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国への不信感



ギルドの一室。



報告のために集められた私と佐藤くんは、ルミエール様の前に座っていました。



「魔物対策については順調ね」



ルミエール様が淡々と報告書をめくりながら情報を共有してくれます。


「近くの村では、サトウの“スキル”のおかげで大きな被害が出る前に対策ができたし、新しく仕掛けた罠も上手く機能している。魔物の活動は活発化しているけれど、被害は最小限に抑えられているわ」


私と佐藤くんが顔を見合わせてホッとした様子を見せるとルミエール様の雰囲気も心なしが柔らかくなった気がします。


「……あなたたちがいなかったら、もっとひどいことになっていたと思うわ」


ルミエール様はそう言いながらも、書類をまとめている手に少し力が入っているように見えました。


「……ただ、魔物の襲撃は抑えれているけれど…この国の王族に対する不信感は高まっているわ…徐々に魔物が増えているのに…前まであった騎士達による魔物討伐が最近はないみたいだし。…その割に王族達の華やかな生活は変わらない…」


ルミエール様の声が低くなりました。


「…もともとこの国の王族はあまり評判が良くなかったけど…前回の魔物襲撃の際、国から騎士の派遣はほぼ無い状況だった。突然の事だったから仕方がないともいえるけど…その後の対応や他の魔物対策の杜撰さが明るみに出て余計に不信感が加速しているみたいね…」


ルミエール様は少しため息を吐き出すと苦々しい声音で続けます。


「…そして、そんな様子を知った各国からこの国の実情を知るためにギルドへ情報提供の協力を求める書簡もいくつか届いているわ…」


…この国の詳しい実情…?


「……つまり、現在の状況と国の対応…この国が何を考えてこの先どう動くつもりなのか。

何か疾しい事や隠していることがないか…不穏な事を考えていないかを他国が調べ始めたって事ですか?」


佐藤くんが珍しく鋭い声で聞き返しました。



…疾しい事や隠している事……



「そうね。この国は前回の魔王討伐時に勇者達を輩出した国であり実績があるわ。だから今まで他の国からの干渉もなく、魔物対策に関しては思うところはあっても手を出さず様子をみられていた。

…だけど、実際に魔物襲撃が起きたというのにその後の対応は杜撰だし、危機感が無さすぎる。……だから何かがおかしいとその理由や状況を詳しく把握しようと思ったのだと思うわ……」


ルミエール様の表情は険しくなっていました。


「…それに…もし、魔王に対して何か国に秘策があったとしても…この国の考えなんて信用ならないわ…」


私は邪魔にならないように静かに聞いていましたが…けれど、心の奥では何かが引っかかります。


前回の時は魔王を葬るために“私”という切り札を準備していました。


あの時は魔王の脅威は深く浸透し、魔物は増え既に被害は多く、国を守る騎士達は疲弊して冒険者達も生きるのに必死な状況でした。


…その為、魔王の元へと向かうメンバーも少数精鋭でその時活躍していた人の中から選ばれたような状態だったのです。


大物の魔物を倒して評判を上げていた“戦士”、魔術にて街を救ったと噂の“魔術師”。そして、人々に希望を与えていた“勇者”と国へと仕える“聖女”の私です。


“聖女”である私以外は皆さん自分の力で認められた実力のある人たちでした。


確実に“魔王”の居る場所までは行けるように王様達もサポートを惜しまないと宣言していました。


確実に私を魔王の元へと送り込むために…




…しかし、今回はあの時とは状況が違います。



魔物の襲撃の様子などから考えてもこれから魔物の脅威はどんどん増すと考えられます。


しかし、国はまだ疲弊していません。


まだ余力のある今のうちに対策を立てるのが良いはずです。


それなのに聞こえてくるのはお城での華やかな生活と派閥の揉め事など…


いったい何を考えているのでしょう…


……国は…また、過去と同じように聖女を犠牲にして魔王を倒すつもりなのでしょうか…?


でも、今の鈴木さんにあの“禁術”は使えない筈です……


たとえ、鈴木さんにアレを使わせたくても早くて十年くらいは掛かるのでその線はないと思っていたのですが…


私は何かを見落としているのでしょうか…






佐藤くんが感情を感じさせない声で呟きました。


「……僕たちを追い出したあいつらは…今の現状を…この国の状況を知ってるのかな…」


私はちらりと佐藤くんを見ます。


彼はまだ進藤くんや鈴木さんたちに対する怒りを捨てきれていないのかと思いましたが、そんな事はなさそうです。


もう過去のこととしてすっかり割り切っているように見えました。


佐藤くんはギルドで実際に魔物達の脅威を肌で感じています。対応も出来る限りの事をしているつもりですがそれでも被害はゼロではないのです。


きっと、ギルドの人達や関わってきた人たちのこと思って、この国の事を…この国の現状をきちんと理解して欲しいと思っているのでしょう。


「…あの、ルミエール様。その各国からの協力って具体的にはどういうものなのでしょうか?」


「今後、今までの詳しい情報を整理し…王城の動きを各国に定期的に報告する。…出来ればあなた達にも魔物対策のついでに、王城に関する情報があれば集めておいてほしい……」


「分かりました」


佐藤くんはしっかりと頷きました。

もちろん私も横で頷いて見せます。



この国への不信感、魔物の襲撃、そして勇者召喚。


過去に戦った魔王との戦いとはまた違う戦いが始まりそうな予感がします。





どっちにしろ、一度様子を見るために城へと足を運ぶのが良いかもしれませんね。





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