【王城】王様達の会合
「…どうやら、今回の“希少スキル持ち”達は思った以上に使えないようじゃな…」
王城の一室、定例となった国と教会の上層部の報告会では王を筆頭に皆が苦々しい顔をみせていた。
「…全くです。…あ奴らは余計な問題ばかり起こす癖に夜会などに参加しているようで…何も知らない愚かな貴族達から彼らの態度についての訴状も出されているようです…」
王に続き、大臣の1人も眉間に皺を寄せつつ苦々しげに言葉を繋ぐ。
「…はぁ、過去の記録では異世界人の中に“希少スキル”をすぐに覚醒させた者も何人か記録されておったようじゃが…今回は…どうやらいないようじゃな…」
手に持つワインを苛立たしげに置き、ため息を吐き出せば他の者達もその言葉に同意を示す。
「…これは…とんだハズレを引いたものですなぁ」
「…本当ですねぇ。…その中でも、特に酷いのがあの“聖女”ですよ……前回の“聖女”も愚かではあったけれど、あれはまだ使い道も多く扱いやすかった……しかし、今回の“聖女”の愚かさときたら…」
「……ふん、あの“聖女”……あんな幼なげな顔をしながらも…やはり女は女ですな」
「…まぁまぁ、ある意味扱いやすくて良いではないですか。第三王子殿下にはご苦労をお掛けしてしまいますが…」
大司教の言葉に王は少し表情を弛めながらも苦笑しつつ答える。
「…いや、あやつも小煩い婚約者の令嬢から離れて密かに楽しんでおる様子じゃ。…ただ、あの“聖女”、もう少し賢くて能力があれば残しておいてもよかったのじゃが…まぁ、所詮は平民じゃ。やはり、ダメじゃな…」
この報告会での議題はいつもの如く召喚者達の事が中心であるが、今回その内容は召喚された者達への愚痴や不満といったモノばかりであった。
過去禁止となった召喚魔法でわざわざ呼んだ者達だからこそ、希少なスキルを持っている癖にその希少スキルを使える者はいなかった。
…結局、何の役にも立たない者ばかりな事に徐々に不満は積み重なってくる。
“希少スキル持ち”であれば良いとは思っていたが…それにしても召喚者達の程度は低く感じる。…特に最近では役に立たないどころか問題を起こすようになってきたから余計にそう感じているのだ。
「…あの“聖女”が愚かなせいで一部の高位貴族には、今回の召喚で現れた“勇者”達の役割を教える事となってしまいました…」
「ふん。まぁ、しょうがないじゃろう。…“勇者”達の役割りがわかった以上、煩かった奴らもこれで静かになるじゃろうしな…」
「…まったく、何も知らないくせにしゃしゃりおって…黙って従っておれば良いものを…」
「…本当にその通りです。…しかも…まだ、他にも問題が残っておりまして…」
「…なんじゃ…?」
「…どうやら、騎士達の間でも“勇者一行”に不安…といいますか、不満が広がっているようなのです」
「…」
「…先の魔物討伐の際に随分と情けない姿を晒しましたので……このままでは、奴らが魔王を討伐出来るなどと信じるものが居なくなってしまいそうです」
この報告に王は苦い顔を見せた。
少し前に“勇者”たちの訓練が進んでいないとの報告が続いた為、士気を上げる意味も込めて魔物討伐の実戦に参加させる事にしたのだ。
魔王を倒すような実力は期待していないものの、魔王にたどり着く前に死なれてしまっては困る為、発破をかける意味で実戦を経験させてやる事にしたのだ。
彼らは最初の頃、訓練にも積極的に取り組んでいたし、もともと戦闘が好きなのだと思っていた。
だからこそ、わざわざ騎士を同行させて安全を確保した上で魔物の討伐という成果を上げさせてやろうとしたのに…
結果は、そこらの村人でも倒せるようなホーンラビットさえ殺すことを拒否したのだ。
目の前で倒された魔物達に顔色を悪くし、トドメのみの獲物を差し出されても動く者はいなかった。
「…なんとも情けない…」
ホーンラビットなど、村の子供でも狩れる。
「…今回の件で討伐への士気も下がる一方です。……“勇者”達との魔王討伐への旅にも、不安から同行を拒否する騎士達も出始めました」
「…チッ」
通常であれば、魔王討伐へと参加する事は騎士としての名誉な事であった。
騎士の象徴である忠誠の証として讃えられるような誉高い事であった筈なのだが……命をかける対象があの勇者や聖女では不安が勝ってしまってもしょうがない。
「…かくなる上は…平民…兵士を集めるか冒険者でも雇うしかありませんね…」
王は軍の司令官らしからぬ言葉に嫌な顔をしつつもしょうがなく承諾の様子を見せる。
「…余計な手間を掛けさせよって…これだから使えん奴らは困るのじゃ…」
「…まったく、おっしゃる通りです」
「…兵士は万が一魔物が襲ってきた時には第一の壁となって貰わなければなりませんからね……ここは、冒険者に依頼するのが無難でしょう…」
「…ふむ。…まぁ、そうじゃな」
「…しかし、大丈夫でしょうかね…?…いくら冒険者といえど魔王討伐への参加など…」
「所詮、冒険者など有象無象の集団じゃ。金貨でも積めば志願者はいくらでもおるじゃろう…それに、後ろ盾もないような平民であればどうなろうとも文句を言う奴もおるまい…」
「…そうですね。…それに、行きさえどうにかなれば良いのですから。…むしろ、帰って来なくても誰も気にしないでしょうし…」
「…そうじゃな。帰って来なければ、報酬も必要ないしのぉ…」
「…そうですね。それならばやはり生死を問われない、使いやすそうな“冒険者”を雇うのが確実でしょう」
ひとまずは目先の問題の解決法を見つける事が出来た為、ホッとした空気が広間に流れる。
そんな様子を伺いつつ王は鷹揚に報告会の終わりを告げる。
「…よし。では、使い勝手の良さそうな冒険者へと依頼を出す事でこの件は良いじゃろう…」




