89話
遥君がパーティーに合流して、1度目の配信動画を作ってるところだ。
ダンジョンの探索をしながら、勝利のダンスと位置づけて練習してる。なので、戦って、踊って、戦って、踊る、というサイクルだ。
遥君は良いコーチで、怒ったりせずに、丁寧に手本を見せて、手の向きや角度など魅せ方を教えてくれる。ミラと、映りなんかチェックしながら、ちゃくちゃくと準備を進めている。
カメラの動作確認も終わって、もう、僕の逃げ場がない状況だ。
「おっ!当たりが来たな、どんどん敵を呼び寄せよう!」
「そうですね、やりましょう!」
「ちょっと待て、荷物を・・・!」
「ミラ、僕が持つよ。」
「おお、悪いな遥。幸太は2人を追ってくれ!」
「了解。」
僕は、勢い込んで走って行った2人を追いかける。
素早さにバフがかかった2人は、見つけた獲物の群れに飛び込んでいた。
「無茶をする・・・。」
ゴブリンの群れに飛び込んだ2人もそうだけど、『ダンス』による支援の話を、みんなにしてしまう遥君もだ。
Lvも上がって、人数が増えて、支援も受けて、戦力増強した結果、3階層でもかなり余裕を持って狩りが出来ている。
殲滅速度が上がって、稼ぎも良い。だけど、どこかでポロッと、遥君の情報を誰かが溢してしまったらと思うと、ヒヤヒヤする。
「背中は僕が守るよ、仲間を呼ばせる事を優先してね。」
「「了解!」」
そんなに、大型の機材は持ち込んでないけど、映りを確認する為のタブレットや予備バッテリーなど、こまごまとした物を今回持ち込んでるので、それを纏めるのに数秒の時間くらいはかかる、ミラが遅れてるのはその為だ。
「うわぁ。今回はまた、大量に呼び寄せたな。」
「僕も参戦するよ?」
「ああ、殺ろう。ウルフは後回し!ゴブリンから蹴ちらすよ!」
「「「了解!」」」
指揮は一応ミラの担当だけど、投稿用に僕が指揮する練習を重ねている。
正直、慣れない。
柄じゃないと思うんだよね。
まあ、ウルフが相手でも、全員が素早さで上回れる今の状況なら、誰が指揮を執っても、負けはしないだろうけどね。
「いや、凄まじいものだな。これが、各国が欲しがる支援の力か。」
どんどんモンスターを呼び寄せるも、こちらの攻撃力が優って、敵を殲滅してしまった。
「上がる能力がランダムだから、ちょっと安定感には欠けるけどね。」
「そこは課題だな。後は、私と同じでMPが足りない事か?」
「そうだね、MP不足は課題だね。放課後の活動時間くらいなら持つけど、1日はとても持たない。」
「重ねると、さらに使用時間は減るからな。MP装備かLvか・・・、どちらも簡単じゃないな。」
ドロップを拾い集めて、休憩をしながら話を聞いている。
今のは、ミラと遥君の会話だ。
「私が押して、エミリアが倒す連携は安定してますね。」
「そうだな、ちょっと簡単過ぎて、集中力を欠きそうになるほどだな。」
「エミリアは、緊張感があった方が集中出来る質ですか?」
「そんなもんだろう普通、なあ幸太?」
「どうだろう?僕は緊張感に弱いからね、ゆるくしてた方が集中しやすいかな。」
「意外だな。」
「意外ですね。」
「そお?」
「涼しい顔してゴブリンの群れに斬り込ん行く姿は、とても緊張感に弱い人間には見えないな。」
「勝てる事が分かってる相手に斬り込んだって、緊張のしようがないでしょう?」
「はぁ〜、コータさんですね〜。」
え?何その評価。
ソフィアが満面の笑みで、呆れてる?
「まあ、幸太だからな!先ほどの、2人に背を向けて背後を守る姿も、実に頼りになるものだったよ。なあ遥?」
「うん、見事な安定感だったね。僕らが参戦しなくても、危なげなく勝利するんじゃないかって雰囲気だったよ。まあ、僕もLvが上げたいから参戦させてもらったけどね。」
「そうだ幸太、今更なんだが。この間、腕の何かを見せようとしていたな、あれは何だったんだ?エミリアが飛びかかった事で、動揺して忘れていた。良かったら、教えてくれないか?」
あれは衝撃的だったからね!
僕もその事は忘れていたよ。覚えているのは、背中に当たったエミリアの感触くらいだね。
あれ以来、エミリアのスキンシップが多い事もあって、思い出さなかったよ。
「僕のアクセサリーだよ。『MPリング』MPを底上げしてくれる装備だね、ただ、これにはDEFなんかも付いていて、貸し出すと僕の防御力が下がっちゃうんだ。だから選択肢にはあったけど、ごめんね、貸し出せない。」
「・・・ああ、それは、借りられないな。それは、相当高額のアイテムなんじゃないのか?」
「うん、多分ね。MDEFも高いし、これでも金箱のアイテムだからね。」
ミラが片手で頭を押さえてよろめき、遥君がそれを抱きとめた。
さすが遥君だね、サラッとこなすね!
僕なんか、未だにエミリアを抱き締め返す勇気が湧かないよ?
「ああ、すまない遥。あいつおかしいぞ?いくら効率の為とはいえ、そんな物を貸し出す事なんか、普通は選択肢にもならないだろう!?」
「さすが幸太だよね。」
「エミリアは、そこに惹かれるのかもしれないな。エミリア、がっつき過ぎて逃げられるなよ?お前の泣いてる姿なんか、私たちは見たくないからな。」
「う〜・・・分かった、少し自重する。」
ミラ!!ありがとう!
もちろん僕も、エミリアが嫌いな訳じゃない。だけど、ついて行けないんだ!
出会って2日で結婚する、アメリカ人みたいな感覚、僕には到底理解出来ないよ!?
映画と同じテンポで恋愛するなんて、考えられないよ!
映画はフィクションでしょう!?
「そろそろ行くか、最後に『ゴブリンの集落』を撮影して終わりたいんだ。」
ミラの言葉に、みんなピリッと集中力を高めた。
出会って2日で結婚するアメリカ人。
これ実話です。
マジで知人にこういう人がいました、これで長続きするんでしょうかね?
この辺が、離婚率の高さの原因なのではないでしょうか?
他人事ですけどね。




