったのかクスクスと笑いだすティニアさんとつられて笑う俺。なんだかすごく良い雰囲気なので、すっかり忘れていた。
――ここには第三者がいたことを。
しばらくして動けるようになった俺は扉付近に落ちていたはずの容器が無いことに気づき、そしてエイミさんがいないことにも気づいた。
そのことをティニアさんにも告げると夕日も負けるくらい顔を真っ赤に染め、一目散に扉の外へと駆けて行った。
その数分後、俺宛にコミュが届いた。差出人はミシェル。
『六番隊隊長エイミ様からアルケ宛にコミュを預かったのでこれから送る。今更だが、今度全ての隊長達も登録してくれないか?』
パシリのような役割をさせてしまったことを申し訳なく思い、少し遅れて届いたコミュを開いた。
『先ほどのお二人のご様子はしっかり記録水晶に残しておきました♪ 今度小さな記録結晶体に移してからお渡ししますね♪』
……さて、記録水晶の耐久値ってどれくらいだったかな。
次回投稿は11月13日(木)になります。




