第三十三話:樹海の街
11月10日誤字修正しました。
なんとか橋の手前まで来たが、もはや揺れているのは明確となっている。全長は目算で約1Kmくらいだろうか?
慎重に覗き込んだ谷は底が全く見えない。というわけで定番の石落としをやってみた。
結論:石が地面に当たった音が聞こえませんでした。
「本当に助かるんですか、コレ!?」
狼狽える俺にエイミさんは微笑む。ああ、そこに後光が見えます。
「落ちなければ大丈夫です♪」
訂正、悪魔の笑みでした。
「そんなに疑うなら見本を見せましょうか?」
エイミさんは橋の最初の板に足を乗せる。ちなみに橋は木製だったのでエイミさんが足を踏み入れるとミシッと音が鳴った。
「それじゃ、エイミいっきま~す!」
そんな不安定な環境には合わない勇ましい掛け声と共に足を動かすエイミさん。しかもダッシュ。
「ええ~~~!?」
俺の声が谷底から木霊する中、エイミさんはそのまま走り切り、向かいの端で手を振って俺に来いと叫んでいる。
正直今すぐ帰りたいが帰り道を思い出すとその気も失せる。またあの苦行、しかも今回は岩壁を降りることになるので場合によっては難易度が増す可能性もある。
となれば、やはりここを渡りきるしかない。
ゆっくりと足を踏み入れ、ちょうど俺のわき辺りの位置にある手すりをしっかり握る。
そして一歩ずつ確実に足を進める。
歩くたびに揺れる橋に怯え、何度も足が止まりそうになるが決して足を止めない。こういう時は足を止めたら二度と動かなくなることが多いと聞いたことがあるからだ。
実際は十分程度だろうが、体感的に1時間以上は経過したような気がする中、ようやく足が地面にたどり着き、一気に渡りきる。
思わず四つん這いになり、呼吸を整える。すると俺の視界にコップが指し出された。
「お水ですが、飲めますか?」
「いただきます……」
コップを受け取り、少し口に含め舐めるように飲む。焦って急いで飲むと危険だと昔父の友人である登山家の方に教えてもらった方法だ。
少しずつ水が体中に浸透し、呼吸がようやく落ち着いてきた。
そして俺はとうとう樹海の中にあるという街、通称〝アルバーロ″に到着した。
到着した俺とエイミさんは門番と対面した。
「おや、エイミ様ではないですか」
「おお、お久しぶりですね」
「あなたたちも変わりないようで安心しました」
どうやらエイミさんと彼らは知り合いのようだ。ついでに俺のこともエイミさんが話してくれた。
「【錬金術】ですか、懐かしいですね」
その内年上のほうの門番がそう答えたのでちょっと訊いてみた。
「【錬金術】を知っているのですか?」
「俺の親父の同級生に【錬金術】を研究している人がいたらしいんだ」
もしかしてあの老人のことだろうか。確認しようとしていまだに名前を教えてもらっていないことを思い出す。
「さて、長話は中でやろう。入ってくれ」
俺が考え込んでいる中、門番が柱の一部を押すと自動的に門が開いた。元から備わっていた遺跡の技術らしい。となるとここは元から何かを守るための場所だったのだろうか?
どうやら疑問を顔に浮かべていたらしく歩きながらエイミさんがいろいろ教えてくれた。
なんでも魔法陣やらこういう技術やら、どうやら古代の妖精族は今よりもはるかに優れた技術や知識を持っていたそうだ。となると、なぜそれが失われたのかが気になるが、それを調べるためにここにはいろんな人がいるのだと推測する。できればいろんな話を聞いてみたいものだ。
中には予想以上に多くの人がいて、その多くがエイミさんのように何かを研究している人らしい。そのジャンルは生物・地質・考古学など多岐にわたっている。
中には屋台を出している人もいて生活感が溢れていることからここが街なのだと改めて認識する。
「このアルバートは未だその規模を大きくしている樹海の街の一つなんです」
「一つということは他にもこんな街があるのですか?」
「私が知る限りではあと3つはありますね。他にもあるそうですがそこでは古代魔法陣が見つかっていないようなので私の耳には入ってこないのです」
樹海の中で見つかった街はフェアリーガードがまず調査し、そこに何があるのかを調査する。そして見つかったモノを研究・調査している人物や団体にだけ情報が流れるようになっているらしい。
これは知識の無い人間を入れて調査を妨害・邪魔することを防ぐための処置ということだと教えてくれた。
「ということは今エイミさんが知らない場所でも古代魔法陣が見つかったら……」
「当然私の耳にも入り、調査に加わることになります。実際この街もその一つでしたから」
そんなことを教えてもらいながら俺は街の中に建てられた木製の建物の中に入る。ちなみにここに来るまでに目にした遺跡は全て石製だった。これだけでも今の妖精族とは異なる技術が発展していたことを表しているな。
「お久しぶりです、エイミです」
「おお、エイミさん。遠路はるばるごくろうさま」
建物に入ってすぐ近くにいた男性に話しけかけるエイミさん。仲良く談笑しているので仲がいいのはわかるが俺は別のところに注目していた。
(あの男性、ハイフェアリーか?)
ほんのわずかだが男性の体に小さな光の玉が見える。おそらくアリサさんやパロンさんと同じ魔力光だ。
しかし魔力が高く里からあまり出てこないと言われているハイフェアリーがこんなところにいるとは、実はここって相当重要な場所なのだろうか?
「あ、ごめんなさい。アルケさん、こちらは私たちに協力していただいているハイフェアリーのディンさんです」
俺がじっとハイフェアリーの男性を見ていたことに気づいたエイミさんが男性のことを紹介してくれ、ディンと呼ばれた男性は俺に手を差し出した。
「ディンだ。ハイフェアリーだが、気にせずに接してくれると嬉しい」
「どうも。外の住民のアルケです」
「へえ、外からの客人だったのか。初めて見たよ」
すると俺の周りを回りだし、全身を見つめてくる。なんか動物園のパンダにでもなった感じだな。
「こら、ディンさん。失礼ですよ」
「おっと、失礼」
エイミさんに怒られたディンさんは俺に一言謝るとエイミさんの隣に戻った。
「ところで今日はどうしたんだ? 定期報告にしては時期が少し早いようだが?」
その後俺の【錬金術】についての説明があり、説明を聞いたディンは少し驚いた表情を見せた。
「それならさっそく見に行くのか?」
「ええ、時間もなさそうですから」
言われてみて気づいたが、そろそろダイブアウトしないと明日が辛くなる時間帯だ。まあ、エイミさん的にはもうすぐ日が暮れるからという理由だったのだが。
さていくつかの遺跡を通り過ぎ、ようやく目的の遺跡に到着した。
元は円柱の建物だったらしいが、長い年月のせいで半分崩壊し、ところどころに草が生えている。それでも結構高く、残っている部屋から多くの遺産が見つかっているそうだ。
俺たちは建物に入る前にその遺跡を守っている守衛らしき人物たちにチェックを受ける。特に俺は初めて見る人物ということもあり入念に調べさせられた。
チェックが終わり、ようやく遺跡の中に入ると少し寒く感じた。これは遺跡の床に描かれた大型の魔法陣によるものだという。
「この古代魔法陣を研究し、解明したことで冷蔵保存室とかができたんですよ」
「ちなみに、その解明をしたのが当時まだ新入り隊員だったエイミなんですよ。その実力が評価され、今の地位に就いてるのです」
ディンさんの補足に照れたようにディンさんの背中を叩くエイミさん。なるほどその当時からすでに秀でたモノを見せていたのか。
「ところで、新入り隊員と言いましたよね? ディンさんも実はフェアリーガードに?」
「いや。ハイフェアリーはフェアリーガードに入隊できない決まりだから。言い方がアレだけど、普通の妖精族とハイフェアリーじゃ魔力量が違いすぎるから」
そう言えば前にミシェルが特別な例だと聞いたことがあったな。
その後も簡単に雑談しながら崩れている階段を上っていく。このまま登って大丈夫かと思ったが、遺跡周囲に現状を維持させることができる大型魔法陣が描かれれているため、よほどの衝撃を与えない限り崩れることは無いらしい。
これは古代魔法陣ではなく、解明された古代魔法陣の特性を組み合わせた形成された魔法陣で、エイミさんの三代前の六番隊長が描いたモノらしい。
エイミさん曰く「ハイフェアリーに匹敵した伝説の六番隊隊長を除けば最強の妖精族」と言われるほどの人物だったそうだ。
その人に感謝しながら階段を上り、4階に辿り着くと階段から通路へと歩く場所を変える。
そして4番目の部屋の前に立った。
「今解除するから少し待ってくれ」
ディンさんが詠唱を唱え始める。古代魔法陣は他の場所に移すことができないので荒らされないよう部屋自体を守るための障壁を形成し、あらゆる進入を防ぐようにしている。
通常よりも長い詠唱が続き、障壁はガラスが割れるような音を立てて消える。
さあ、いよいよご対面だ。
次話は11月10日(月)に投稿します。




