66話
遥君をダンジョンの出口まで送って、直ぐに2階層に戻ろうと思ってたけど。
1度ギルドによってから行く事にした、というのも、ドロップを換金して分けなきゃいけないからだ。
すっかり忘れていた。
「ごめんね。」
「別にいいって、本当に気にしないで。僕も忘れてたし。」
ドロップを買い取りコーナーに持って行く。
「あら?珍しい!今日はこれで上がり?」
いつものお姉さんだ。お昼時はギルドも余裕があるのかもしれない。
それにしたって、すごい人の数だけどね。
「いえ、相方が眠そうなので、1度精算しようかと。それよりもお姉さんの方が珍しくないですか?買い取りに入ってる事、少ないですよね?」
「そうなのよ!私計算苦手だから!出来れば他に回してほしいんだけどね。そうも言ってられないのよね〜。あっ!そうだ!幸太君、『小鬼丸』が入って来たわよ!本日入荷!!」
「え!!?」
お姉さんの言葉に、僕は思わず声をあげてしまった。
それもそのはずで、昨今の各国の開発競争で一番の成果と言っていいのが、日本の総力をあげて作られたと言われる、この『小鬼丸』なんだ!
ゴブリンが落とすナイフを元に、日本の刀工と研究成果が合わさった、まさに逸品なんだ。
遥君も、さっきまでの眠気が、どこかに吹っ飛んだような表情を見せている。
「これからは、それなりに安定して供給されるはずよ!まあ、その所為で、『ゴブリン・ナイフ』が値上がりしそうではあるけどね。あっ、大丈夫よ、買い取り値も上がる予定だから!」
「むしろ、すでに持ってる僕らからすると、買い取り値が上がる事の方が重要ですね。」
「それもそうね!あ、今なら『小鬼丸』ショップに何本も並んでるわよ。」
「・・・ん?見本は1本でいいのでは?」
「ダンジョンから出て来る物と違って。人間の手を介した物は、品質が一定じゃないのよ。数値もそうだけど、刀の反りや長さなんかが違うわね。」
「あの、先に見て来てもいいですか?」
「もちろん!計算だけしておくわ。だけど、受け取り忘れて帰らないでね?」
僕らは返事だけ残して、お姉さんの前を後にし、ショップに向かった。
いつもは、ショップの入り口を固めている自衛隊員の皆さんが、今日はカウンターの前に立っている。
これ見よがしに、アサルトライフルを持ってるのは、警戒してるぞっていうアピールだろう。
運の良い事に、人はまだ集まって来ていなかった。
僕らは、一直線に『小鬼丸』に向かい、ショップのお姉さんに頼んで見せてもらう。
『小鬼丸』は刀だ。
日本がダンジョンの攻略に乗り出した時、すでに銃はモンスターに対して効果が薄い事、Lvアップの妨げになる事が分かっていた。
そこで、現総理の麻生さんは、全国の道場なんかに声をかけ、名を得るチャンスだと言って、自衛隊への参加を呼び掛けた。
これによって集まった武人たちが、銃を使わない部隊として、今の日本をダンジョンやモンスターから守っている。
この多くが、剣道や剣術の道場の出の人たちで、その実力を発揮してもらう為にも、刀が必要だったんだ。
まあ、正確には、剣道の人では刀は扱えないんだけどね。
当初は工芸品みたいな刀が、湯水の如く消費され、製作が追いつかないほどだったとか。そこで、国は研究の成果をつぎ込み、刀工にダンジョンから出て来る物を使って、頑丈な刀を打ってもらった。
それで出来たのが『小鬼丸』だ。
なんでも、鑑定すると勝手に『小鬼丸』と、表示されるんだそうだ。
ところで、この人たちって結構浮いた存在なんだ。
全うな軍隊の訓練なんて積んでなくて、個人の技量だけで、ダンジョンに潜っている。
その為、強いのに扱い難い。その上、集団行動が苦手だったりする。
そんな人たちの中から、日本で最強の『上泉 信綱』は現れた。
もちろん、この人は刀の達人だ。
そんな人が使った事から、『小鬼丸』は世界から注目される武器となった。
「・・・なあ、幸太。これって本当に刀なのか?片刃の剣に見えるんだけど。」
『小鬼丸』を持って、鑑賞してる僕に、遥が声をかけてきた。
遥君には珍しく、無粋な行為だ。
「何を言ってるんだよ。これは、直刀って言われる、より実戦的な刀なんだよ。朝鮮出兵なんかでも使われた刀の形なんだ。江戸時代なんかに流行った、芸術品みたいな物とは訳が違うよ。あんなの平和な時代が生んだ鑑賞用だよ。」
それでも、僅かな反りが入れてある。
斬れ味への刀工の拘りだろう、こういうの、僕は嫌いじゃない。




