36話
エミリアの胸が肥ったという話題から、なかなか離れられなくて困っていると、ミラから声がかかった。
「滅びればいいのに・・・。」
呼吸をするのも大変そうなのに、それだけは言いたかったんだね。
僕は話題転換を試みる。
ミラのオーラをエミリアも感じてるだろうから、これには応じるはずだ。
「そういえば、イタリアの『アレサンドロ・ロッシ』が16Lvに達したってニュース見た?」
「見た見た!だけど、一部報道では未だに『アレサンドロ』のLvは自称だって言ってるな!」
「ああ〜、『アレサンドロ』は頑なに鑑定を拒んでるからね。でも、探索者なら、それも仕方ないよね。」
「まったく同感だな、Lvだけならまだしも、ステータスやスキルを公開するのには無理がある。世界的に、有用なスキル保有者を無理矢理にでも確保しようとしているからな、研究の為とはいえ、無茶をする。日本の最高Lv保持者『上泉 信綱』はLv14だっけ?」
「うん、日本の公式発表ではそうなってるね。まあ、名前は明らかに偽名だけどね。」
「そうなのか!?」
「う、うん、だって日本の有名剣豪の名前だし。名前が古すぎて、こんな名前の人、今の時代には居ないと思うよ?」
エミリアが驚いた事に、僕は驚いた。
まあ、海外の人には馴染みがないのも当たり前か。織田信長とか徳川家康くらいなら、知ってる人もいるかも知れないけどね。
「当然だろう。いくら日本の危機管理意識が低いからって、高Lv探索者の個人情報くらいは秘匿してるぞ。幸太、待たせたな、ソフィアも行けそうか?」
「ええ、もう大丈夫よ、2人ともお待たせ!」
やっと狩りが再開出来る・・・。
いや、美人に囲まれてるんだから、文句を言ったら罰が当たるな。
当てる神が居るのなら、だけどね。
「『アレサンドロ』さんって、虹色の宝箱を開けたっていう、あの人?」
「ああ、そいつだ。そのおかげで今のLvを築いたっていう意見と、もともとナチュラル系のボディービルダーだった事から、スポンサー欲しさに、宣伝効果を狙ったパフォーマンスだって意見もあるな。」
さすがはミラ、ソフィアの質問にもそつなく答え、僕の知らない情報まで持ってる。
ナチュラル系ってなに?
「パフォーマンスで、ダンジョンの階層を重ねられたら、それは一種の才能だな!天才だろそいつ!」
「まったくだ、そんな事も分からんバカに付き合ってやる必要はない。だが、おそらく分かっていて、彼のステータスを覗き見たくて、バカな振りをしてるんだろうな。」
「そんな事まで・・・「せこい!!」
エミリアに僕のセリフが取られた。
「そんな事で、重要な情報が手に入るんだ、やらない手はないさ。」
「イタリアは、ダンジョンの究明に協力的です、なのにマスメディアとは業の深い職業ですね。」
イタリアは狭いながらも、日本に次ぐダンジョン保有国だ。
その為、色々なダンジョンの究明実験に、積極的にダンジョンを提供して、世界でも高い評価を受けている。
例えば、ダンジョンを放置するとどうなるのか?
答えは、モンスターが際限なく溢れ出す、だ。
この実験もイタリアで行われた。
ちなみに、これには続きがあって、ダンジョンから出て来るモンスターが、段々と強くなると言われている。
正確には、3階層辺りのモンスターが出て来たところで、実験は緊急停止を余儀なくされた。
その後、この実験を引き継ぐ国家は現れなかった。
この事から、モンスターはダンジョン内で、定期的に狩る必要があるというのが、今のところ定説だ。
「あれ?エミリアの持ってるそれって、『ゴブリン・ナイフ』だよね?」
エミリアの装備が、若干良くなっているのには気づいていた。
だけど、まさか武器まで新調して来てるとは思わなかったんだ。
「気づいたかコウタ!!」
そりゃあ、ナイフを抜けば気づくでしょう普通。
でも、エミリアがすっごく嬉しそうだから、不粋なセリフは慎もう。
「何か良い物でも出たの?」
僕は現実的な意見で攻める。
これならば、大きくは外さない!
「いや!国の投資を受けて買ったんだ!」
・・・、国の・・・、投資?
なにそれ?
ソフィアやミラに目を向けるけど、2人は落ち着いたものだ。
分かっていないのは、僕だけらしい。
「個人に対する投資だ、日本では一般的ではないようだが、欧米ではかなり前からやっている。」
「そ、そうなんだ。」
「エミリアが受けたのは、学生ローンに近いものだが、日本のそれとはまったく異なる。そこを勘違いするなよ?」
ミラの視線には、殺気すら感じるものが含まれていた。
それ以前に、僕には学生ローンが分からない。だから、とりあえず頷いてしまった。
「う、うん。」
「学生個人に対して融資、投資して、利息を得るのが学生ローンだ。だが一部の企業では、優秀な学生に対して自社での数年の就労を条件に、全額免除するなど、人材確保にも用いられている。」
「・・・学費が、タダって事?」
「学費だけではない、日本とは違うのだぞ?全額だ、借りた全額を免除するんだ。」
・・・マジか。
世界ってすごいな・・・。
「人材教育には金がかかるし、人材の確保にはそれだけの価値がある。」
おもわず、エミリアを見た。
外見上はパーフェクトだ!
だけど、中身が伴わないように思う。
「我が国は優秀な探索者の育成に力を入れている。」
僕はミラの言葉に、ゾッとした。
この歳で、彼女は国を背負う覚悟でものを言っているのだ。
だけど、ミラは少し辛そうに続けた。
「エミリアが手を出したのは、探索者のローンだ。」
・・・?
エミリアだし、学生ローンじゃあ借金地獄だろ。
探索者の方が・・・。
いや、どっちも同じでは?
エミリアは探索者の方が向いている。だけど、借りたら返さなくてはならない。当たり前の事だ。
「探索者でも2つあったんだ・・・、3年なのは一緒だけど、100万と500万のものがな。」
3年で100万円!!?
月、えーと・・・、3万円弱?
でも、それって、返すんだよね・・・。
「エミリアは500万を選んだ。」
頭が爆発するかと思った。
ユーロと円の為替は変動する。
今はめちゃくちゃ円高で、過去最高水準なんだとか。
それも、ダンジョン産のアイテムのせいだ。
だから、エミリアは日本で稼げば、返済は早い。だけど、国に戻ったら・・・。
「どうやら、幸太は為替も分かっているらしいな、こいつは全く理解してなかった。」
ああ、ミラは友達としてエミリアを止めたんだね。
なのにエミリアは止まらなかった。
「だが、こいつには抜け道がある。我が国は高Lvの探索者を欲しがっている。だから到達Lv次第では、全額免除するという。餌を用意した・・・。」
じ、自国、の、民に対して、国がやっていい事なのか?
国民を煽って追い込む、そんな政策、あって良いのか?
まだ!・・・今は、ドイツにはダンジョンが無いのに・・・。
だけど、僕は分かってしまった。
これを作った人の気持ちを、想いを。
今はまだ、平穏を保てているけど、今後ダンジョンに関してどんな事が起こるか分からない、だから、自国の為に、今から用意しておこうと思っているんだ。
僕の考えが確かならば、これを作った人は、自分が泥をかぶる覚悟が出来てしまっているのだろう。
自分の、愛する・・・、国を・・・守る、為に。
「エミリアは、3年でLv10まで上がらなくてはならない。」
5年かかって、人類の最高峰が16なんだよ!?
日本に至っては14だ!
Lvが上がるにつれて、上がり難くなってるのはゲーム仕様だけど!それにしたって・・・!!
ちょっと投資の名前が正確ではないかもしれません。
でも、そういうものですよと、皆さんに伝われば良いかと思います。




