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VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第二章:新たな力
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第二十九話:フェアリーガード六番隊隊長エイミ

予定より一週間も延長してしまいましたが、ようやく再開します。大変遅れてしまい、申し訳ありませんでした。


*10月29日:誤字修正しました*

フェアリーガード六番隊。

六番隊は魔法攻撃に特化した隊で、そこに所属することは攻撃系魔法を得意する者にとって目標であり憧れである。つまり、そこで隊長という肩書を持つことは『妖精族屈指の攻撃魔法の使い手』という意味でもあるのだ。


なおハイフェアリーがいる限り、彼らは“妖精族最強の魔法使い”にはなれない。一応、過去には普通の妖精族でありながらハイフェアリーをも上回る魔法の使い手だった六番隊隊長もいたようだが、それも本当のことなのか分からないらしい。


そしてそんな隊長さんに「もらってください」なんて言われたら間違いなく妖精族として勝ち組だろう。……その言葉が文字通りの意味ならば。




「本当に、申し訳ありませんでした……」

「いや、こちらの誤解だったのはすぐに理解できましたので」


俺は六番隊隊長室でひたすら謝り続けるエイミ隊長さんを宥めている。


この部屋は歴代の隊長の自室も兼ねており、その代によって内装を変えているらしい。一見大変そうだが、そこは魔法使いのスペシャリスト。あっという間にこれくらいのことはできるらしい。魔法ぱねぇ。


なお、エイミ隊長さんの場合、本人の髪の色と同じ赤色のカーペットが敷かれ、置かれている調度品も赤系統の色が多い。

やはり攻撃系魔法だと火属性関連が主流なのだろうか? まあ、赤=火属性という俺の勝手なイメージからの想像でしかないのだが。


「それで、本題ですが……」


俺の言葉に下げていた頭を上げ、その双眸が俺を見つめてくる。今気づいたけど瞳の色が左右で違うんだな。左目が黄、そして右目が紫か。


そんなことを考えながら俺はエイミさんから言われる言葉の回答を考えていた。

普通は相手が何を話すかなんてわかるはずもないが、これまでの経験からこの後口にする言葉はすでに想像がついている。


すなわち「私を弟子にしてほしいんです」という類のモノ。

しかし俺は“【錬金術】に興味を持った程度の人”に【錬金術】を教えたくはない。それでもしつこくお願いしてくる者もいる。


一応フェアリーガードは大口の取引相手みたいな感じなので印象を悪くはしたくないが、これだけは譲るわけにはいかない。


そんな俺の考えを知るはずもないエイミ隊長さんはついにその口から言葉を発した。


「【錬金術】の研究をさせてもらえませんか?」

「申し訳ありませ……へ?」


あれ? 想像と違う?


「すいません、今何と?」

「ですから【錬金術】の研究です。もっと詳しく言えば“【錬金術】で使われている魔法陣”について調べたいのです」

「は? 魔法陣、ですか?」


【錬金術】になんで魔法陣が出てくるんだ?


「はい。私は六番隊長とは別にもう一つの肩書があります。それは『魔法陣研究所所長』です」

「魔法陣……研究所?」

「そうです。そもそも魔法の起源は魔法陣であることは知ってますか?」

「いいえ、知りませんでした」


そこからエイミ隊長さんの講義が始まった。


まず、魔法がいつから存在するのかは明確には明らかになっていないそうだが、かつて魔法は全て“魔法陣”を必要としていた。

ある時、妖精族・エルフ族の中から魔力に長けた者たちが集まり魔法陣を使わずに魔法を使える方法を研究し、その成果として生まれたのが“詠唱”だ。

詠唱の開発成功により魔法陣を描かずとも魔法が使えるようになったことで生活は一変し、より豊かになった。

やがてそれは他の種族にも伝わり、いつしか魔法陣は廃れていった。

なお、その詠唱をさらに簡略化させたモノが初級魔法、簡略化できず詠唱がそのまま伝わっているのが上級魔法とのこと。


「でも、魔方陣は今も使われていますよね?」

「ええ、魔法陣自体は今も存在します。しかし、アルケさんが知っている魔法陣は古くから伝わる魔方陣、通称“古代魔方陣”を研究し、誰でも使えるようにしたモノなんです」


古代魔法陣は現実の遺跡のような古代遺産や昔の本の中から見つかる昔使われていた魔法陣、すなわち詠唱が生まれる前から存在する魔方陣のことらしい。


また古代魔方陣は『目的のために余分なモノを一切排除した魔方陣』とも言われているらしい。つまり『火を起こす』ために創られた古代魔法陣とは『“火を起こす”ためだけに特化した魔方陣』という感じだ。

とある実験結果によると古代魔法陣を使って発動させた魔法の方が火の威力や温度、燃える時間などほぼ全てにおいて今使われている魔方陣を上回っているとのこと。

唯一の欠点は燃費の悪さらしい。消耗する魔力が倍近く違うとのこと。


「しかし、なんで昔の方が強いんですか?」

「今の魔法陣は誰でも使えるようにするため、“使いやすさ”や“単純さ”などいろんな要素が含まれています。一方、昔の魔法陣はただ“魔法を発動する”ことだけを考えられていたからだと推測されています」


魔法陣に余計な情報を追加してるからその分威力が下がってるということか。なお、今の魔方陣に威力が上がるように威力向上させる要素を追加するとかなり大きくなってしまうため、扱いづらくなってしまう。


「しかし、ここ最近は新たな古代魔法陣が発見されず、かつて発見された古代魔方陣の解明も進展が無く、研究は停滞していました。そんな時現れたのがアルケさんの攻撃アイテムです」

「攻撃アイテム、ですか?」

「はい。魔法陣でもなく、詠唱でもない魔法の産物。私はそれに注目したのです」

「【錬金術】は純粋な魔法じゃないと思うのですが?」

「しかし、異なる物質を組み合わせ、新たな物体に創造するためには必ず魔法が使われているはずです。しかし【錬金術】に魔法の詠唱は必要無いことが調べた結果わかりました。ということは、どこかに【錬金術】を可能にしている魔法陣があるはずなんです」


そう言われれば、確かにそうなのかもしれない。俺としては“CWO=ゲーム”という認識なので“ゲームならこれくらいできて当然”と思っている。

しかし、現実に考えてみれば草と水と石を混ぜるだけで爆弾は作れない。となれば、それを可能にする“何か”があるはずだ。


「私が知りたいのはそれら“【錬金術】が使っている魔法陣”です。どういう魔方陣で、どういう描かれ方で【錬金術】が成立しているのかが知りたいのです。もしかしたら、それは未解明の古代魔法陣の効果を解くカギにもなるかもしれませんから」


そう言われると研究者として知りたいという気持ちがよくわかる。俺も話が錬金術関連なら同じことを言いそうだし。


「それと、これは今後のフェアリーガードにおいても必要なことでもあるのです」

「今後の?」

「今はアルケさんのおかげで攻撃アイテムが確保されていますが、アルケさんがこの先ずっと、それこそ永遠にフェアリーガードに攻撃アイテムを提供してくれるわけありません。そのため、アルケさんがいなくなった後でもフレイムボムなどの攻撃アイテムを量産できる体制を今のうちから築き上げる必要があります」


スプライトにいる錬金術師は俺以外だとあの老人しかいない。しかし、老人は過去の屈辱もあるから確実に協力してくれるとは限らない。

セリムさんに関しては、お父様の悲願を叶えるために協力してくれるのであって、フェアリーガードに協力してるわけではないからな。


「これはフェアリーガードからアルケさんへの正式な依頼という形になります。詳しくはこちらを見てください」


その言葉と共に差し出された紙。そこには今話した内容が書かれていた。期限は無く、調査完了はエイミ隊長さんの判断に一任されているとも書かれている。

そして最後に報酬が書かれていた。膨大なセルといくつかのアイテム。書かれているアイテムは俺が知る限り今存在するアイテムの中でも結構高価なモノばかりでそれだけでもすごいが俺が注目したのは報酬欄の一番下に書かれた文字。


「【魔法陣魔法】の伝授?」

「これも魔法陣研究所の成果の一つです。かつての魔法の使い方、すなわち“魔法陣を描いて魔法を発動させる”という能力です。速攻性はありませんが威力は高いですし、設置式にすれば罠にも使えます」


魔法陣自体は知っているが、このスキルは聞いたことが無い。おそらく隠しスキルの一種だろう。

隠しスキルは一定条件を達成することで習得できる特殊スキルで、それを習得するとスキル一覧に更新されるが、更新されるのは名前と効果だけでその入手方法は公開されない。そのせいで秘密スキルなんて言われている。

まあ、たいていの場合公開されているらしいが。


「習得するには魔法陣を覚え、それを正しく描く必要があるので確実に習得できるかはわかりません。しかし、調合法などを覚えなくてはいけない生産系技能と同じと考えていただければ、習得は可能だと思います」


エイミ隊長さんに言われ、少し考える。


正直、メリットしかない話だ。


【魔法陣魔法】もそうだが、ここで【錬金術】の仕組みが分かれば今後の調合にも役立つかもしれない。以前セリムさんが調合粉末の量を計っていたように、もし魔法陣が本当に存在し、その効果を正しく理解できれば同じ調合法でもより効果が高いモノが出来るかもしれない。

【魔法陣魔法】の習得は難しそうだが、【錬金術】のレシピはいつでも閲覧できることを考えると、一度覚えたもしくは成功した魔法陣は登録される可能性がある。それならばその後は何度も使えるということになるからデメリットは消える。


さらに【錬金術】の魔方陣が判明すれば調合以外での【錬金術】が可能かもしれない。


……ここまで考えても断る理由が見つからないか。


「わかりました。ご協力いたします」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


感極まったエイミ隊長さんがテーブルを超えて抱きついてくる。そこまで嬉しかったのかこの人!?


「失礼する。飲み物を持ってき……」


そこに登場するミシェル。俺の中の紳士なミシェルはどこ行った?


その後は一気に赤面したエイミ隊長さんが再びミシェルをホームラン。今度は天井すら貫き、キラーンと星になって消えた。


NPCって死んだらそこで終わりなはずだけど……大丈夫か、ミシェル?

修正した結果、エイミさんは弟子ではなく、研究者ということになりました。

それとまだプロットが完成したばかりでストックが無いため、しばらくは3日に1回の更新とさせてもらいます。誤字脱字修正もありますので、どうかご理解とご協力をよろしくお願いします。

毎日更新に戻せるくらいストックが溜まったら戻せるかもしれません。その際は告知します。


こんな体たらくな作者で申し訳ありませんが、今後も楽しんでいただけると嬉しいです。


次回更新は10月29日(水)となります。

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