表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/58

【過去】 ルミエールside

魔王城の最奥。

血のような魔法陣が床一面に広がる広間で、私は震える指で杖を握りしめていた。


この戦いは、苦しすぎた。


勇者の剣が幾度も魔王を貫いたのに……


戦士の槍が血を撒き、私の魔法が雷光となって炸裂するのに……


それでも、魔王は死なない。


正直舐めていた。


この国で一番の魔術師だという自負もあり、余裕ではないけれど私ならば…いえ、私達ならば魔王だって倒せるのだと何の根拠もなく信じていたのだ。


それなのに……


倒しても、倒しても、魔王は無限に蘇る。


このままでは…私たちはいずれ力尽き、ここで滅びる。


ーー何かがおかしい…?


いや、情報が…欠けている…?



事前に国から聞いていた情報との差異に不吉な予感が湧く。



焦燥に駆られながらも、何とか気持ちを落ち着けて冷静に戦況を分析しようとするが……


魔王の再生能力は異常だ。

何か根本的に、戦い方が間違っている……?


…疑惑が確信に変わる、その時だった。



「……これで、終わりです」



静かな声が響いた。


私は反射的に振り返る。



そこにいたのはーー聖女セリア。



彼女が、魔法陣の中心へと進み出たのだ。


「…聖女様?」


私と同じように嫌な予感を感じたのか疑問の声を投げる勇者の声は震えている。


離れた場所にいた戦士も無意識に聖女へ向かって手を伸ばす。


あれは…!!


私は、一瞬で理解した。


「……まさか」


喉が強張る。


彼女が何をしようとしているのか、私にはわかってしまった。


…そう、知識としてソレの事を知ってはいたのだ。


もし…この戦いを確実に終わらせる方法があるとすれば…それは《聖なる浄化》だろう。


…しかし、それは聖女の命と引き換えにしか発動しない禁忌の祈り。


……まさか



「…まさか、あなた…その術を使うつもりなの?」


低く、静かな声で問いかける。


何をしようとしているのかを悟った私へと彼女は優しく微笑んだ。


「…これしか、方法がないのです」


その綺麗な微笑みが、心に突き刺さる。


そんなに優しく…そして残酷で美しい微笑みを私は今まで見た事はないーー


理解出来たとしても、とても受け入れられそうになくて、私は柄にもなく彼女へと縋るように言葉を紡いでしまった。


「…それでも……あなたを犠牲になんてしたくなんかない…」


私は知っているのだ。


彼女が…聖女が、どれほど過酷な人生を送ってきたのかを…。


神に仕える聖女として、厳しく、清貧に生きることを強いられた少女。

穢れを避け、愛も情も許されず、人としての幸福を知らないまま人々への献身のみで生きてきた彼女。


それなのに。


ようやく、この旅で彼女は知ったはずだった。


仲間と食卓を囲むことの喜びを。


誰かの手の温かさを。


そして人と共に生きることの幸せを。


そう思っていたのに……


ーーなのに、今、彼女はそれらもすべてを捨てようとしている。


自分を犠牲にしてでも世界を救う…


それが彼女の望みなのだろうか…


その一瞬の戸惑い…


…そう、彼女が命をかけて成し遂げようとしている事を止めるのを躊躇ってしまったのだ……




「聖女様!!」


勇者が叫ぶ。


彼も、きっと気づいたのだ。


彼女が何を犠牲にしようとしているのか…


でも…既にそれは手遅れだ。


彼は間に合わなかった。


既に彼女の術式は完成している。


……勇者は聖女の事を愛していたのにーー




「聖…セリア!やめろ!! 俺はーー」


勇者の手が、彼女へと伸びる。


それよりも一瞬早く彼女の指先が、光に包まれ始めた。


「神よ。どうか、世界をお救いください」


ーーああ、ダメだ。


光が溢れる。

世界が黄金に染まる。

魔王の悲鳴が響く。


勇者が、何かを叫ぶ。

彼の指が、聖女に触れた。


だけど、その言葉は届かなかった…


触れたと思ったその瞬間ーー彼女は、儚くも消えていくーー


「……っ」




私は思わず拳を握りしめ唇を噛みしめた…


戦士は何も出来ず茫然と見守っていた…



「…」


「…」


「…」




私達の目の前で美しくも消えていった少女。


彼女は何を思い、最後に何を願ったのだろう。


……勇者の手が…虚しく何も掴めぬまま、その場に浮いている…


……彼は、言葉を失っていた。


ーーああ、愚かだ。


私は、聖女の運命を止める事が出来たかもしれなかったのに……


…あの時…私だけは間に合ったかもしれなかった。


それなのに………





勇者は、自分の想いを伝えることも出来なかった……



「セリア……」


勇者が震える声で彼女の名前を呼ぶ。


もし、この旅が終わった後の未来があったのなら……


もし、聖女が生きていたなら……


もし……



……




ーーだが、その可能性はもう失われた。



聖なる光が消え去ると、聖女と共に魔王もまた消滅していた。



戦いは終わった。




けれど、その代償はあまりにも大きすぎたーー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ