68話
僕は、再び『青いウサギ』を倒す事に成功した。
大きな瞳で僕を見つめ、語りかける僕を不思議そうな顔で見返して来る姿が、僕の瞼に焼き付いて離れない。
1匹のモンスターを、討伐しただけなのに。僕は喪失感にかられ、流れる涙を止められなかった。
今回もドロップしている。
前回もあったライチと、毛球のような何かだ。
「・・・相変わらず、・・・美味しいよ・・・。」
謎のライチを口にしながら、亡きウサギに語りかける。
完全に危ない人だけど!この時の僕の、素直な心情だった・・・。
毛球は、『青いウサギ』の尻尾のようだった。
鑑定してみないと分からないけど、きっと間違いではないだろう。
付け根が青くて、先端に向かって白くなっている、アクセサリーのようだった。
何かに取り付ける事を前提にした作りで、リュックやベルト、頑張れば耳にも着けられそうだ。
僕のポンチョは、首元をボタンで留めるタイプだ、ここのボタン穴に付ける事にした。
なにかボンボンみたいなんだけど、僕が羞恥心に負けるまでは、ここに付ける。
1度ギルドに戻ってから、再びダンジョンに潜って、ろくに狩っていない。
だけど、今日はもうあがる事にした。
気分が乗らないんだ、仕方がない。
遥君と別れて3時間とたっていないのに、僕は再び地上に戻った。
ギルドに向かったのは、単純にリュックを軽くしておかないと、明日すぐに困るからだ。
ドロップを空にしておくのは、パーティーで動く時のマナーだろう。
「あれ?幸太君また来たの?」
「お姉さん便利に仕事場変えられてません?ちょっと上司に直談判した方がいいのでは?」
さっきは、買い取りカウンターにいたお姉さんが、今は普通の窓口にいるんだ。
僕でなくとも、心配になるところだろう。
「幸太君!!」
名前だけ呼んで、カウンターに顔を伏せないでほしい。
お姉さんの心情を、僕が良く汲み取った結果だとはいえ・・・、他所から見ると、きっと僕がお姉さんを泣かせているように見えると思うんだ。
気の所為か、警備の人がジロッとこっちを見てるよ。
キッと顔を上げたお姉さんは、上司の愚痴をマシンガンの如く僕に向けてばら撒いた。
自分でも、よく頑張ったと思う・・・。
お姉さんの全ての愚痴を受け流し、かわして、隠れて、僕は生き延びた。
お姉さんは、強いだろうと知っている僕でなければ、何を言っているのか、理解出来ないところだろう。
お姉さんは、本当にあちこち、便利に移動させられて来たみたいだ。
そして、最後にこう締めくくった。
「絶対!ぜぇーったい!こんな職場、辞めてやるんだから!!」
なるほど、お姉さんは、辞職願いを受け取ってもらえないほど強いらしい。
職業の自由が認められている日本で、それでも仕事を辞めさせてもらえない。そんな仕事、数えるほどしかないだろう。
僕が思いつくのは、日本の保安に関する重要な人物くらいだ。
軍のお偉いさんとか、諜報の関係者とか、・・・ダンジョンの深い階層を探索出来る実力者とか。
「ふぅ!ふぅ!ふぅ〜・・・。」
「お姉さん落ち着きましたか?鑑定室を使いたいのですけど、空いていますか?」
最近、お姉さんに対して砕けて来た口調が、丁寧になってしまったのも、仕方のない事だよね。
「うん?えーっと、空いてるわよ!」
うん、お姉さんも十分に落ち着いて来たみたいで、僕も安心だ。
さっきまで、殺気を放ってたからね!
ギャグじゃないよ!?
本気で生命の危機を感じる状況だったんだから!!
それでも、僕がカウンターの前に立っているのは、単に動けなかっただけだからね!
「そう簡単にLvは上がらないわよ?何か鑑定するの?」
「ちょっとコレを鑑定したくて。」
普段の僕なら、上手く躱してみせたところだろう。
だけど、あの殺気にあてられた僕は、思わず『青いウサギ』のドロップを見せてしまっていた。
「・・・初めて見るアイテムだわ、お姉さんにも鑑定させて!」
「・・・お姉さんを鑑定させてくれるのなら、いいですよ。」
お互いに、落ち着いて来たみたいだ。
「都築 舞25歳、独身です。スリーサイズは言えません。きゃ〜♪」
この程度の事に、今の僕は動じない。
あの3人のせいで、最近、散々苦労したからだ。
「『都築一刀流』の関係者の方ですよね?いつも動画拝見してます。」
ふざけ始めたお姉さんが、一瞬で真剣味を取り戻した。
・・・怖いからやめてほしい。
僕の身体が、ビクッて反応するんだ。
「なぜそれを?」
「動画で演舞を披露してる人と、お姉さんの動きが一緒だからです。お姉さんの方が、強いとは思いますけどね。」
「よく分かったわね。」
「あの動画を参考にして、真似て動いてますからね。まあ、まだサル真似の領域ですが。」
「・・・それで初対面の時から、君が気になったのね。」
「ああ、よく話しかけてくれたのは、気にかけて下さってたからなんですね。」
ああ、合点がいった。
なぜ、このお姉さんは話しかけて来るのかと、少し不思議に思っていた。
単に、フレンドリーなお姉さんなんだと思っていたら、遥君の反応からは違うようだった。
あの時は、深く考えなかった。
「あの時の私は、若かったわよね〜。」
「・・・あれは、お姉さん本人なんですか?」
「そうよ?」
「・・・綺麗になられていたので、分かりませんでした。てっきり親族の方かと・・・。」
お世辞にしても、ちょっと・・・、苦しいかな?
「そお!?そお?」
お姉さんが、キラキラとした眼で見て来る。
僕は、お姉さんがチョロくて心配です。
とってもとっても心配です!
申し訳ないですけど、この辺で・・・。
「それで、鑑定室はいつ空きますか?」
「え?今空いてるわよ?」
お姉さーーん!!
ストレスが溜まってるのは分かったけど、仕事して!?
〝遥君と別れて3時間とたっていないのに、僕は再び地上に戻った。〟
アホじゃないかと!普通じゃないよお前!?って他の人は考えます。
でも、彼は幸太という生物なので、そんな事気づきません♪
ホモ・サピエンス
ヒト科
藤川:族
幸太:種
なんちゃって♪




