407話
ミラが適当に魔法を放った・・・。
進行方向とは関係ない場所だけど、最終的にはモンスターを全滅させなきゃいけないので、特に問題はない。問題はないけど・・・、戦略的には何も意味はない。
きっと、今のは苛立ちから来る八つ当たりだろう。
僕がミラの魔法に満足していないんだ、ミラ自身は、なおのこと納得していない事だろう。
出来るだけ、戦闘行為に不確定要素を盛り込みたくないんだ、ある程度の誤差が生じてしまうのはしょうがない。だけど、出来ればパズルのようにピタリと物事が進むのが理想的だと考えてしまうんだ。
だって、僕らはそういう性格なんだ。
同じ魔法を、同じように運用出来ないのはストレスが溜まる。
その辺は、考え方が軍人さんに近いかもしれない。命を預けるんだ、実績や信頼のある兵器じゃないと不安になるんだ、魔法だってそれと同じ事だろう。
ふぅ〜、ふぅ〜、ふぅ〜・・・。
ミラが荒い息を吐いている。
ミラの魔法なくして実行の出来ない作戦だ、それだけに、相当にプレッシャーを感じている様だ。
普段は見られない瞳の揺れ・・・、そこに、彼女の不安や迷いが見て取れる。
「アデレード・・・、鑑定アイテムを貸してくれ・・・。」
彼女らしくない、掠れるような喋り方。
自分のMPすら自信を持って管理出来ない精神状態の様だ。
どう声を掛けるべきだろうか?
アデレードに鑑定アイテムを返すミラのその眼に、狂気が宿ったのを僕は見逃さなかった。
だけど、どう動いていいのか分からなかった・・・。
瞳の揺れが収まり、狂気を宿した眼で見据えるのはダンジョン方面だ。
ミラが再び放った。
信じられない規模だ・・・。
着弾位置はおおよそ1kmと少し先、それなのに、僕らまで熱風で煽られている。効果範囲は、僕の【魔眼】で見える範囲を越えるほどに広大だ。
狂った調子で高笑いするミラに、僕はお水をぶっ掛ける。
ミューズの魔法をコピーしたんだ、それでも魔力差からか、バケツをひっくり返した程度の水量しか得られなかった。
だけど、頭を冷やすには十分だろう。
「スッキリしたかな?それとも、痛い思いをしないと止まれないかな?」
魔女らしいとんがった帽子のつばから、水が大量に滴った姿でミラは立ち尽くしていた。
ずぶ濡れながらも、その瞳は完全にいつものミラだ。
「お代わりは?」
「せっかくなので貰おう。」
そう言って帽子を外すミラの頭に、同程度の量の水を、今度は優しく掛けてやる。
「・・・ぅうん・・・、生き帰るぅ・・・。」
「いや、寒いでしょう?今タオルを・・・。」
まだ1月だ、頭がスッキリするよりも、寒さが勝る外気温だ。
僕がカバンからタオルを探していると、ソフィアが先に渡してくれた。
「ああ、ソフィアありがとう、気がきくな。」
「いえ、本来なら私かエミリアが止めるところでしたのに・・・、このくらいは致しませんと。」
「そうだな、面目ない。言い訳をさせてもらえるなら、あまりの魔法の凄まじさに唖然としていた。」
「そうだな!まったく、頼りにならない親友たちだなぁ!」
しょんぼりと言い訳するエミリアに、ミラはあえて明るい口調で話す。
それでも、楽しそうに親友だと言えるのだ、もう大丈夫だろう。
「みんなもこの先、力に溺れたり、全能感に酔いしれたりする事があるだろう。それは、容易に人の道を踏み外す危険性も秘めている、それだけスキルっていうのは凄まじいんだ。だけどそれは同時に、君たちの才能の証でもあり成長の証でもある、だから、盛大に酔いしれてくれ。
大丈夫、もしもの時は・・・、僕らが止めるよ。」
豊田のテロ事件の時、明らかに僕はおかしかった。
あの時は、エミリアが僕を繋ぎ留めてくれた。抱きしめられて、頭の中から色々な物が吹っ飛んで行ってしまい。おかげで、僕は人の道を大きく踏み外す事はなかった。
僕は、みんなに支えられて生きている。
今度は、僕の番だ・・・。
「調子に乗ろうにもコウタがいるからなぁ、簡単じゃないな!」
「私は恋人をその気にさせる自信が欲しいですわね。」
アデレードが髪を掻き上げながら言った。
OK、うちの恋人たちには、僕の意図が正しく伝わっている様だ。
だけど、出来ればもう少し僕に優しい表現でお願いしたい・・・。
なんとなく、2人の視線が痛いですわ。
ミラが笑顔で、ソフィアに頭を拭かれている。
ソフィアの拭き方が上手い訳じゃない、単純に嬉しいのだろう。
とても良い雰囲気だ。
「さて、みんな謝りに行くよ。言い訳を考えておいてね?」
キョトンとする一同に、僕は呼びかける。
『死人こそ出ていないと思うのです、だけど、丸焼きにされて喜ぶ人間はいないのですよ?』
そうなんだ、ミラが魔法を放った先はダンジョン方面なんだ。
そっちには、ゴールドさんをはじめ、ともに仕事を受けた人たちが向かっているはずなんだ・・・。




