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えっ、その方ってもしや…嘘でしょやめてお願い

 アンドリューが誰かなんて悩むのも忘れた頃、噂の人物が登場する。


「アンジェリーナ様、アンドリュー様がお戻りになりました」


 使用人に案内され付いて行くと、そこには背の高いアンジェリーナと同じ燃えるような赤い髪をした美しい男性が立っていた。

 整いすぎる顔立ちは冷たい印象を受ける。

 彼の顔を観て瞬時に理解した。


 この人は、アンジェリーナの兄だ。


 ゲームの舞台であるアンジェリーナが学園に入学すると同時に彼は隣国に留学していたので、ゲームには一切登場していない。


 アンドリューには婚約者が居なかった為、一年の留学を相談なく延長することをお父さんは許していた。

 嫡男であるアンドリューの行動を許す寛大さ。

 このことでお父さんは子供の意思を尊重し応援してくれる人だと言うことがわかる。


「リ……アンジェリーナ」


 鋭い眼差しのアンドリュー。

 整った顔立ちの人に喜怒哀楽のない視線を向けられると、冷たい印象を受ける。

 ……私、嫌われていないよね?

 

「えっと……隣国では、どのような勉強をされていたのですか?」


「……貧困層の改革に力をいれている人の所で学んでいる。私が公爵を継いだら、領地の貧困層から国全体の貧困層を改革する予定だ。身分で理不尽な扱いを受けることは在ってはならない」


 二十二歳という年齢で国の事まで視野に入れているなんて、『なんて出来た人なんだ』と感心してしまう。


 私は自身の人生を切り開く為に出来ることなんて、盛大な『ハッタリ』をかますくらい。

 アンドリューとアンジェリーナが同じ環境で育ったとは思えない。

 アンドリューは家族としての会話というより、今まで自身が学んできた報告をする。

 真面目な人なのだと分かる。

 彼の真面目さや、アンジェリーナの正論は家系なのかもしれない。


「隣国に留学の延長を決めてしまうくらいだから、婚約などはどうお考えですか?」


 あまりにも堅い話が続き私のキャパオーバーしてしまったので、アンドリューの婚約話に切り込んでみた。

 公爵家というだけで、令嬢からの婚約の打診は多いだろう。

 さらに整った美貌の持主であれば、婚約希望が殺到してもおかしくない。

 婚約についての話はしたくないのか、先程とは違い少し悲し気な表情。


「婚約者はいない……結婚……したい相手はいる」


 婚約者はいないが、結婚したい相手はいる。

 真っすぐ私を見つめながら宣言するので勘違いしてしまいそうになる。


「それは……気になる女性がいるという事ですよね? どのような方ですか? 」


「……気になる女は……身分は平民だが外見は整っていて、人当たりのいい女だ」


 ややアンドリューの女性を『女』という言葉には引っ掛かるものの、アンドリューが決めた人なら変な人でなければいいなぁと思う。

 問題なければ、あの優しそうなお父さんも直ぐに認めてくれるだろう。

 私が何処で出会ったのかしつこく聞くと嫌な顔せずに教えてくれる。 


「森で迷っていたのを……偶然目撃したのが切っ掛けだ」


 アンドリューが話すのが苦手には思えないが、彼女の事をなんと伝えればいいのか悩みながら口にしているように見える。


「聞けば女は周囲の人間に騙され家族にも助けを求めることも出来ず、途方に暮れていると話していた。家や働く場所を探している様子だった。遠くから見守っていたが、女は真面目で人当たり良い印象ですぐに周囲と打ち解けているように見えた。もとはシュタイン国の人間で、何者かに追われて隣国まで逃げてきたらしい。外見が特徴的で、ピンクの髪と水色の瞳で目元の黒子が印象的な女だ……どうして……追放されなければならないんだっ。絶対に……許さん」


 感情が高ぶり後半は私に話すというより、決意を呟いているようでよく聞こえなかった。

 それでも憎しみの籠ったアンドリューの表情は印象的で、彼の口から聞く特徴に私は心当たりがあり不安を覚える。


「そ……の方の名前は尋ねたのですか? 」


 私の予想している人物でないことを祈りながら名前を尋ねたのか聞いてみた。


「マデリーンというらしい」


 強い眼差しのアンドリューに圧倒されてしまう。


「……マ……デリーン様……です……か……」


 マデリーン……

 その名前を聞いた瞬間、ある人物の顔が過った。

 ピンクの髪に水色の瞳……目元の黒子。

 特徴が一致してしまう。

 マーベルにそっくり。

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