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新たな黒歴史



冒険者達の活躍により、魔物の襲撃が収束するとギルドの中も徐々に落ち着きを取り戻しつつありました。


私もこっそりと手持ちの薬草をカモフラージュに治療のために奔走しました。


私は既に“聖女”ではないけれど、負傷者を放っておく事も出来なかったのでこれは不可抗力だと思います。


こっそりと薬草自体の効能を上げて更に治癒の力を付与した薬草を飲めそうな人には飲ませ、無理そうな人には傷口へと直接に刷り込みます。


…慌て過ぎて少しだけ、ただの雑草も混じっていたかもしれませんが付与された治癒の力によって傷は治ると思いますので問題はありません。





数日もすれば、ギルド内には怪我人も見掛けなくなり私達もまた以前と同じように依頼を探す日々へと戻る事が出来ました。


…しかし、以前と同じようにみえて私達は少し成長した気がします。


薬草採取依頼以外にも弱い魔物の討伐を受ける事が増えてきたのです。


最初は佐藤くんも生き物を殺す事に躊躇の様なモノがあったようですが、それでも積極的に討伐依頼を受けるようになったのです。


その成果もあり、魔物の討伐にも大分慣れてきたようでした。




そんな日々の中、今日は久しぶりにのんびりと薬草採取へと森へと足を運んでいます。


「……あれ、何か来る?」


目的の薬草も採取し、そろそろギルドへと戻ろうかと話している時でした。


茂みの向こう側でガサガサと不穏な音が響きます。


佐藤くんが剣を構えながら警戒していると、姿を現したのは小型の魔物——スモールゴブリンの群れでした。


見たところ、全部で五体。単体なら牙ネズミと大差ありませんが、群れとなると話は別です。


スモールゴブリンは通常のゴブリンよりも少し感覚が鈍いので少し離れた距離にいる私達にはまだ気が付いていないようでした。



「ちょっと数が多いね……どうする?」


私が問いかけると、佐藤くんは剣を握りしめながらも、冷静に魔物たちを観察し始めます。



佐藤くんはここ数日で本当に驚くほどの成長を成し遂げています。


あの魔物襲撃の日をキッカケに何かが吹っ切れたようで、魔物討伐の依頼を積極的に受けるようになりました。


そして、自分から討伐方法などを提案するようになったのです。



スモールゴブリンの観察していた佐藤くんにスキルが発動したのがわかりました。


きっと脳裏に自然と未来のビジョンが浮かんでいるのでしょう。


「……あいつらは群れで動くけど、リーダー格がいる。そいつが指示を出してる間は秩序があるけど、倒せば混乱するはずだ」


佐藤くんの持つ“スキル”の力は未来視ほどの精度はないようですが、戦況を予測し最も有効な戦術を直感的に導き出せるようです。


「山田さん、ちょっと協力してくれる?」


「もちろん。どうするの?」


佐藤くんは小さく笑い、近くにあった倒木を指さしました。


「まず、あの倒木の裏に少し火を灯してくれないかな? 照らして目立たせるくらいでいい」


「なるほど、陽動?」


「そう。リーダー格のやつが後ろにいるから、奴らがみんなでそっちに向かえばリーダー格も後ろから出てくる筈…」


私は佐藤くんの提案に小さく頷きます。



佐藤くんに言われたように倒木の裏にわずかな火を灯すと、スモールゴブリンたちの目はそちらへ引き寄せられました。


『『ギャギャギャッ!!』』


騒ぎながら火の方へと向かうスモールゴブリン達の後ろから、少しだけ大きなゴブリンが現れました。



それを見つけた佐藤くんが静かに前に出て、剣を構えます。


「…グギャギャギャギャ!!」



突如横に現れた佐藤くんにリーダー格のゴブリンが気が付き声を上げ、スモールゴブリンたちの注意を引きます。


ゴブリンの威嚇の声に気が付いたスモールゴブリンたちが佐藤くんに気が付き。一斉に戻ろうとしました。


「…えい!!」


佐藤くんは優しい掛け声とともにリーダー格のゴブリンに剣を振り落とします。


(『“速さ”“筋力”“体力”強化』)



「…ギャギャッッーー………!!」



少しだけ力が足りなさそうなのでちょっとだけ補助をしましたが、剣はしっかりとゴブリンの首を捕らえました。リーダーのゴブリンの首を正確に捉えた剣による鈍い音が響き渡ります。


リーダーが最期の雄叫びを上げて地面へと崩れ落ちました。



「ギギ……!?」


リーダーを失ったゴブリンたちは、突然の出来事に混乱し、動きが乱れます。


その隙を佐藤くんは逃しません。



「……よし、これで…!」


迷いなく踏み込み、的確に一体ずつ仕留めていきます。


今までなら怖気づいていたかもしれませんが、先を見据えて動くことで確信を持てるようになっているようでした。


数分後、地面に転がるのはもちろん討伐されたゴブリンたちだけです。




「……ハァハァ……や、やった…!」


佐藤くんが息を整えながら振り返るので私はぱちぱちと拍手を送ります。


「すごいね、佐藤くん! ちゃんと敵の動きを読んで、効率も良かったしすごかったよ。私の出番なんて無くて驚いちゃった!」


「…へ、へへ…まぁね!」


佐藤くんは少し得意げに鼻をこすりながら笑います。


すごいです。


私のサポートは少し“力”と“速さ”を追加しただけなので筋力さえ付けば1人でも全く問題ありません。



「…へへ、…でも、山田さん、ゴブリン倒す瞬間何かしなかった…?…急に剣が軽くなった上に一撃で倒せちゃったんだけど…」


「……いえ、私は何も…。佐藤くんの実力ですよ」


「……そう…なのかな…」



どこが納得のいかない顔をする佐藤くんの横で私は心から関心していました。


特性や動きが読めると簡単な事前の準備でこんなに楽に倒せるものなのですね。


私は結構、正面から力でゴリ押しの部分があったのでとても参考になります。



ギルドに戻り、これらの事を報告すると受付の人からも驚かれました。


今まで魔物の特性を捉えた“倒し方”が報告される事例はなかったようです。


ただ、この方法を浸透出来れば今よりも楽に倒せる人が増える事は確かです。


この間の魔物の襲撃以来、ギルドの人達から好意的な空気を感じていました。


そこへ更に佐藤くんから討伐方法の報告をする事で佐藤くんの評価はますます上がったようでした。



それからは、厄介だった筈の魔物達が特性を知る事によって簡単な下準備で倒せる事がわかりギルドでも情報共有が行われるようになりました。


そして、そうなると冒険者の人達からも色々と声を掛けられる事が増えます。


少し自信なさげだった佐藤くんは、何度も声を掛けられるうちに他の冒険者達と笑顔で話せるまでに成長していました。


男の子の成長とはすごいものですね…。




少し経てば私の出番はほぼ無くなり、軽い治癒を使ってコッソリと援護する程度になりました。


もちろん、聖女である事は秘密にしているので薬草で治したかのように見せかけて行っています。


佐藤くんは治癒しかしていない私に不満を言う事もなく、相変わらずとても親切です。



「山田さん…異世界の薬草って凄いね…治らないものはないんじゃないかな…」


「いえ、死んだ人は生き返らないので万能ではないですよ」


「……そうなんだ。

…つまり、死んだ人以外は治るんだね…」


何処か諦めたような顔をする佐藤くんを見て、私は僅かに顔を曇らせます。



……そうなのですよね…


残念な事に私はまだ未熟なので死んだ人は生き返らせる事が出来ないのです。


しかし、このまま頑張れば大聖女のスキルで一定以内の時間であれば、老衰以外の死も復活可能になる気がしています。


佐藤くんも頑張っているのですから私もまだまだ精進しなくてはいけませんね。


「…そのうち、一定時間内なら生き返る薬草を使えるように私も頑張るね」


「………あ、うん」



佐藤君は何故かたまに私のことを胡乱な目で見ていますが………


まぁ、そんな些細なことを気にする必要はないですよね。




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