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VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第二章:新たな力
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第二十四話(番外編):意図

「そちらから出てくるなんて余裕の表れかしら?」


呆然としている私とは対照的にカリンさんはすでに戦闘態勢だった。


カリンさんは人族で、メインは片手剣。それに〝スモールシールド″と呼ばれる小さな盾を利き手とは反対の左手~左ひじの間に装備している。本人曰く「通常の盾だとバランスが悪くてうまく剣を振るえない」とのこと。


実はカリンさん、リアルで剣術をたしなんでいる。その目的が護身用と聞いて『やっぱり、お嬢様学校に通っているのだからいろいろあるんだろうなぁ』と思った。

そのおかげか、カリンさんはVRMMO初心者でありながら西洋タイプの片手剣(前にプレイしたゲームで使っていたカッツバルゲルと言う剣に似てる)を駆使し、その腕前は第1エリアボス攻略戦において取り巻きのデーモンソルジャーをあっさり撃破していた。


そのため、カリンさんはトッププレイヤーに匹敵するプレイヤーとしても注目されている。


トッププレイヤーに匹敵するカリンさんと間違いなくトッププレイヤーであるアポリアさん。この二人が対峙していると私が場違いのような気がしてならないが、私にも役割がある。


アポリアさん以外のセラフィムメンバーへの対処だ。

すぐさま【索敵】を発動させるが、アポリアさん以外の敵反応は無い。しかし、油断はできない。


ミオさん以外のもう一人は盾職とカリンさんが言っていた。となれば、盾職のプレイヤーがさっき戦ったばかりのため回復中のミオさんを守っていると考えられる。

……うまくいけば、あの矢の出番かもしれない。一本しないから扱いどころを間違えないようにしないと。


そんなことを考えながら普段使っている矢を構え、いつでも射れるようにする。


さあ、いよいよラストバトルだ!







……と思ったのだが、あれから二人とも動かない。


カリンさんはまだ分かる。おそらく踏み込むタイミングを計っているのだろう。


しかし、アポリアさんが未だに弓に手をかけないのがどうしても気になる。だからこそ、カリンさんも迂闊に動けないのだろう。


カリンさんならアポリアさんが弓を構えるまでに接近できるかもしれない。しかし、アポリアさんだって弓だけでこの世界を戦ってきたわけではないはず。

間違いなく、アポリアさんは近接格闘系スキルのレベルも高いのだろう。その仮説はセラフィムと戦う前にカリンさんに言われていた。


『一番注意すべきアポリアさんですが、彼女は弓とナイフだけでエリア1のラストダンジョンを最初に攻略したプレイヤーであることを忘れないでください。弓がメインだから近接なら勝てるとは決して思わないでくださいね』


CWOのスキルには【剣】以外にも【短剣】というスキルがある。これは刃が50㎝以内の剣を使う時のスキルで、一撃一撃はたいしたことはない。しかし、【短剣】スキルの特徴は一撃の攻撃力ではなく、“連続で攻撃ができること”と“特殊効果付きのアクト”だ。


その一例が〔スネークバイト〕という確率で相手を【毒】状態にするアクトだ。同じ短剣使いのギルドメンバーと近接戦を想定した模擬戦をしたことがあるが、本物の蛇のように曲がりながら向かってくるので非常によけづらい。

盾があれば楽に防げるのだが、弓主体私は盾を持たない。私の場合機動力重視の面もあるので、近接は避けることに専念し、距離を取って弓で攻撃するという完全なる後方攻撃型なのだ。


自身のスタイルを回想し終わったところで動きがあった。

カリンさんがわずかだが近づいたのだ。


しかし、アポリアさんは未だに立っているだけ。一体何が狙いなの?




その後も、少しずつ距離を詰めていくカリンさん。とっくに弓の射程圏内に入っているのに未だに動かないアポリアさん。


その時、カリンさんが視線をアポリアさんに向けたままリンクを開いてきた。


《どう見る?》

《ここまで来ると『何かある』のは確実ですね。未だに他のメンバーも見つかりませんし》


そう、この瞬間になっても【索敵】に何も反応がない。そろそろMPの残りが厳しくなっていくが、ここで【索敵】を解除してその瞬間に残り二人に近づかれたらそれこそ私たちの勝機が無くなるかもしれないので、継続し続けている。


(でも、ここまで時間が経ってるのに誰も来ないのはなぜ? さすがにおかしい)


今回のイベントPVPでは勝利条件は相手パーティーの全滅の他に相手がリーダーに選出されたプレイヤーを倒すことだ。

しかし大抵の場合、リーダーは一番強いプレイヤー、主にギルドマスターが担当している。


『もしかしてリーダーが別にいるのでは?』という考えはすでに頭にあったが、ここまで時間をかせぐ必要はないは……ず?


(時間をかせぐ?)


なぜかそこが引っ掛かる。

『時間を稼ぐ』ということは『時間が必要』ということ。そして相手の残りメンバーの構成。今の状況。そこから導き出される相手の攻撃手段。


(ミオさんの広域殲滅魔法!?)


一瞬大声を出しそうになる自分を慌てて抑える。それは可能性であって確実ではないのだから。


(それに、今私とカリンさんは離れつつある。こんな状態で広域殲滅魔法を使っても二人同時に倒せない。なら、他に狙いがある?)


考え続ける。その間にもカリンさんは足を進めている。もう少しでカリンさんが走った瞬間に相手に接近できる距離。遮蔽物も無い今なら確実に届く。


(遮蔽物……)


そこでまたしても妙に気になってしまう。


『時間を稼ぐ』に『遮蔽物』。もう少しで見えてくる気がするがそれをカリンさんのリンクが遮る。


《こうなったら突撃します》

《そんな! 危険です!》

《ですが、他に手段がありません。援護をお願いしますよ》


確かに現状私に出来るのは援護くらいだ。となれば、私が矢を放って気が逸れた瞬間にカリンさんが接近、そしてアポリアさんを倒す。これがベストだろう。


カリンさんにも伝えると了承されたので私はそっと弓の位置を変える。


このまま放てば見当違いのところに矢が飛んでいくだろうが、この矢は確実にアポリアさんに向かう。


【長弓】〔ホーミングアロー〕。

前もって決めておいた照準に合わせて矢を飛ばすアクト。これにより、例え方向違いの所に矢を放っても、矢は定めておいた位置に向かって飛んでいく。しかし、このアクトは非常にMPを消耗する。おそらくこれを放ったら残りのMPはほとんどなくなるだろう。


当然このアクトをアポリアさんも知っているはず。しかし、私が使える奇襲手段はこれしかない。例の矢は一本しかないから迂闊に使えないし。


この矢に全てを託す! そんな想いでアポリアさんから左に離れた位置に狙いを定めた。






その瞬間、見えた。いや、見つけた。



アポリアさんの左側の一部が白く輝いているのを。






土壁の石の中に一つだけ光り輝いている存在を。







そしてそれを利用してこの状況を見ていた存在を!



「〔ミラーダスト〕!」


今度こそ声に出した。先ほど私を苦しめたミオさんのアクト。氷の表面を鏡にすることで相手の動向を見ることのできるアクト。


その瞬間、私の【索敵】が敵の反応を示す。数は2。ほぼ重なるように同じ位置にいる。

その場所は、カリンさんのすぐ左側の横穴。あとほんの少し踏み出せば遮蔽物のない絶好の攻撃ポジション!


(つまり、アポリアさんは囮! 本命はミオさんによる魔法攻撃!)

「カリンさん!」


相手の狙いに気づいた瞬間、私は大声を上げカリンさんに向かって走り出す。カリンさんは突然の私の行動に驚き、アポリアさんも驚いた後策に気づかれたことを察したのかその手を弓に伸ばす。


しかし、その行動は驚きながらもアポリアさんを警戒していたカリンさんの接近により断念し、腰からナイフを抜く。


その様子を見ながら私もある準備をしていた。構えていた矢を捨て、アイテムウィンドウから別の矢、例の特性の矢を取り出す。

それは見れば誰もが疑問に思う矢。なぜなら矢に赤い物体が巻き付いているから。


今回のPVPに合わせて私が考えたオリジナル第二弾。


走りながらそれを構え、横穴目がけて照準を合わせる。横穴の中が見えるくらいのところで、私はジャンプして90度体を反転させる。

これにより、足元から来る揺れが消えた。


横穴には【索敵】が教えてくれた通り、盾を構えてるプレイヤーとその後ろで杖をこっちに向けているミオさん。カリンさんの突然のダッシュに戸惑っているかと思いきや、その顔は確実に私に向けられていた。


(そう言えば私さっき叫んじゃったんだ!)


自分の失態に舌打ちしたくなる気持ちを抑え、照準を調整する。


同時に放たれるミオさんの魔法。今度こそ氷属性の魔法。しかも【氷属性中級】アイスランス。

これが当たったら一撃で倒れることはなくてもけっこうダメージを受ける。その後でアポリアさんと共闘して倒すというシナリオだったのだろう。


(でも、そうはさせない!)


私はそのシナリオを吹き飛ばすために、特製の矢を放った。

明日例のアンケート結果を発表いたします。


*作中に使用したカッツバルゲルは実在する武器です*

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