かつての仲間
勇者様達の話を聞いた翌日も私と佐藤くんはいつものようにギルドを訪れていました。
受付で簡単な報告を終えたあと、佐藤くんが首を傾げます。
「なんだか今日は少し雰囲気が違うような…」
「……確かに」
このギルドに通うようになってしばらく経ちますが、なんだか今日はいつもと少し雰囲気が違う気がします。
ハッキリとは言えませんが、なんだかみんなの雰囲気が少し緊張しているような浮かれているような不思議な雰囲気です。
何かあったのでしょうか…
そんなことを考えていた時、奥の部屋からゆったりとした足音が響きました。
「……?」
ふと振り向いた先、そこに現れたのは 美しいエルフの女性でした。
流れるような銀の髪、整った顔立ち、透き通るような白い肌。まるで月の光をそのまま纏ったような神秘的な雰囲気を持つ彼女は、静かにギルドのカウンターの内側へと歩いてきます。
何処となくソワソワしていたギルドにいた人たちの視線が彼女へと集中するのがわかりました。
「え、ルミエール様…?」
私が思わず声を上げると美しい翠の瞳がコチラへと向きます。
「…可愛いお嬢さん。何処かで会った事があったかしら?」
なんと、かつて一緒に旅をした仲間の1人だったルミエール様です。
驚きのあまり思わず名前を呼んでしまいましたが、そういえば今の私は初対面です。
それにしても…
「マスターお知り合いですか?」
「いいえ」
ギルドの職員の問い掛けにルミエール様は感情を感じさせない声音で返事を返します。
彼女の変わらぬ美しい容姿は以前と同じなのに表情が酷く冷たいモノへと変わっていました。
職員の方から“マスター”と呼ばれているという事は、今はこちらでギルドマスターとして働いているのでしょうか…
前世での彼女は、その繊細な美しさとは裏腹に明るくて豪快でとても頼りになるお姉様でした。
……それなのに。
今、目の前にいる彼女はまるで別人のように 静かで落ち着いていて…表情が読めません。
「……どうしました?」
ルミエール様がこちらを見つめています。
その視線は冷たいわけではないけれど、どこか他人と距離を置く熱のない静かな瞳でした。
なんで……
あんなに 笑顔が似合う人だったのに。
「山田さん?」
佐藤くんの小さな声で、私は我に返ります。
「い、いえ……コチラのギルドのマスターでしたか。…その、少し…珍しいなと思い、まして…」
そう答えれば、ルミエール様の周りはすぐに納得がいったかのような表情になります。
「…ギルドマスターがエルフなのは珍しいからな…」
一緒にいたギルド職員の言葉にルミエール様も納得したようでそれ以上の追及はありませんでした。
そして、改めてこちらへ向き直ると落ち着いた声でこちらへ自己紹介をしてくれました。
「……初めまして、お嬢さん達。…私がこのギルドのマスターをしているルミエールよ」
「…あ、…私達は先日冒険者に登録したばかりの、山田と…」
「あ、佐藤です!」
私と佐藤くんが慌てて挨拶を返すとルミエール様の無表情な瞳の奥が少しだけ優しくなった気がしました。
大分雰囲気は変わっていますが、やはりルミエール様本人に間違いはなさそうです。
彼女はその冷淡な美貌で誤解されやすかったのですが、情に熱くて面倒見がとても良い優しい女性でした。
「…あの、不躾に名前を呼んでしまってすみません。…コチラのギルドで初めてお見かけしたもので…」
「……ああ。こちらにはあまり顔を出さないから。…少し気になる動きがあったので暫くはこのギルドに逗留する予定なの…。よろしくね」
ルミエール様は穏やかにそう言いました。
表情にあまり変化は無く、その声には かつての快活さはなくなっていましたがそれでも彼女の丁寧な言葉からは優しさを感じます。
……ルミエール様に、一体何があったのでしょう……
私の中で、かつての仲間と再会して嬉しい気持ちと以前とは全く違う様子への戸惑いが広がります。
ただ、ルミエール様はそんな私を気にする様子もなく、静かにギルドマスターとしての仕事を続けるべく、去っていきました。
「…山田さん、一体どこで彼女のことを……?」
私はルミエール様の事に夢中で佐藤くんのそんな呟きには気がついていませんでした。




