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とりあえずの冒険者登録



城を追放されてから——


私と佐藤くんは、城からは少しだけ離れた町へとやって来ました。


仕方ありません。しばらくは…えっと、そうですね、進藤くん達が落ち着くまでは距離を置くのが良いでしょう。


……とはいえ、今の私たちは 無一文 です。


「ね、ねえ……山田さん。…僕のせいで…ごめんね…」


佐藤くんは全く悪くないのに不安の為か何処か落ち込んでいる様子です。


まぁ、それはそうですよね。

異世界に放り出されて、お金もないし、頼る人もいない。


でも——私はあまり焦っていませんでした。


だって、この世界のことは知っていますしね。


元聖女としての記憶があるので、この世界で生きていくための知識も技術も、私にはある程度備わっていると思います。


「佐藤くん、とりあえず冒険者ギルドに行ってみよ」


私の返事に佐藤くんは驚いた様子で顔を上げます。


「え…。…冒険者…ギルド?…あのファンタジー系の漫画とかに出てくる?…え、あるの?」


「そう。こちらの世界にもあるみたいだから…」


「いや、でもそういうのって弱い僕たちでも登録とか出来たりするのかな…?それに…登録料とかもいるんじゃ……」


「そうだね。多分、登録にはお金がかかるかもしれないけど…。でも、そもそも私達はお金がないから。…まずはお金を作る事を考える意味でも行ってみよう」


 佐藤くんはまだ不安そうな顔をしていましたが私は気にする事なく彼を引っ張ってギルドへと向かいます。


冒険者ギルドの場所が私の知っている時と変わっていないと良いのですが…



とりあえず、今の私達なら薬草採取でお金を稼ぐのが一番確実だと思います。



前世の記憶と同じ場所にあったギルドを見つけそのまま入れば…そこでは少し荒くれ者の雰囲気を漂わせた戦士や魔術使っぽい人たちが依頼を受けたり、情報交換をしたりしていました。



おぉ、この雰囲気懐かしいですね……。


……聖女として旅に出る前の私は基本的にはこういった場所には来たことはありませんでした。


けれど、旅をするようになってからは必然的に旅の途中でよく訪れるようになったのです。


勇者一行の仲間達はもともとよく利用していたようで情報収集等も慣れた様子でしてくれていたのは良い思い出です。


ほぼ仲間達任せで冒険者の人たちと直接関わる機会は少なかったけれど、彼らがどんな依頼を受け、どんな風に生活しているのかはそこで知ることが出来ました。


そして…、今の私にはその知識こそが役に立つのです。


私はグイグイと奥に入っていくとフリーの掲示板に向かいます。




「…え、ちょ、や、山田さん?」


「えっと……あ、これいいんじゃないかな?」


掲示板にたどり着くと貼ってある依頼書をサッと眺め、ひとつの薬草採取依頼を指差しました。



「え?」


「これなら、なんとかできそうでしょ?」


召喚魔法の便利なところは文字等が理解出来るようになっているところです。


私はもともとこちらの文字も解るのですが、それを皆に説明する事は出来ないのでとても助かります。


私が指差した依頼書を見る佐藤くんは内容を理解しようと一生懸命です。


「…な、なるほど。…いや、でも僕たちまだ冒険者登録してないし、依頼なんて受けられないんじゃ……」


「ふふ、大丈夫だよ」


私は受付に向かい、優しそうな受付のお姉さんに話しかけました。


「すみません、この薬草採取の依頼なんですけど、未登録でも納品できますか?」


「あら、新人さん? ええ、採取系の依頼なら登録前でも持ち込み可能ですよ」


「ありがとうございます!」


「えっ、本当に!?」


佐藤くんが驚いた声を上げます。


 ……ふふ。


この世界に来たばかりですからね。知らなくて当然です。




「ふふ、佐藤くん。良かったね」


「う、うん……」


佐藤くんはまだ少し不安そうな顔をしていたけれど、どこかホッとした様子でした。


「…じゃあ、行こう」


「え、も、もう?」


「もちろん。早く行かないと暗くなっちゃうし」


ひとまず、今日の宿を確保するためにもサクサクと行動をしなければいけません。


私はそのまま戸惑う佐藤くんを連れて、近くの森へと薬草採取へと向かいました。




正直、薬草採取は楽勝でした。


近くの森へ着くと、すぐに目的の薬草を発見しました。



「あ、これが指定された薬草だよ」


「えっ、もう見つかったの!?え、本当だ…こんな簡単に…?え、 いや、魔物とか出るんじゃないの……?」


「大丈夫。ここは低レベルの採取ポイントだから、危険な魔物は出ないはずだよ」


「えっ……そ、そうなんだ……?」


「うん、それに魔物の気配は感じないし」


私がそう言うと、佐藤くんはポカンとした顔をしています。


「なんか……すごいね、山田さん……」


「ふふ、ありがとう」


これくらい、聖女として薬草採取に慣れた私にとっては簡単なことです。


でも、薬草を見慣れている訳ではない佐藤くんはきっと“目が良い”ので見分けるのが簡単に感じるのだと思います。


私達にとって“薬草採取”は良いお金稼ぎになるでしょう。


そして、これできっと、佐藤くんの不安も多少は減らせるのではないでしょうか。




ギルドへ戻ると、受付のお姉さんは驚いた顔を見せます。


「えっ、もう終わったの?」


「はい、これです」


私は薬草を差し出しました。


「うん、間違いないですね! では、報酬の銀貨三枚です」


受け取った銀貨を見て、佐藤くんは感動したような顔をしていました。


「すごぃ……本当にお金になった……!」


「よし、では、このお金で冒険者登録しましょう」


「えっ!? でも登録料って2人で銀貨五枚じゃ……」


「うん、だから佐藤くんの持ってる薬草も出せば登録出来るよ」


「えっ、あ、僕、そういえばさっき渡されて…持ってた。…で、でも、見てただけで何もしてない…」


「大丈夫、次の依頼では見つけてくれたらいいし」


私はそう言って、もう一度掲示板に視線を向けます。


冒険者登録の終わった今、今度は少しだけ報酬の高い採取依頼を見つけました。


この世界では、知識と経験があればそれなりに生きていけます。


教会での生活は厳しかったけれど、その分この世界の一番厳しい部分はよく知ることが出来ました。


そして、旅にてお金を稼ぐ方法や一般の人達の生活も知ることが出来たのです。


その知識を活かせば、私たちはここでもそれなりに生きていけます。


「それじゃあ、もう一回行く?」


「……うん。そうだね。行こう!」


私の問いに少し元気を取り戻した佐藤くんが少し嬉しそうに返事をしてくれました。


とりあえず当面の見通しが立って安心です。




その後、いくつかの薬草採取をこなし、無事に宿や食事代を稼ぐ事も出来ました。



佐藤くんは今日受け取った冒険者専用タグを取り出してはじっと見つめて何か考えているようでした。


「……よし!」


「どうしたの?」


「いや、なんか……やる気出てきた!」


「ふふっ、それはいいことだね」


……良かった。


私は、佐藤くんにこの世界で生きていく希望を持ってもらいたかったのかもしれません。



私が命をかけて守ったこの世界に嫌な思いしか残らないのはあまりに寂しいです。


佐藤くんは素晴らしいスキルを持っているので是非それを活かしてこちらの世界でも良い思い出を作って欲しいものです。




……こうして、私は自ら新たな黒歴史(?)を作っている事に気がつく事もなく再び冒険の一歩を踏み出してしまったのです。







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