411話
某所。
真新しいダンジョンの前に、多くの人が集まっていた。
夜空の下、皆疲れきっているが、笑顔だった。
「レディース&ジェントルマン!ぜひご一緒にお願い致します!!」
『おー、せい、きゃんゆーしー♪』
少年の頭をお立ち台に、水精がアメリカの国歌を歌い出した。
少年の振るう、光る剣をタクト代わりにみんなで一丸となってリズムを取り、ユタ州の暗い夜空に響かせるのは、もちろん『星条旗』。
軍人と探索者が、ともに肩を並べて合唱する。
埃まみれの顔がある、汗と涙に彩られた顔もある。だが、そのどれもが達成感と、生き残られた喜びに満ちている。
歌い終わりとともに上がる歓声は、その感情の発露に他ならない。
シャンパンやビールの代わりに炭酸飲料のシャワーが上がり、花火の代わりに極大の魔法が打ち上げられる様子は、観る者全てを惹きつけてやまない。
そして、始まりの演説がまた秀逸だった。
彼は語った、ここに集う人全てが『勇者』であると。
彼は語った、武器を持ちこの困難に立ち向かった全員が仲間であると。
彼は語った、足が震え泣き出した者も、背を向け逃げ出した者も、膝を抱えて諦めた者も、そして力尽き死んで逝った者たちでさえも、その全員が、この地を解放した立役者であると。
彼は語った、例え何処の誰が否定しようとも、本人が否定しようとも、自分が、ここに集う一人一人、全てが『勇者』であったと保証すると。
彼は、そこに集った全ての人を代表して、乾杯の音頭を取った。
「甘っーーーーーーーい!!?」
よく振った炭酸の甘さに絶叫するところまで含めて、完璧だった。
「どうされます大統領?」
「見事過ぎて、グウの音も出んよ。」
ホワイトハウスの一室で、今後を話し合うために多くの者が集まっていた。
そこで動画が確認されていた。彼らも、ダンジョンが発見されてここまで働き詰めだった者たちだ。事前に準備されたダンジョン発生時のマニュアルに従い、方々に指示を出し、限られた成果に苦悩しつつも、めげずに次の策を講じて実行に移しと、寝る間も惜しんで駆けずり回って。そうして、やっと今に至るのだ。
皆、表面上は取り繕っていても、その疲労は隠しきる事が出来ないほどだ・・・。
世界各国の探索者を招集したのは、正直に言って苦肉の策だった。
事前に準備されたマニュアルとは、あまりにも異なるからだ。
「・・・あのマニュアルは、前大統領の時に作成された物だったな・・・。」
「無能を祭り上げた結果がこの有様だ!!」
「私の代では、奴の尻拭いに奔走させらるのだろうと、分かっていた事とはいえ・・・、やりきれんよ。」
大統領の顔にも、疲労の色が濃い。
幼稚で愚かな前任者の後を継いだのが彼なのだ、仕方のない事だろう。彼は誰もが嫌がる後任を買って出たのだ・・・、とはいえ、愚痴までは止める事は出来ない。
「奴をJAPANにくれてやったのは早計でしたね、私の手で殴り殺してやりたかった。」
「まったくだな、私もだよ。銃などと生ぬるいことは言わん、直にこの手で潰してやりたい!!だが、そんな妄想もせんなき事だ。この際、民衆には真実を伝え、理解を求めるしかないだろうな。幸い、前もって尻拭い政権だと銘打っている、奴の罪状がまた一つプラスされたと発表しておこう。」
「ここまで来て、探索者まで敵に回す事は出来ない。彼の盛り上げたこのムードに乗っていくしかないだろうな。」
チラリと、もう一度映像に目を向けて続ける。
「いったい、どこまでが彼らの思惑通りなのだろうな・・・。」
大統領の言葉に、室内は重い沈黙が満たされた。
身じろぎする音すら聞こえない。そんな静寂の中、話の進行役を買って出る者がいた。
防衛大臣だ。
「皆さん、こちらに目を通しておいて下さい。」
「これは?」
「例のドイツ人のネゴシエーターからですよ。仕事をくれた国に、もれなく、無償で配ってるそうです。」
それを聞いて、皆の眉間に一斉に皺がよる。
その皺の高低差は、間違いなく彼らの人生において最大の規模を記録した事だろう。
彼からは、早いうちから話が来ていた。
曰く、税金の無駄遣いはやめて、うちのパーティーを使えと・・・。
その事実が、皆の胸に苦い思いを思い起こさせる。それでも皆、手にしたレポートに嫌々目を通す。
「「「魔力中和理論?」」」
読み進めるほどに理解し、その事実が先の実例をもって脳に浸透して来る。
「・・・ああ、連中は知っていたんだな・・・、我々の防衛策が意味をなさない事を・・・。」
「・・・ああぁぁぁぁぁぁぁ!?何処までも祟るなぁ!あの無能がぁぁぁぁぁぁあ!!」
大統領の、壊れた様な絶叫が室内に木霊した。
だが、誰もその醜態を諌める事は出来なかった。
なにしろ、この部屋に集まった誰もが、彼と思いを共有していたからだ・・・。
もし、この場に前大統領が居たのならば、誰もが我先にとその首を取った事だろう。
「こんな物を出す事を、よくドイツが了承したな。それとも、日本の意向なのか?」
「いえ・・・、どうやら、彼の意向のようですね。」
その発言に、皆が息を飲んだ・・・。
「・・・連中は、とんでもない怪物を飼っているんだな・・・。」
誰もが、再び映像に目を向ける。
そこでは、まだ年若い少年が、真摯な演説を繰り広げていた。
前半は映像の内容ですね。
どうやったら上手く伝えられるのか、試行錯誤した結果です。
もう少し、良い方法がありそうなんだけど・・・、思いつきませんでした(泣)




