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乙女ゲームの悪役令嬢だと思っていたのにゾンビゲームなんて聞いてない  作者: 彩戸ゆめ


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第38話 王宮会議

 煌びやかな装飾が施された大会議室の扉をくぐった瞬間、胸の奥で強く鼓動が高まるのを感じた。


 王都の王宮。その中でも要人たちが集まる対策会議の場に、わたくしなどが本当に足を踏み入れていいのだろうか。そんな不安がこみ上げる。


 けれどここには、パトリック様や、後から来てくれた神官長、そしてゾンビ化から元に戻ったばかりのアラン殿下やトーマス、タイラーも一緒にいる。


 説明をするのはわたくしだけではないし、国を救うために何をすべきかを話し合わなければ。怖気づいている場合ではない。


 会議室の中央には、国王陛下をはじめとする重臣、軍務卿や宰相などの要人が列席している。


 どの顔も深刻そうだ。


 なにせ、学園で起きたゾンビ化の惨劇が王都へ波及しかねないと聞き、こうして急遽召集されたのだから。


 神殿から少し前に届けられた報告は相当に衝撃的だっただろう。


 噛まれるとゾンビ、つまり生きながら死者になる。しかも結界に守られているはずの王都の中で、急速に数が増えている。

 そんな話は前代未聞であり、緊急会議を開くのは当然だ。


 わたくしが緊張していると、パトリック様が隣から声をかけてくれた。


「大丈夫か、ヴィクトリア。顔色が悪いようだ」

「いえ、ただの緊張ですわ。王宮という華やかな場所は慣れているつもりでしたが、こういう場で重要な発言をするのは初めてなので」


 パトリック様は神妙な面持ちで一度だけ頷く。


 そしてわたくしたちは、重臣たちが円卓を囲む形で待ち構えている中央へと進む。


 そこには国王陛下が正面に位置し、身を乗り出すようにしてわたくしたちの登場を待っていた。


 今回の一件を深刻に受け止めているからだろう。それに、アラン殿下が巻き込まれたとの報告も衝撃を与えたに違いない。


「パトリック、よく来てくれた。そなたたちが学園で遭遇した事態、詳しく聞かせてほしい」


 国王が厳かな声を放つ。

 その隣では神官長が杖を握り、難しい顔をしている。


 宰相や軍務卿も自席で筆を構え、これから行われる報告を余さず記録する構えだ。


 わたくしは、この重々しい空気に呑まれそうになるのを必死に堪えた。


「まずは、私が学園で見てきたことを話します。報告が長くなるが、聞いてください」


 パトリック様が一歩前に進み、国王陛下と重臣たちに向かって声を張り上げた。

 その声は、いつもより低く鋭さを帯びている。


 わたくしが横で静かに耳を傾けると、彼は学園で発生したゾンビたちの惨状を順序立てて説明していく。


「まず、少し前から下町で原因不明の病気が逸っているという噂を聞いていました。肉以外の食べ物を受け付けなり、やたらと喉が渇く。顔色が悪くなり、凶暴になる、というものです」


 その話は聞いたことがあるのか、陛下たちは頷いて聞いている。


「そして下町の教会へ慰問に行っていたアランたちが、おそらくそれに感染し、学園に持ち込んだものと思われます」


 会議室の全員の目がアラン殿下のほうへ向かう。彼は膝の上で拳を握ってうつむいていた。


「学園で彼らに噛まれたものたちは次々と同じ症状になって凶暴化しました。しかも下町で発生した伝染病のように時間をかけて凶暴化するのではなく、噛まれたすぐ後に変異するという印象です」


 そこでパトリック様は言葉を切った。


「この時、私とヴィクトリアは、最初アンデッドの一種だと考えました。しかし、まったく違っていました」


 国王が深く息をのむのを感じられるほど、会場は静まりかえった。


 わたくしはちらりとアラン殿下の姿を見やる。

 さっきまではうつむいていたけれど、今はこちらへ視線を向けているようだ。


 そこに敵意が混じっているかどうかは分からないけれど、彼が正面から私を見つめるのは珍しいと感じた。


「アンデッドと決定的に違うのは、ゾンビになった者の多くが、ある程度自分の意思を保っているらしいことです。中には魔法を使う個体もあり、学園での被害は拡大するばかりでした。そればかりか、日の光でも動きが鈍る気配はなく、通常のアンデッド対策が通用しない」


 パトリック様がさらに衝撃的な真実を列挙すると、重臣の何人かは「何だと……」と低く呟き、宰相はメモを取るペンを止めて震わせている。


 日の光に弱くないアンデッドなど聞いたことがない。加えて魔法を使うなど、なおさら前例がないのだろう。


「つまり、このまま放っておけば、王都にもあっという間に広がるということか。王都には貴族や平民も合わせて多くの人口が住んでいる。その者たちが一気にゾンビ化すれば……」


 国王陛下が苦い表情で呟き、場内には重苦しい空気が漂った。

 軍務卿は腕を組んで重々しく口を開く。


「陛下、私は兵を増強し、城壁や市街地の警戒を厳重にすべきだと思います」

「それしかないでしょうな。しかし、噛まれれば終わりというのは兵にとって危険すぎる。防御する方法を考えなければ」


 宰相も不安を述べる。


 こうして各自が意見を出し合う中、陛下がアラン殿下たちを一瞥する。


「そなたたちもゾンビ化したと聞いた。詳しく話してもらえんか」


 アラン殿下が躊躇しているのを見て、トーマスが代わりに口を開いた。

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いつも誤字報告をしてくださってありがとうございます。

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