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【王城】 進藤くんside



自分たちは選ばれた存在なのだと…勇者として特別な力を発揮できる存在だと信じて疑っていなかった。


…しかし、それも時間が経つにつれ、その自信は次第に揺らぎ始めることになったのだ。




「おかしい……スキルなんて使えないぞ……?」


誰かが不安そうに呟いた声が見ないようにしていた現実を突きつけられたようで、不安を掻き立てる。


確かに特別な力を得たはずなのにいつまで経っても特別な何かが発動する様子はない。



訓練することにより、確かに体力は上がっていたし、騎士達からも褒められる事は多かった。


しかし、訓練を何日も重ねても戦闘で期待していた特別な“スキル”なんて発動できず、どんなに頑張っても一般の新入りの兵士程度にしか勝つことが出来ない。



「……希少スキルとやらを手に入れたんだから、あっという間に強くなれるんじゃねーの…?」


「チッ、“スキル”なんて嘘だったんじゃないのかよ!!」


そんな疑惑も浮かんだがーー


「…でも、兵士たちの中に“スキル”を使ってる奴はいるぜ」


「…じゃあ、なんで俺らは使えないんだよ、クソがッ」


実際に“スキル”を使う者達を目にすれば実際にソレが存在する事は間違いない。



“特別”だった筈の“スキル”なのにその力が使える様子が全く無い……


ただただ訓練をして、その分の体力や武力が多少上がるだけ……そこに特別なものは何も存在しなかった……


…だが、それでも召喚した王族や騎士たちはまるで気にする素振りも見せず、自分達を持ち上げ続ける。



「大丈夫です、こんな短期間でこれほど上達しているのですから……」


「…希少スキルの為、まだ力を引き出せていないだけでしょう」



そんな彼等の甘い言葉に安心し……次第に、違和感を抱きながらもそれを疑うことをしなくなった。



まるで“勇者”という肩書だけで満足するべきだというように……



ふと、山田柚葉を思い出す。


自分でもよくわからない苛立ちを抱えた時やどうしようもなく不安になった時……彼女を思い出すと不思議と落ち着いた。


彼女が近くに居てくれた時には、どうしようもない不穏な空気やピリピリとした空気感も不思議と落ち着きを取り戻していた。


自暴自棄になりそうな時、感情が爆発しそうな時、不安な時、何故か彼女がいるだけでそれらのどうしようもない感情が波が引くようにすっと落ち着く気がした。


本当は…自分はそんな彼女の事を召喚前からずっと気になっていたのだ。


無性に彼女の顔が見たくなった。




クラスごと召喚され“勇者”と、なった。


この世界に来たばかりの時の自分は選ばれた存在だったと知り、そんな自分が選ぶ女も特別でなくてはならないと思った。


だが、彼女は“一般人”だった。


ガッカリもしたが、チャンスだとも思った。

たかが、“一般人”ならば選ばれた“勇者”が守ってやったら喜んで俺に頼ってくると思ったのだ。


……それなのに……


…やたらと親しげで目障りだった雑魚スキルな奴ら…


本来、その中でも特に雑魚スキルだった佐藤大地だけを立場をわからせる見せしめの為に追放するつもりだったのに…


…鈴木沙也加に唆され、柚葉まで追放してしまった。


その時のことを時折思い出しては、苛立ちが募る…


そして、彼女を失った喪失感を誤魔化すように前よりも尊大に振る舞っていた。


彼女がいた頃は…クラスメート達の雰囲気もまだそこまで悪いモノではなかった。


しかし、彼女が去ってからクラスメート達の雰囲気はどんどんと険悪なものへと変わっていった。



訓練による疲れの取れない奴等が苛立ちまぎれに他の者に当たったり、慣れない寝具と食事で体調を崩す者も出た。


来たばかりの頃は気にならなかったが、いくら豪華な部屋でも寝心地は全く良くないし、硬い生地の豪華な服は着心地も悪い。


携帯もPCもないし、娯楽もない。漫画も無けりゃゲームもない。


今まで気にしないようにしていた不満がどんどんと膨らんでいく。


今まではこちらへと媚を売っていた奴等も苛立ちと不穏な空気を感じてコチラを避けるようになった。


それが更に苛立ちを加速し、当たり散らす事が更に増える。


そんな自分達に城の奴等も態度だけは丁寧だが、必要以上の接触を避けているようだった。


俺らがいなけりゃ魔王さえ倒せない癖に……



…彼女が去ってから、クラスメートの使えない“スキル”の奴等の態度もどんどん生意気になっている。



何やらしょぼい“スキル”を使って城で雑事をするようになったとか。


雑魚スキルだと大変だと笑っていたのに…スキルが使えるようになったと聞いてからは笑う事が出来ない。




豪華な広い部屋で夜一人になると、思わず口からこぼれ落ちる。


「…なんで……出て行ったんだよ……」


自分が『出て行け』と、言ったことなど忘れてここから出て行ってしまった彼女への不満が口から溢れてきた。



僅かな後悔と苛立ちが交錯し、自分が間違っていたと認めたくない一心で彼女への不満として口にするのが精一杯だった。


…こうして、苛立ちは日々増すばかりだ。



……そんな日々を過ごすうちにたまたま貴族の宴に誘われて参加する事があった。


成果の出ない訓練よりもずっと楽で甘い誘惑。


いつしか希少スキル持ちのクラスメート達も大して成果の感じられない訓練よりも華やかな享楽の日々を過ごす時間が増えていった。



そして……気が付けば王侯貴族の庇護のもと華やかな衣装に身を包み、豪華な食事に慣れ、まるで貴族そのもののように振る舞うようになっていた。


「俺らは“勇者”パーティーなんだ。戦うだけが仕事じゃない……」


「まあ、これも大事な交流だよな…」


“希少スキル”を持つクラスメート達の言葉に納得する。


「俺は“勇者”だ。選ばれた存在だ。何も間違っていない……」


そう言いながらも、つい拳を握りしめていた。


…いくら自分にそう言い聞かせても…ずっと胸の奥の不快な苛立ちは消えなかった。






そんな彼らは王や貴族たちは表面上は持ち上げながらも、内心では冷ややかに見下していた事にも気が付く事は無かった…



「所詮は異世界の子供たちだ」


「使えるだけ使って、後はどうとでもなる」


勇者とは名ばかりのクラスメートたちはいつの間に身に付けた自らの傲慢さゆえに、老獪な大人達による策略に見事嵌められてしまっていた。



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