405話
何処かの誰か。
アメリカの軍人さん、でお送りいたします。
ユタ州の乾いた風が吹き抜けて、1月の寒さが身にしみる。
目の前の荒野と寒さに、脳がバグを起こしそうだ。
そんな中、俺たちに飛び切りの寒さを届けてくれるのが、凶悪なモンスター共だ。
感情の込もらねえ目でこちらを見据え、強靭な顎で喰らい付いて来る。連中の噛みつきの前には、軍支給の装備もまるで歯が立たない、恐怖に肝が冷えるったらねえや。
連中の防御力にしたってそうだ、自慢の銃がろくに効きゃしねえ!5、6発叩き込んで死ねば良い方だ、固い甲殻が銃弾さえ弾き返しやがる!
だが、この曲面の甲殻を持った『アリ』共が、一番の雑魚だってんだから笑えやしねえ。
「弾がぁ!?補充はまだかぁ!」
「こっちだ、おい!フォローしろ!!」
「無茶言ってんじゃねえ!こっちも手一杯だっての!!」
「うぅぅ・・・、うわぁ!!?『カナブン』がぁ!!」
「集中射撃ぃ!!撃ち落せぇ!」
広範囲に広がり過ぎた戦線を、軍の上層部は何とか縮小しようと奮戦している。そんな中動員されたのが俺たち、州の境を守備していた州兵だ、少し前まで戦線を包囲していた部隊だ。
「おい!退がるぞ!?」
「ダメだ!!許可できん!」
「知った事か!!お前1人で死んでろ!行くぞ!!」
モンスターとの戦闘経験もなく、人間との戦闘を想定して訓練されてきた俺たちの初陣がこの戦いだった・・・。
情報は、聞いていた程度でしかなく、その脅威を正確に認識する事さえも出来ていなかった。
俺は、頭でっかちな上司を置き去りにして、仲間とともにドンドン退がる。
上の命令や許可がなければ、退がる事さえ出来ないってのは軍事上は正しいのかもしれないけど、俺は判断の遅い上司のせいで死にたくはない。
「補給物資は、輸送車両はまだか!?」
「影も形も見えませんよ!」
空爆で虫共を吹っ飛ばした後に、上から前進しろって命令があったから前進したのに、モンスターは山の様に生き残ってるわ、補給は滞ってるわで、ろくに進めやしない。
バタバタと音がするかと思ったら、何処から持って来たのか、戦闘ヘリが飛んで来た。
「ヘリだ!!」
「助かるぞ!俺たち助かるぞぉ!!」
仲間たちの喜ぶ声すら、薄ら寒い・・・。
上は何を考えてるんだ?
補給は?銃弾はまだなのか?
あれで戦えると思っているのか?冗談だろ?
ヘリの下部に取り付けられた機関銃が火を吹き、近場のアリ共を紙切れの様に薙ぎ払って行く。
周りが歓声を上げるなか、俺の頭は冷えて行った。
今のうちに退がらなければ・・・!
「おい!行くぞ!」
「え?だって救援が来てくれたじゃないですか。」
「あの掃射が、後何秒持つ!?」
「でもぉ・・・。」
その上、あのヘリは俺たちに近過ぎる!!
あれが落っこちでもしたら・・・。
ヘリに目をやった瞬間、俺の最悪の想像は現実となった。
緑の弾丸となった『カナブン』が、一直線にヘリの回転翼に突っ込んで行った。
ヘリはバランスを崩し、回転しながら俺たちの上へ落っこちて来た・・・。
訓練の成果だろうか?俺は僅かながらにヘリから離れる事が出来、地面に身を投げ出し頭を保護する事に成功した。
「うぅあぁぁぁぁぁ!?腕がぁ!俺の腕がぁ!!」
「うぅ・・・ぁ・・・。」
「・・・おい!大丈夫かぁ!!返事をしろ!」
「メーデー!メーデー!!衛生班を!メーデー!!」
ある者は傷を押さえて蹲り、またある者は遺体に向かって呼びかける。
上半身だけの人間に呼びかけたって、返事が返って来る事は決してない。
俺の前には、まさに地獄が広がっていた。
モンスターに殺られた連中、落っこちて来たヘリに巻き込まれた奴ら、飛び散る破片の被害にあった奴らの何と多い事か・・・。
俺は、放心する同僚に声をかけようとして・・・、止めた。
こいつにかける時間があるのなら、もっと遠くに逃げた方が良い。戦闘ヘリが倒したモンスターなんて、全体の0.1%にも満たないのだから・・・。
俺は、自らの生存に一縷の望みをかけて、全ての同僚に背を向けて走り出した。
そんな俺を、誰が責められようか?
救援に来たはずのヘリが新たな厄災となって部隊を襲い、負傷者を慮る余裕もない、そんな中、正気を失った同僚のために黄金よりも貴重な時間を無駄にする事は出来ない。
「・・・あぁぁ、助けて・・・。」
「待て・・・、待ってくれ!」
「・・・置いて行かないでくれ!!」
「助けてぇ!!」
全ての声を振り払って走る。
決っして振り返らない。
その先にあるのは絶望で、破滅で、死だ。再び地平を覆い尽くす様に広がる、夥しいほどのモンスターの群れ・・・。
全てを振り払って駆ける、銃も捨てた。
耳に届く助けを、悲鳴を、涙を、自らの誇りを・・・、感傷を・・・、慈愛を・・・、その全てをこの荒涼とした大地に置き去りにして・・・、俺は駆けた。
ふと視界に編隊飛行する影が映った。
気になったのか、足がもつれただけか、好奇心か、救いを求めたのか、俺にも分からない。案外、ただ走り続けるのが限界だっただけかもな。
俺は、転がってその機影を見上げていた。
渡り鳥ではない、ましてヘリや戦闘機でもない。
それは、飛行する人の群れだった・・・。
後から知った、あれこそが世界最高峰の探索者たちなのだと・・・。
すぐに殺戮の宴が始まった。
俺は、見捨てたはずの同僚にお礼を言われ、互いにただ生き残った事を喜んで抱き合った。
恥も外聞もない、俺はただ生き残った事が嬉しかった・・・。
「軍曹のケツを追っかけて逃げて来たっす・・・!おかげで・・・、俺生きてますよ!?」
「ああ、ああ・・・、良かったな。俺たち生き残ったぞ・・・。」
「マニュアル馬鹿の上司の命令を聞いてたら、今頃・・・。」
「ああ・・・、そうだな。」
すすり泣くお互いの涙で、俺たちは許し合った。
その日、この騒動は幕を閉じた。
末端の悲哀を描いてみました、どこまで表現出来てるか分かりませんが、その一部でも感じて頂けたら幸いです。




