【王城】王様達side
王宮の奥深く、灯された燭台の光が静かに揺れる密談の間。
王と軍の高官、そして教会の上層部が集い、召喚された異世界の者たちについての報告を受けていた。
「勇者たちの訓練は順調に進んでおります」
軍の司令官が報告書を広げながら口を開く。
「剣術や魔法の適性を持つ者たちは、騎士団や魔法師団に組み込まれ、実戦を想定した訓練を開始しました。また、“勇者”と判定された者たちは皆、希少なスキルの素質を有しているだけあり、一応それなりの戦力となるでしょう」
「ふむ、十分じゃな」
王が満足げに微笑む。
「彼らは大切に扱わねばならぬからな。最高級の食事、豪華な寝所、優れた指導者……“勇者”たちが万全の精神状態でいられるよう、徹底せよ」
「はっ。すでに”勇者”たちには貴族並みの待遇を用意しております」
「よいじゃろう」
王はゆっくりと杯を傾け、穏やかに続けた。
「勇者たちは、この国を救うための”切り札”じゃ。彼らは特別な存在であり、何よりーー必要な時、までは確実に生かしておかねばならぬ」
「……魔王討伐のためのとても大切な“切り札”ですからね」
大司教も暗く嗤いながら応えた。
「その通りじゃ。“聖なる生贄”を発動させるには、ただの人間ではいかんからな。彼らのもつ持つ希少なスキル(素質)こそが、”礎”の素となるのじゃからな」
王の言葉に、重々しく頷く一同。
「ならば、なお一層”勇者”たちを手厚く保護せねばなりませんな」
「その通りじゃ。彼らには”勇者”としての自尊心を植え付け、いずれ自ら進んでこの世界を救う”覚悟”を決めさせる必要があるからのぉ」
「……“その時”が来るまでは、ですね」
大司教の言葉に王は静かに微笑みながら杯を置いた。
「……さて。そう言えば“その他”の者たちはどうなっておったかの?」
王が何気なく問いかけると、軍の高官が報告書をめくる。
「平凡なスキルしか持たぬ者たちは、いくつかの雑務に従事させています。
…正直、軍や王宮にとっては取るに足らぬ能力ばかりですが、まぁそれなりに役立つ者も中には居るようです…」
「ふむ……ま、そこらの事は特に問題ないじゃろ」
王は興味なさげに頷いた。
「もとより、彼らは”勇者”のような希少スキルも持たぬ奴らじゃ。ただの平民と変わらぬ存在を我らが気をかける理由などあるまい…」
「ええ、全くです。実際のところ、彼らの暮らしが多少厳しくなろうと、奴らは文句を言える立場ではありません。むしろ、全く使えない者達は邪魔なので放逐する事も検討しております」
大司教が静かに言う。
「“勇者”ではない彼らに、貴族のような待遇を与える理由はないでしょう。そもそも召喚されただけの異世界人が”特別”であるはずもないのです。使えない者達の面倒をいつまでも見る必要はないです…」
「その通りじゃ。“勇者”ら希少スキル持ちは我らの為にも“選ばれた存在”であるが、それ以外の者はただの他国の平民じゃ。彼らがどれほど不満を抱こうと、そんなものは取るに足らぬもの」
王は薄く笑いながら続ける。
「…まぁ、そやつらがどうなろうとも我らには何も問題ないじゃろう…」
「ええ。どうせ役には立ちませんし。
…最悪”禁術”を発動させる際に勇者たちだけでは足りない場合、補助的な供物として使うぐらいですかね」
「…ふむ……それもいい考えじゃ…」
王は満足げに頷き、再び杯を傾ける。
「…しかし、まぁ、そうは言ってもその程度の者達なら代わりはいくらでもおるじゃろ…
このまま大事な“勇者”たちは手厚く保護し、“それ以外”は適当に処理しておくが良い。…結局、“勇者”達さえ居れば魔王を討てるのじゃからな」
「…そうですね。…我らが気にかけるべきは“選ばれた者達”ですからね…」
彼らの笑い声が、密談の間に静かに響いた。
こうして、知らぬうちに真に貴重な人材こそが外へと流れているという事実に彼らが気がつく事は無かったのだった。




