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乙女ゲームの悪役令嬢だと思っていたのにゾンビゲームなんて聞いてない  作者: 彩戸ゆめ


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第25話 聖水の効力

 聖水庫に整然と置かれる壺の中にはたっぷりと聖水が蓄えられていた。

 日々、管理してくれている学園の管理職員か神殿の関係者に感謝だ。


「ゾンビにも効くといいのだけど……」


 前世で観た映画では「ゾンビウイルス」で感染してゾンビになっていた。


 アンジェリカに噛まれてゾンビ化していたから、この世界のゾンビもウイルスのようなもので感染してしまうに違いない。


 とはいえ、前世の映画で見たような「研究によって開発された、ゾンビウイルスに対抗するためのワクチン」はまず存在しないだろう。


「試してみるしかないだろう。私たちが使えるのは、この銀の剣と君の《浄化の炎》、そして聖水だ」


 テンプレであれば、パトリック様の銀の剣にわたくしの《浄化の炎》をまとわせて戦えばゾンビが消滅するのだろうけれど……銀の剣が溶けてしまいそうよね。


 わたくしがじっと銀の剣を見つめていると、パトリック様も何か思いついたようだった。


「聖別された銀の剣は、光魔法をわずかに吸収する。これを利用すれば……」


 パトリック様は、剣を聖水の入っている壺にひたした。そして手から光魔法を放つ。

 すると、聖水がキラキラと輝き始めた。


「もしかして聖水にさらに光魔法の効果が重なったのですか?」

「……そう信じよう。ヴィクトリアも、威力を調整して、この聖水に《浄化の炎》の魔力を重ねさせられるか?」


「やってみます」


 わたくしはパトリック様の剣を受け取って、剣を溶かさないように意識しながら《浄化の炎》を放つ。


 少しでも気を抜くと高温で溶かしてしまいそうなので、繊細な魔力操作が必要だった。


 もしわたくしが剣を溶かしてしまうと、唯一の物理攻撃ができる武器がなくなってしまうので、一瞬たりとも気が抜けない。


 じっと聖水の変化を見ていると、少しずつ赤みを帯びてきた気がする。

 成功……したのだろうか。


 パトリック様もわたくしの肩越しに聖水を見ている。

 ちょっと近いのですけれど……。


 こんな時にときめいている場合ではないのに、端整な横顔を見ていると、つい見とれてしまう。


「こっ、この聖水をどうやって使うのですか?」


 この場におびき寄せて聖水をかけるのだろうか。


 でもあれほどの量のゾンビを、この狭い場所で迎え撃つのは危険な気がする。


 するとパトリック様は、騎士服の袖をまくって、右の手首にはめた腕輪を見せてくれた。


「それは?」

「見ていてごらん」


 そう言うとパトリック様は右手を聖水の中に入れた。

 たちまち聖水の水位が下がっていく。


「もしかしてこれは……」

「この腕輪は神殿騎士だけが持てるもので、空間収納になっている。ここに聖水を保管しておいて、ゾンビにぶつけよう」


 聖水庫にあるすべての聖水を腕輪に収めると、パトリック様は銀の剣を軽く振った。

 剣からは聖水と思われる水しぶきが飛ぶが、その量は一定ではなく制御が難しそうだ。


「時間がない。実践で試すしかないな。まだアランたちはいるだろうか」


 わたくしは扉に耳を当ててみる。ゾンビらしきうめき声は聞こえるが、それが誰の声かは分からない。

 でもずっとここにいるわけにはいかないのだから、やるしかない。


 パトリック様と目を合わせたわたくしは、すぐに《浄化の炎》を打てるように杖を構えた。


 パトリック様が扉を開けると、生臭い空気が漂ってくる。

 通路の先には、どうやらアンジェリカたちの姿はないようだった。


 でも奥に何体かの人影がうずくまっているのが見える。

 パトリック様は、慎重に廊下へと足を踏み出す。


「三人か」


 ゾンビ化した生徒たちは、既にこちらの気配に気づいてか、頭をゆっくりともたげていた。

 虚ろな目は焦点が合わず、ただ獲物を求めて腕を伸ばしている。


「ヴィクトリア、僕が剣を振りかぶるタイミングで、君は追加の《浄化の炎》を注いでくれ」

「分かりましたわ!」


 ゾンビの一人が床を這うように立ち上がり、口をぱくぱく動かして唸り声を発する。


 その姿は先ほど食堂で見かけた下級生の男の子だったかもしれない。

 まだ幼さが残る顔立ちだが、いまや生気が消え、肌は土気色に変色している。


(まだゾンビになって間もないから腐ってはいないのが幸いだわ)


 これで肉が腐って落ちていたら、さすがに正視できない。


 パトリック様が一歩前に出て、銀の剣を横へ大きく振った。光魔法と《浄化の炎》をこめた聖水が、剣先からほとばしる。


 それと同時に、わたくしは杖を構え、《浄化の炎》の威力を調整して聖水に重ねた。


 聖水と《浄化の炎》がぶつかり合い、霧散する。

 光る霧が、ゾンビになった生徒を包む。


「ぐ、あ゛、あぁぁ……」


 ゾンビ化した生徒は苦痛の声を上げて床に倒れた。


 だが、焼け焦げる匂いも血の匂いもしない。むしろ、消毒のような刺激臭とともに、白い湯気のようなものが立ち昇った。


 固唾をのんで見守ると、その生徒の肌はみるみるうちに色を取り戻し、瞳に生気が戻っていく。


「う……あれ? ここは……学園?」


 突然、我に返ったように彼が呟く。


 その身体はゾンビのように腐ってもいないし、致命傷もなさそうだ。


 良かった……! ゾンビから人間に戻った!

もしも「面白かった」「続きが気になる」などと思って頂けましたら、

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どうぞよろしくお願いします!


いつも誤字報告をしてくださってありがとうございます。

感謝しております(*´꒳`*)

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