399話
フリードリヒ・ショルツ
『モンスターを召喚するBOSS個体の存在なのですか?ご主人様にしては至極まっとうな意見なのです!』
「まあ、妥当なところではあるね。」
すみませんねぇ、意外性がなくて・・・。
いったい、ミューズは僕をなんだと思ってるんだろうか?
くすぐってやるぅ、くすぐってやるぅ!
きゃ!きゃ!きゃ!
「幸い、住民はソルトレイクシティなどの大きな街に集中している。ダンジョンの出現場所が離れていたのは、不幸中の幸いだったね。」
『それでも被害は少なくないのですよ。』
「そうだね。フランスのリオンを超す広範囲の被害だ、その上日数がかかり過ぎてる。そろそろ3階層のモンスターが出て来る頃合いだ。」
被害者の数は、比べて満足出来るというものではない。
本人にとってはたった一つの命なんだし、かけがえない大事な人を失った人には、被害の少なさなんてなんの慰めにもならない。
「アメリカは、再び信用がガタ落ちですね・・・。」
「それなんだけどね。さる大富豪が画策したのではないかという噂が流れている。」
「流している、の間違いでは?」
『みゅ?』
ミューズの不審げな表情とは違い、大使は僕の意見にニヤリと笑う。
「そうとも言うね!都合が良い事に、その大富豪はアメリカの使っているシステムを作った会社や、ユタ州の金銀銅などの採掘にも手出していて、おまけに兵器が消費されれば儲かる立場なんだ!」
「さらにおまけに、オランダで事件を起こして問題になっていたりしませんか?」
「まっ、そういう事だよ!」
『どういう事なのです?』
「アメリカは批判の矛先を少しでも逸らしておきたいし、オランダは探索者歓迎をアピールしたいから、問題を起こした奴を少しでも叩いておきたい、フランスも被害者面が出来て万々歳。大富豪なんて、あちこちに会社や株を持ってるから、ある程度は利益は出るに決まってるのに、それをさも意図的な行為として取り上げて、悪役を押し付けたのさ。」
『汚いのです!汚いのですよ!?汚い奴ばっかりなのです!』
「まあ、政治の世界に清廉潔白な人間はいないよ。でも、君の周りは違うだろ?」
『みゅ?おぉ〜・・・。みんな良い人ばかりなのです!』
さっきまで憤慨して僕の頭をペチペチ叩いていたミューズが、コロッと態度を変えた。
頭に頬ずりしてくるのが、なんだかこそばゆい。
「彼は敵を作り過ぎた。そうして悪役にされないように、仲間や味方を増やしておくんだよ、僕らも各国で首相に挨拶したりして来たでしょう?でも、ドイツのショルツ首相はなぜ動いたのですか?」
「中国の内乱鎮圧にロシアが手を貸そうとしている。あの2ヶ国を押さえる為にも、フランスやアメリカにこれ以上コケてもらっては困るんだよ。」
「どちらの国も侵略の意図が透けて見えてますもんね。世界のバランスが取れなくなるんですね。」
「中国が民主化してしまった方が、我々としては都合が良いからね。」
僕としては民主化は歓迎だけど、台湾を中心とした勢力だろうか?
すでに、中国からの政治的経済的圧力を前に、瓦解したものだとばかり思っていた。いや、そちらも海外資本が裏で動いてるのだろう。
「それはロシアにとって都合が悪いと、そういう事ですか。」
「香港が目の前のダンジョンに飛びついたのも、事態を加速させた理由だろうね。」
「兵士の強化や武装の強化が安価に行えますもんね。」
「すでに香港は探索者たちを募って中国と戦争する準備をしている。奇しくも中国は一つ目のダンジョンの件で、探索者であれば軍と戦える事を露呈してしまった。暴れたいアウトローな探索者たちが、各国から参戦するために多数移動しているよ。実はうちにも勧誘が来てる。」
スキルを使って暴れてみたいって気持ちは、理解出来る。
力に酔いしれそうな時が僕にもあった。
勧誘は意外と簡単なのかもしれない。その人たちに混じって、各国が部隊なんかを送り込むんだろうね。
「空手形や国債などもらっても困るのですけどね。それにしても早いですね。」
「ダンジョン周辺の制圧が遅れれば中国は盛り返す、香港も急ぐさ。」
「ダンジョン産のアイテムを使って、各国から支援を引き出してるんじゃないんですか?」
「・・・よくそこまで分かるね。」
「そうでなくては、出処不明の品が出回るわけありませんからね。日本でオークションを開こうとしたのも、その為ですよね?」
『みゅ?夏のオークションの事なのですか?』
「そうだよ。出品者を明かさなければ分からないし、最も多くの人がダンジョンに潜ってるのは、どう考えても日本だからね。そこで捌いても良いし、闇オークションなんてどうかな?開催地にイタリアが選ばれた理由も、その辺が関係してるのかもね。」
『運ぶだけなら、どこでも開催地になり得るのですよ?』
「そうだね。でもね、時間と安全性が問われるんだ。」
「どちらかといえば、この場合は時間が問題だね。」
大使も観念したみたいだ。
と言っても、これは僕が気づいた事ではない、日本のダンジョン産アイテムのマーケットを荒らし回った、武藤くんだからこそ気づいた事なんだ。
自分の体感と、出回るアイテムの数が合わないと・・・。
そこから、自衛隊の実績を調べ、実働している探索者の数を見積もり、弾き出された答えは『おかしい』の一言だった。
相談された僕が、出処に当たりをつけた。
ビンゴだ。
「君には毎度驚かされるよ。」
え?いや、それは武藤くんが・・・。
・・・言えない。やっと安全だろうと伝えたばかりなのに・・・。
喋ったら、武藤くんが大使にスカウトされちゃうかもしれない!
・・・それはそれで面白そうだね。
迷うなぁ〜。




