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乙女ゲームの悪役令嬢だと思っていたのにゾンビゲームなんて聞いてない  作者: 彩戸ゆめ


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第36話 ゾンビの群れ

 わたくしは即座に膝の上に置いてあった杖を掴み、馬で並走しているパトリック様と視線を交わす。

 パトリック様は既に銀の剣を抜いていた。


「おそらくゾンビの群れだ。行く手をふさがれている」


 ゾンビが早く動けないとはいえ、馬車の進行方向に待ち構えられているのでは突破するのは厳しい。

 馬の脚にでも噛みつかれてしまえば、ゾンビ化してしまうだろう。


 パトリック様の言葉に、アラン殿下たちもさすがに目を見開いた。


 馬車が急停車する気配が伝わり、御者が「ど、どうしましょう!」と騎士たちに問いかけているのが聞こえる。


「くそ、こんなところで戦うのか? まだ回復しきってないのに……!」


 アラン殿下が苛立ちをぶちまけ、トーマスも青ざめている。


 パトリック様の後ろにいるタイラーに至っては、腰の剣を抜きかけたが、手が震えているのが見えた。

 ゾンビ化していたからこそ、その強さが分かるからかもしれない。


 しかし、逃げ場はないのだ。正面から馬車を守らなければならない。


 馬車の中に残っているままでは、そのうちゾンビが窓を破って侵入してくるかもしれない。

 外を護衛している騎士たちだけでは対処しきれない規模の襲撃の可能性だってある。


「わたくしも戦います」


 扉を開けると生臭い空気と低い唸り声が押し寄せた。

 そのまま馬車から降りようと思ったけれど、かなりの高さがある。


 飛び下りるしかないかと思っていると、力強い腕がわたくしを抱き上げた。


「パトリック様?」


 思ったよりもがっしりとした腕に抱えられて、馬車から降ろされる。


「私が君を守ろう」


 一瞬、抱きしめるようにして耳元でささやかれて、心臓が破裂するかと思った。

 こんな時でなければ、羞恥のあまり叫んでいたかもしれない。


(平常心よ……平常心……)


 気を取り直したわたくしは、道の向こうにいるゾンビたちを見る。

 そこには十数体のゾンビが道路を塞ぐように動いているのが見える。


 歪んだ表情、青ざめた肌、そして虚ろな瞳。重心を傾けて足を引きずる姿は、相変わらず不気味だ。


「落ち着け! 馬が噛まれたら厄介だ。下りて戦うぞ」


 パトリック様の指揮で、神殿騎士たちが一斉に馬から下りる。


「ヴィクトリアが《浄化の炎》で倒しきるまで援護を頼む。一晩中聖水に浸した銀の剣ならばゾンビたちに通用するだろう。行くぞ!」


 どうやらわたくしが倒れている間にも、ゾンビに対する対策を考えていたらしい。


 ゾンビたちはゆっくりとわたくしたちに向かってくる。

 そこへ向かって杖を振り上げた。


「《浄化の炎》」


 わたくしはゾンビに向かって魔法を放つ。

 橙色の炎が杖の先から噴き出し、まばゆい白い輝きを伴ってゾンビを飲み込んだ。


 ゴオォッという燃え盛る音がし、鼻を突く焦げ臭い匂いが漂う。

 火の粉が舞い散って、焼かれたゾンビが倒れ込む


 すると、パトリック様が銀の剣を高く振りかざして、聖水を霧のように周囲へ散布した。

 光魔法を触媒にして作った特別な聖水なので、これでゾンビを浄化するだろう。


 霧がゾンビの肌や傷口に触れると、彼らの体がのけぞった。


 わたくしの放つ《浄化の炎》は、炎といっても浄化の作用が強いのか、水で消えることはない。

 炎の包まれたゾンビが倒れ、そして火が消えると、そこには人間に戻った姿が現れた。


 朦朧とした様子で、うつぶせたまま呟いている。


「あれ……ここは……」


 安堵がこみ上げたが、まだ周囲には十数体のゾンビが残っている。


 神殿騎士たちは、人間に戻せた時のためになるべく傷つけないように戦っているので、どうしても押され気味になってしまう。


 これではわたくしがすべてのゾンビを浄化する前に、神殿騎士にも被害が出てしまいそうだ。


 そこでわたくしは馬車の中で考えていた戦い方を試してみることにした。


 数十体以上いる敵に一度に効果を及ぼすには、聖水は今までの様に霧状にしてゾンビに散布すればいいが、《浄化の炎》はもっと広範囲にする必要がある。


 魔法の構築自体は、炎の範囲魔法を参考にすればいいだろう。

 問題は、これがぶっつけ本番になるということだ。


「パトリック様、わたくしが《浄化の炎》を範囲攻撃として放ちますので、それに合わせて聖水をお願いできますか?」


 範囲攻撃、と聞いて、パトリック様が少し驚いたようにわたくしを見る。

 そしてすぐに頷いてくれた。


「分かった。任せてくれ」


 パトリック様は銀の剣を高く掲げる。


「いつでもいいぞ」


 わたくしは杖を両手で握りしめ、前に突き出す。


 魔力を一気に練り上げ、《浄化の炎》を拡大するように放出する。従来の線状や塊ではなく、周囲へ放射状に炎を広げるのだ。


 すると、杖の先から橙色の火柱が轟音とともに噴出した。


「《浄化の爆炎》!」


 わたくしの声に合わせて、パトリック様が大きく剣を振る。


 そこから注ぎ出される聖水が、彼の光魔法を媒介として霧状に広がった。剣先が淡く輝き、まるで聖剣のように見えた。

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いつも誤字報告をしてくださってありがとうございます。

感謝しております(*´꒳`*)

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