巻き込み型一人芝居
「アンジェリーナ・カストレータ。もう一度言う。今日をもって令嬢との婚約を破棄する。そしてマーベルへの嫌がらせも我々は把握している」
ゲーム通り宣言する男性が、私の婚約者でありこの国の王子でもあるパトリック・ブルーム・シュタイン。
主人公に感情移入できる方であれば、王子にうっとりしてゲームをプレイしていたのかもしれませんが、私はそんな事一切ありませんでした。
ですので、ここから貴方の不適切な行動を暴露させて頂きます。
「……ふぅぅぅぅうう」
怒り任せに相手に感情をぶつけてはいけないと自身に言い聞かせ、瞼を閉じ一度ゆっくり深呼吸をする。
これから始まるのは、私の主演舞台。
誰も助けてはくれない、全て私一人で乗り切るしかない。
「今っ更ですか? 」
決意して声を発するも、震えてしまった。
それでも私の予想外の言葉に会場は静まり返り、私の反撃が始まる。
「それは、どういう意味だ」
王子の顔や声から困惑の中に少しの怒りを感じられた。
「私は『婚約関係について話し合いましょう』という手紙を王子宛に何度も送ったはずです。それなのに一度も返事を頂けず、話し合いをしようにも王子はいつも私から逃げ続けていたではありませんか」
「なんだそれは? 私はそんな手紙をもらったことはないっ」
えぇ、差し上げたことはありません。
嘘ですけど何か?
こちらは「国外追放」という人生が懸かってるんですから、なんでもかんでも利用させて頂きます。
「王子。そのような幼子のような言い訳はお止めください。どうせ私からの手紙は読まずに全て捨ててしまっていたのではありませんか? 」
私が尋ねれば王子は急に視線が泳ぐ。
「あら、当ってしまいました? 」
ゲームでは悪役令嬢からの報告書かと勘違いしてしまうくらいの重い手紙を受け取った王子は、いつも机に置きため息を吐いていた。
その後、開封されたのかは不明だが執事に手渡し処分されていた。
「だ……だからと言って、マーベルにした嫌がらせの数々は許されるべきではない」
自身の不誠実さを誤魔化すためにマーベルの話にすり替える姿には焦りが見え、今後の私の未来を変えられる可能性を感じる。
王子のその張り付いた優等生の仮面を私が引き剥がして差し上げますよ。
「えぇ、私もそう思います。ですがそうでもしないと王子は私の言葉など聞いては下さらなかったでしょ? いつも私から逃げ回り、会話が出来たとしても婚約話になると一方的に会話を終わらせしまうんですもの。王子が唯一確りと私と向き合うのはマーベル様が関わった時だけでした……私だって……あのようなことしたくはありませんでした。ですが、そうでもしないと王子は私に見向きもしないではありませんか? 『婚約解消について真剣に向き合いましょう』と、何度も手紙を送っても反応が無いんですもの。私はどうしたら良かったのです? 」
静まり返る場内は既に、私の一人芝居に巻き込まれていた。
ようこそ、私の物語へ。




