第三十一話:魔法陣魔法
今日もダイブすると調合しているセリムさんとその様子を記録しているエイミさんがいた。
調査・研究する前にまずは【錬金術】がどういうモノなのかを学ぶことから始めることにしてからすでに3日目。
俺もセリムさんも講義のようなことができるわけではないのでいつものように調合し、エイミさんはそれを見て学ぶという形式になっている。
エイミさん曰く「知りたいのは【錬金術】ではなく魔法陣なので【錬金術】は“何をしているか分かる程度”の知識があれば十分」とのこと。
あと魔法陣に関してだが、俺も【錬金術】と魔法陣の関係はよくわかってないので一緒になって調べることになった。
しかし俺はそれを調べる機器の操作を理解できなかったので、これまでの調合結果をレポートにまとめることで協力している。これでも十分資料になるらしい。
まあ、これまでの結果を全て出したら呆れられたが。
「データ多すぎませんか?」
「まあ、いろいろ実験してますから」
CWOにはメモ機能もあり、そこに必ず調合法と結果を残しておいたので、レポート自体は結構簡単にできた。なお、このメモを残す行為はシュリちゃんから教わった。同じ初心者から教わってることに若干何かを失った気がしたが。
「何度見ても不思議ですね。素材自体の組み合わせはわかりますが、どうやって成立させてるのでしょう?」
エイミさんの視線の先で調合した物を取り出しているセリムさん。問題なく成功したようで、そのランクを確認している。
「あと、『完成したアイテム数+1』なんて機能の魔法陣も初めて見ました。【錬金術】との関係は分からなくても、この機能だけでも解明したいですね」
「確かに、それが分かればいろんな事に使えますからね」
「問題は書いてある文字がさっぱり読めないことですね。私が知ってる古代文字とも違うみたいですから」
魔法陣を描くのに必要なのは文字や記号、または何かの図。それらを組み合わせることで魔法陣自体に性能を持たせ、そこに魔力を流し込むことによって発動する。これが魔法陣の仕組みだ。
なお、昔も今も魔方陣の文字や記号はエイミさんが言った古代文字を使用している。かつて翻訳し、今使われている文字で試したところ全く効果が無かったため、古代文字自体が力を持っているのではないかと言われているらしい。
そんなことを思い出しつつ、俺も【錬金術】に取り掛かる。PVP武闘大会があったので保留にしておいたブローケンヴァイン対策だ。
しかし、どうやってもうまくいかないところを考えると、やはり例の宝石店に行って〝ガラス砂″を分けてもらえるよう交渉するしかないのだろうか。
「ルーチェ依頼分完成」
「ありがとう」
「これくらいは問題ない。そっちは未だに厳しい?」
「まあ、見てわかるとおりです」
俺の隣には失敗作が詰まった〝聖樹の籠″がすでに2個置いてあり、現在三個目だ。
なお、これらの失敗作はエイミさん率いる第六隊の魔法練習の的やミシェルたち武器を使うモノたちの練習にも使われ、耐久値が0になると消滅しているので向こうでゴミになることはない。
これまではミシェルが回収に来てくれているが、今はエイミさんが持って帰ってくれてる。たくさん入っていても重さは変わらないからな。
「ねえ、アルケさん? 【魔法陣魔法】習得してみましょうか?」
本日通算三十回目の調合失敗を達成したところでエイミさんから声がかかった。
どうやらしばらくは俺の調合を見ていたようだ。
「【魔法陣魔法】を?」
「そう。【魔法陣魔法】を習得しますと魔法陣が見えるようになるのです」
エイミさんは紫に染まった右目を指した。なるほど、瞳の色が違うのはそういう意味があったのですか。
「見ること自体は魔力の量・質などいろんな要素が必要ですが、何とかなります。それより必要なのは知識です」
「知識?」
「例え魔法陣が見えても解読できなければ効果はわかりません。また解読できてもその効果を理解できなければ運用ができません」
なるほど、『【調合の成功率向上】』と書かれた魔法陣があっても『調合』の意味を知らなければ意味が無いというわけか。
「しかし、なぜ今【魔法陣魔法】を?」
「しばらく見てましたが、調合する際に発動する魔法陣が複数あるみたいだからです」
エイミさんによると「【錬金術】で完成するアイテムの種類が関係しているのではないか」とのこと。実際、セリムさんが調合する時と俺の時で異なる魔法陣が見えたらしい。
そのため『全体の“調合用の魔法陣”が根底に存在し、さらに“それぞれの効果に合った魔法陣”があるはず』とエイミさんは推測した。
「それが分かれば、もしかしたら調合法がすこしでもわかるのではないかと思うのですが」
調合法の解明ということにはエイミさんも半信半疑のようだが、今まで失敗続きだった原因がわかるかもしれない可能性がわずかにでもあるということで挑戦することにした。
場所は変わってフェアリーガード本部の訓練場の一角。
少し離れた場所では隊員たちが魔法訓練に励んでいる。
なおセリムさんはアトリエで寝ているため不参加。
「では【魔法陣魔法】の習得法なんですが、杖はありますよね?」
言われて俺は杖を具現化する。忘れているかもしれないが、装備状態の武器はその存在を隠すことができる。
「それで、地面にこれを描いてください」
渡された紙には魔法陣が描かれている。これを地面に描くことで魔法が発動する、ここまでは普通の魔法と一緒。ちなみに、これは【身体能力向上】の魔方陣で、一番初めに覚える魔方陣、すなわち一番簡単な魔法陣だ。
「その際に、これを持って魔法陣を描いてください」
渡されたのは手のひらサイズの玉。色は黒く、光すら通さないほど漆黒だ。
「本来は映像や通信を記録する〝記録水晶″と呼ばれるモノなんですが、今回はこれに魔法陣を覚えさせます。魔方陣を覚えさせた後、これを杖と【合成】します。そして杖に魔力を流すことで杖から魔力を地面に伝道させ、その魔力で記憶した魔法陣を描ければ【魔法陣魔法】を習得したことになります」
【合成】をエイミさんが知っていたことに驚いたが、習得方法は理解した。しかし大きな問題点が二つある。
「質問です」
「はい、なんでしょうか?」
「この〝記録水晶″結構重いんですけど」
持ってみてわかったが、手のひらサイズという大きさにも関わらず重さがボーリングの球(だいたい13号)くらいの重さがある。常にこれを持ちながら魔法陣を描くのは正直しんどい。
「それは耐えてください。これ以上小さいと魔法陣を覚えきれないので」
「……わかりました。あと、魔力で陣を描くにはどうすれば?」
「普段魔法を使うのと同じように魔力を糧に念じるだけです。こっちの方が簡単ですね」
いいえ、簡単じゃありません。なぜなら魔法なんて使ったことないからです。というより、魔法関連のスキルは全く持っていなのですが。
とりあえず、その問題は後で考えることにしてまずは魔法陣を覚えさせることから始めた。これをクリアしないと始まらないしな。
結論:無理でした。
「おもい……」
「あはは……」
地面に倒れている俺を見てエイミさんは苦笑しているが、ある意味当然の結果だ。
俺は戦闘において筋力は一切使っていない。使うのがアイテムと精々盾くらいなせいなのもあるが。そういえばパラメーターすらいじってない。【錬金術】ばかりで自身の強化は全くしてこなかったからな。
そういうわけで一番簡単な魔法陣を書くことすらできなかった。一番簡単でも直径1mはあるし、文字と記号が入り混じってすごく書きづらい。
「これは、鍛える、しか、ないか」
「それしかないですね。でも、いい機会かもしれません」
いい機会? あれ、なんだろう、冷や汗が流れ出しましたよ?
倒れている俺に近づき、俺の顔を見下ろしているエイミさん。その満面の笑みが非常に怖いです。
「アルケさん」
そしてその口が動き出す。
「今度ピクニックに行きましょう♪」
次の更新は11月4日(火)です。
補足:【魔方陣魔法】で目が紫色に変わるのは発動中のみです。エイミさんの場合、ランクアップしてより少ない魔力で発動させることができ、『新しい魔方陣を見つけたらすぐに解析できるようにするため』に常に発動状態にしています。




