第二十六話:反省会
本日は3話連続更新です。
さすがに多いため、時間をずらしてあります。次の話は23時に予約投稿してあります。
「いたいよ~」
「だ、大丈夫ですか?」
目の前で耳を押さえながら「いたいよ~」を連発しているミオさんという女性プレイヤーとそのミオさんを介護? しているエルジュがいる。というか、このやりとりすでに10分以上になるのだが、まだ続くのか?
説明が遅れたが、ここはブレイズのギルドホーム内。そこで開かれているのは簡単に言えば『今回のPVPの反省会』だ。
ここには現在三つのギルドのメンバーがいる。
まずはブレイズ。これはまあ、当然だろう。ちなみにPVPに参加したメンバーと彼らを『訓練』と言って連れて行ったライン達もいる。
お次はヴァルキリー。これはPVP参加メンバー全員ではなく、参加しているのはエルジュとカリンさんだけ。カリンさんが他のギルドにいてもいいのかと思うが、実は今ここにいるのはカリンさんであってカリンさんではない。
一度ヴァルキリーのギルドに戻ったカリンさんは自室でダイブアウトし、再度ダイブインしている。しかし、そのアカウントはカリンさんと同室の友人のモノ。
そのため、事前に説明してもらわなくては今のカリンさんをカリンさんだとは思えないほど、見た目が変わってるのだ。具体的にはカリンさんは西洋剣主体の剣士なのに、今のアバターはミオさんに似ている魔法使い系なのだから。
最後はそのミオさんが所属するセラフィム。そのセラフィムからはミオさん以外にこれまたギルドマスターのアポリアさんと盾職のヴィノさん。
つまり、ヴァルキリーVSセラフィムの最後のメンバーが全員そろっているのだ。
あと、おまけでシュリちゃんが参加している。
それ以外のメンバーがいないのは、彼ら全員がお互いに相手のギルドを嫌っている面々のため。ギルド内では攻撃ができないとは言え、そんな連中が一緒の空間なんて想像すらしたくない。
「しかし、残念だったな」
ようやくミオさんの介護を終えてぐったりしているエルジュに声をかける。
「しょうがないよ。残ってたのカリンさんだけだもん。いくらトッププレイヤー並と言っても1対3じゃ勝てないよ」
そう、なんで急に反省会になってるかと言うと、セラフィムに勝利したヴァルキリーだが、残ったプレイヤーはギルドマスターのカリンさんのみ。そのため、次の試合で三人残ったギルドとの戦いでリタイヤとなってしまった。
それでも残り一人まで減らしたのだから善戦したと言えるだろう。
俺がエルジュをいたわっている間、正確にはエルジュがミオさんの介護をしている前からずっと、今回のPVPについて三つのギルドが合同で話し合い、それぞれが今回の敗因について話し合っている。
今は全体的な話し合いは終わったようで、各ギルドごとに分かれている。聞こえてくる範囲ではライン達ブレイズは今度のメンバー編成を、ヴァルキリーはギルド全体の戦力の強化を、セラフィムは個々の戦力の強化をそれぞれ話しているようだ。
シュリちゃんは参加しなかったブレイズのメンバーと楽しくお話し中だ。……「ファンクラブメンバーが暴走したらすぐに言って」とアーシェから言われてるからしっかり見ておかないとな。
「しかし、結局優勝したのは“シンフォニー”ってギルドか。全く知らない名前だな」
何気なく口から出た俺の一言だが、なぜか全員の視線が集中した。
(あれ? 何か変なこと言ったか?)
「お前さぁ」
ラインは呆れ、
「まあ、そうだよね」
エルジュは同じく呆れながらもなぜか納得し、
「「「……」」」
他の方々は「コイツ何言ってるの?」的な目で俺を見ていた。
「一応説明しておくが、ブレイズが結構強いギルドってのは知ってるよな?」
「そりゃ、トップギルドって呼ばれてるくらいだからな」
それぐらいは知ってる。
「その評価はうれしいが、ブレイズはあくまで“トップギルド”の一部でしかない」
「一部?」
「俺たち以外にもトップギルドって呼ばれているギルドがあるってことだ」
「なるほど。確かに他に無ければ“最強ギルド”って呼ばれてるのか」
「正解……で、今お前が言った“最強ギルド”って言われてるのがギルド“シンフォニー”だ」
っへ?
「そんなにすごいのか!?」
「試合ちゃんと見てた? 今回のPVPでもリタイヤしたのは一人だけ。盾職のクロウって男性プレイヤーだけだよ」
それはすごい。ってそんなのが出てくるのになんでブレイズは二軍だったんだ? 一軍も出ればよかったのでは?
「まあ、俺達はあいつらの強化も兼ねてたからな。それにシンフォニーはギルドであってギルドじゃないからな」
「どういう事だ?」
「あそこは一切追加メンバーを募集しない。メインとなる6人とサブ要員の4人。そして整備5人の計15人だけで構成されている。しかも、サブと言ってもその全員がトッププレイヤーだ」
「何だそのチート連中は?」
「確かにお前の考えは正しい。しかも、彼らの名前は規格外に有名だ」
「そうなんだよ。他のゲームでも同じギルド名やチーム名には“シンフォニー”を使ってるからすぐにわかるんだよ。まあ、彼らじゃない場合もあるけど」
そんなにすごいのか。それは確かに興味深い。
けど、俺には関係なさそうだな。そんなプレイヤーと会う機会なんてまずないだろうし。
「あの~、お話が終わったところでよろしいですか~?」
一通りシンフォニーの説明をラインとエルジュから聞き終わったところでミオさんが来た。またエルジュに用事かなと思ったら対象は俺だった。
「急な話で申し訳ないのですが~、お店で売っている以外に~、〝スノープリズム″はないでしょうか~?」
「ルーチェで売ってる以外、ですか?」
「はい~。やっぱり使うのなら性能がいいのがいいじゃないですか~」
ミオさんの発言に加えてシュリちゃんからも声が飛んできた。
「確かに、性能が良ければより良いものが出来るとは思いますが……それでも壊れやすいのは変わりませんよ?」
最初は俺へ向けていたが、最後にはミオさんを見ていた。やはり職人としては壊れやすいモノはお勧めしたくないのだろう。俺も平均値以外の調合品は研究用として保管する以外、素材採取の際に自分で使うぐらいしか使ってないし。
「それでも~、詠唱せずに魔法を使えるのは便利なのよ~。本人の魔力が尽きても通常のアイテムとして利用できるし~」
その言葉でここにいる魔法使い系全員がミオさんの最後の吹雪の正体に気づいたようだ。そのせいか、俺を見る視線が強まった気がする。
「やっぱりアレ〝スノープリズム″だったんだね! あれのせいで私やられちゃたんだよ! どうしてくれるの!?」
「いや、創ったの俺だけどさ……」
とはいえ、ここで杖を創ったシュリちゃんに責任転嫁するのはおかしいだろう。
「そもそもお前こそ〝フレイムボム″を矢にくくりつけてたじゃないか」
「私は妹だからいいの」
「何だその理論?」
兄弟、傍から見たら姉妹、のケンカは割り込んできたミオさんによって遮られた。
「それで~、結局あるのですか~?」
「いや、あることはあるけど……」
俺はチラッとシュリちゃんに目を向ける。視線に気づいたシュリちゃんは「私のせいですか!?」と言いたそうに驚いている。
それを目ざとく見つけたラインがとっさにシュリちゃんの前に立つ。そう言えばお前シュリちゃんファンクラブの会員だったな。
「さすがにシュリちゃんに責任を押し付けるのはどうなんですか?」
「アルケさん~? 責任転嫁はいけないと思うよ~?」
さらにエルジュとミオさんも気づき、口にしたのもだからそれ以外の面々からも視線が飛んでくる。一部殺意も混じってるが、これはムルルたちブレイズのファンクラブメンバーか?
「あ~、どうせならもう公開しちまうか」
俺はアイテムウィンドウにあるあるアイテムを選択する。
他のみんなは視線は感じるがその種類は変わっていた。すなわち“公開って何?”である。
その視線を受けながら、俺は白く輝く物体を選択し、物体化させた。




