372話
ヴァチカンの映像は、なかなか衝撃に満ちていた。
モンスターが、いわゆる天使ばかりなんだ。
子ども型で弓を撃ってる個体、男性型で剣を振り回してる個体、女性型でナイフを持って突撃する個体、ライオンの顔で炎の剣を持ち魔法を放ってる個体まで様々だ。
だけど、人間型には揃って瞳と瞼がない。
それが僕には、盲目的な信仰を嘲笑っている様に見えて、思わず笑ってしまった。
ダンジョンの出現場所はヴァチカンの教会内部、中にいた人は恐らく全滅だそうだ。
溢れたモンスターには銃弾が効き、イタリア軍は短時間での制圧に成功した。それでも出した被害は小さくなかった様だ。
仮に、『天使男』『天使女』『天使子ども』と『ライオン』にしておくけど、1番弱そうな『天使子ども』でも、豊田の4階層のゴブリンアーチャーくらいの弓が撃ててる。
これは相当な驚異だ、なにしろ命中精度はお察しだけど、一般人に当たれば即死の可能性がある。
『天使男』は純粋なファイタータイプの様で、空を飛んで近づいては斬ってる。
名画や彫刻に描かれていそうな肉体は、きっと確かな能力の表れだろう。Lvがあるせいで、マッチョな雑魚モンスターという可能性が捨てきれないのが難しいところだ。銃弾の前に、1番簡単に死んでいたので、下手するとその線もありえる。
『天使女』は何故か決まって金髪の白人だ、宗教画から飛び出した天使ってイメージを1番体現していると思う。そして、まさかの自殺個体だ・・・。
サンプルにしようとしたのか、映像の中の軍人さんが捕まえたところ、逆に抱きついて足下から燃え上がり、あっという間に燃え尽きた。
魔女裁判でも再現しているかの様で、ゾッとする映像だった。
後に残ったのは、炭化した軍人さんの遺体だけだ。
イタリア軍相手に獅子奮迅の活躍をしたのが『ライオン』だった。
囲まれて銃撃に晒されてるのに大した傷も負わず、炎の剣から火炎放射器みたいな魔法を出してイタリア軍を翻弄していた。
最後は軍人さんの果敢な同時攻撃を受けて沈んだけど、そこまで見事な耐久力を見せていた。
ダンジョン発生時のモンスターだけでこれだと、難易度はイギリスのダンジョンに準ずるんじゃないだろうか?何と言っても、全てのモンスターが背中の羽根で飛んでいるのが厄介だ。
「・・・世界の秩序が殊更荒れそうな映像だったな・・・。」
なるほど、ミラは宗教も一定の社会秩序に貢献していると考えているらしい。
科学が発展して、無用な長物と化したと思ってる僕とは、考え方が違うようだ。
「目がないのに、相手の位置が分かってる様だったな。」
「首の動きからすると、見えてる様子だったよエミリアさん。」
「となると・・・、どうやって距離を縮めるかが問題だな。カウンター狙いばかりでは、精神的に疲れるからな。」
早くも攻略方法を考え始めた2人に、僕は感動すら覚えた。
僕らは探索者だからね!そうこないとね!
「終始口の裂けた様な笑顔が不気味で、そこまで観察出来なかったわね。必要なら、私が『ダイレクトペイン』で叩き落とすわよ?」
「ああ、こいつらには効きそうだな。」
『カラスの二の舞いにしてやるのですよ!』
仲間たちの頼もしい言葉を聞きながら、これを持って来てくれた軍人さんに声をかける。
「これ、ありがとうございました。」
「はい!」
「オランダの映像も手に入るようなら見せて頂けませんか?」
「え?は、いえ、オランダからダンジョン発生の報告はありませんが?」
おっといけない。
ここまで的中してたから、ついオランダにも発生してるだろうと思ってしまった。
「すみません、僕の早とちりでした。」
「い、いえ!・・・「オランダからダンジョン発見報告が入りました!!」
うん、タイミングが悪いね。
たまたまですから、そんな怪物を見るような目で僕を見ないでください。
ブンブン首を振ってみせるけど、全く信用された気配がないね。
もうどうしようもないし、頼んでおこうかな・・・。
「オランダの映像が入ったらお願いしますね。」
「はっ!!はひぃ!」
さっきの軍人さんは、転がるように逃げて行った。
普通なら、速やかに退席したと言うべきなんだろうけど、逃げて行ったと表現した方が正しい感じだった。
「あまり虐めてやるなよ?」
「いやいや、単に間が悪かっただけだからね。」
『ご主人様携帯の充電をお願いするのです!みんなが仮眠してる時に動画を見てたら、バッテリーが切れそうなのですよ。』
「ほいほい。」
僕は左手の人さし指から電気を出して、ミューズの携帯を充電してやった。
僕の弛まぬ努力の結晶だ!
アデレードの魔力じゃあ携帯が壊れる恐れがあるけど、僕の弱い魔法をさらに弱めるんだ!弱いゴブリンを倒すのがやっとな魔法を、携帯が壊れないレベルまで下げる事くらい余裕だよ!
泣いてないよ!!本当だって!
「もうお前・・・、何でもありだな。」
ミラが呆れてる!?
ダンジョン探索時の荷物を減らすべく頑張った、僕の努力がぁ・・・。




