表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
番外編1 三ヶ月の訓練期間
46/65

【番外編1-6】僕の姉さん

 ヘックがワイスの後をついていくと、ワイスはダンスホールから出、隣の部屋の中へ入っていった。

 単なる寝室かと思いきや、華美に飾りつけられた部屋だったが、ごちゃごちゃした感じがぬぐいきれない。まるで部屋の家具の置き方なんてどうでもいいようだ。

 タンスが部屋に入って直ぐのところに、進路妨害のように置いてあったり、埃のかぶったベッドの上に家具がぐちゃぐちゃに置いてあった。まるで物置だ。


(こんな狭いトコでやんのかァ?)

 ヘックが首をかしげたとき、ワイスは身軽に窓からひらりと飛び降りた。あわててぶつからないように、駆け寄って下を見ると二階から飛び降りたワイスが、まるでさっきから立っていたかのように、たたずんでいた。お前も飛び降りろ、とでもいうように部屋の窓の直ぐ下からワイスがどく。

(俺ェ、ンな高いトコっから飛び降りたこってないんだけど)


 仕方ないと息を吐きながら、窓のふちに足をかけた。なるべく下を見ないよう、足を蹴った。

 下から風がヘックを包むように吹いてくる。自分でも知らず知らずのうちに目を瞑っていた。そして足首に感じた力強い地面の硬さをちゃんと立って確かめた。目を開くと、飛び降りた短い時間がよみがえる。

 少しだけぞくり、としながら笑みをヘックはたたえていた。


 だが、その笑みはワイスを見ることによって消える。

 飛び降りた先はリク城の広い裏庭、いつの間にやら適度な距離を保ったワイスは静かにバンダナの巻かれた片手を上げる。ただそれだけの動作ならヘックは、まだ笑みを浮かべていられていただろう。だが、その動き一つにしてもワイスの力の一端があふれているように見えた。さっきは戯言を並べていた奇人騎士に呆気に取られていて気づかなかったが、ワイス自身相当な実力者だった。


 ワイスは上げた手で一、をつくった。

「自分が決めたことのひとつめ。『自分と相手以外の他人に干渉されない場所で行うこと』」

 さらに指をもう一本伸ばして、二をつくる。

「ふたつめ、『騎士道精神にのっとって、正々堂々と行うこと』。みっつめ、『年下であろうと、下賎な身分であろうと相手に礼儀をつくすこと』。よっつめ、これが最後だ。『終わった後で怨恨などを残さないこと』、以上だ」


 ワイスはあげていた手を下ろした。しかし、そのまま手は使い込まれた剣へ伸びていく。ヘックも柄を握り締めた。衣服と同じく軍から支給された剣だ。妙に感じるざらつきが、しっくりこない。

 ワイスは刀身の真ん中に縦に溝がある剣を抜いた。溝にはかすかに乾いた血がついていたが、間近で見ないとわからなかった。

「我が名はワイス・ル・ヴォーク。我、汝に決闘を望まん。答えよ、良か否か」


 鋭い剣先をヘックに向け、朝日を受けて輝くワイスの髪。

 ヘックは決闘の礼儀なんて、よく知らなかったが、自分なりに答える。同じように剣を抜き、研ぎたての剣に負けぬほど鋭い目でワイスを射抜く。

「俺の名前はヘック・カーロン。そっちが望むというのならば、喜んで受けてたつ!」

 フッと一瞬ワイスが顔を緩ませたが、気のせいではないかと思えるほどそれは本当にかすかだった。


「ペディア・アゴーリヴ神のご加護において、我の勝利に祝福を」

「勝つのは、俺のほうだ!」

 それをきっかけに、向かい合う二人は風と共に駆ける。宙を駆ける風はそのうち、二人から離れて土ぼこりを巻き上げる。朝日が高い城壁から漏れてきそうだ。


                            *


「毎年お馴染みのアレ、話によるともう投入されたらしいぞ」

「マジ? 去年は七時すぎじゃなかったか?」

「お前は去年こっちに来たばっかりだろ? 残りが全体の三割になったらだいたい投入されるんだよ」

「はあ?! もうそんなに脱落してんのかよ。ざこいな!」

 緑の間では相変わらず暇そうな騎士がしゃべっている。


 話の内容から分かるとおり、新兵のおおよそ七割がこの間にいる。バロシオンからエリムの伝言をきいたビルも相変わらず中心で座っている。ただ、ビルの頭の中には綺麗に澄んだ声が響く。その声はいささか、震えているように感じられた。

 アポシオンの声がしばらく途切れ、その話の内容をかみ締めると、声が漏れる。

「なんだって――!」

 一歩退いてこれらを見ると、次のように思える。


 騎士たちが「アレ・・」について話している

     ↓

 一人の「新兵、ざこいな!」発言

     ↓

 「なんだって!」それにビルが触発される


 事実、彼らに何のかかわりも持たない新兵達はそのように思っていたのだが、「ざこいな!」発言とビルの「なんだって」は無関係である。くだらないことなので二回言おう。「ざこいな!」発言とビルの「なんだって――!」という言動は、一切関係などない!

 ビルの頭の中で、アポシオンの声が繰り返される。

《ジアス殿とヘック殿の所に特別な鬼が来ました。相当な手練てだれのようです。ルールに穴があったんですよ!》


(特別な鬼・・・、手練れ、穴。アポシオン、バロシオンにも伝えてくれますか?)

 半ば、さっきの勢いで膝を立てていたビルは立ち上がりながら伝える。アポシオンは快く受け入れた。

<はい、了解いたしました。情報はそちらでも集めてくださいませ>

(わかりました、お願いします)

 ビルが一歩、見えない魔方陣から出ると、魔方陣は砂のように崩れて消えた。ただそれに書いた本人さえも気づくことはなかった。


 一歩。動くとまわりにたむろっていた、新兵も騎士もビルに注目した。


  この声は届くだろうか 何か託された鐘のもとへ


 精霊や自分、仲間の声、その全てと違う何かが、文字として浮かび上がった。ビルの頭の中に。

「あの、騎士殿」


  この音は響くだろうか 何か告げられた歌姫のもとへ


 ビルはさっき話していた騎士たちのところへ近づいていた。傍からみれば、さっきの勘違いされたやり取りの続きが始まったように思えた。


  このうたは届くだろうか 何か沈んだ友垣ともがきのもとへ


「なんだ、新兵」


  この水は響くだろうか 何か埋もれた土のもとへ


「先程から話されていた、アレとはなんのことなんでしょうか? 教えていただけませんか」

 ただ詩のようで、何を暗示したのか。気にしないように言葉をつむぐ。


  この風は届くだろうか 何か消えた燭台しょくだいのもとへ


「ハハッ、気になるか」


  この環は響くだろうか 何か途切れた夜のもとへ


「はい、とても。教えていただけるなら、俺もなぜ開始と同時に自ら脱落したのか、お教えしましょう」

 ビルはにやっと笑った。騎士もつられて笑う。


  この命は届くだろうか 何か失った月のもとへ


「いいだろう。教えてやるよ」


  この時は響くだろうか 何か狂った悪魔のもとへ


                               *


 気配、というか力持つ者の力に鋭敏なエリムは、エーシャのかたわらを離れた。鬼の騎士ともバロシオンとも違う気配。バロシオンはまだ帰ってこない。

 一応、エーシャに話しかけておく。

「エーシャ、多分鬼が来たんだけど、普通の鬼とは違うみたいなんだ」

 まだ気を失っている騎士をちらとみながら優しく語りかけた。エーシャは聞いてくれているようだった。


「危険かもしれないから、僕はここを離れるよ。もし、バロシオンが帰って来なくても、僕がここを出たあとに、ここから離れるんだよ。いいね?」

 エーシャが仕草で了承の意を見せる前に、エリムは背を向けた。そして急いでこの訓練室を出た。

 そして駆けて、力を放つその根源を探す。その力に惹かれるように身体はすいすいと動いていき、途中でここがどこか分からなくなった。


「よっ、エリム。何年か見ないうちに大きくなったなあ。それに、気配サーチ能力は今も健在だね」

 力の根源にたどり着いたエリムの前に立つは、赤いバンダナを剣の柄に巻いた騎士。ほかの騎士と同じようにヘルムをかぶらず、後ろでまとめた赤い髪が背中に落ちている。

 長く赤い髪、白い陶磁器のような肌にそばかすがある頬。

「フェリ姉さん・・・」


 エリムの姉、フェリアーノ・マドゥカは、エリムの頭に手を置いた。

「あっ!」

 触れられた瞬間、『脱落』という文字が浮かび上がって、飛びのいた。しかし、がしっと肩もつかまれてそれもできなくなった。エリムの頭をぐしゃぐしゃとかき回しながらフェリアーノはにかっと笑った。

「あはははっ! 大丈夫、だいじょうぶ。あたし、普通の鬼じゃないから」


「フェリ姉さん、家出してからこの国の騎士になっていたんだね」

 エリムは自分よりも背が高い姉を見上げた。そして、頭の上に乗せられた手を掴んだ。

「あの頃からずっと強かったけれど、姉さんはもっと強くなったんだね」

 幾つもの汚れのついた手袋ごしでも分かるほど、フェリアーノの指や手のひらは硬かった。たこやまめができてつぶれて、またできて・・・皮膚はとてもかたくなっていた。


「・・・・・・そうよ。あたし、あそこから出て初めて認められたんだから。エリム、あなた以外に」

「姉さん、よかった。僕も姉さんと同じ道を行くよ。さあ、姉さん説明して?」

 涙で瞳を潤ませたエリムは、笑いながら若草色の瞳を見つめた。

「なっ何を?」

 エリムは涙を頬に流しながら、細い剣先をフェリアーノの鼻先に向けた。

「――ねえ、僕の姉さんは何処?」

たっはっははhっははは・・・・

すみません。エリムも病んできました。

途中の詩、あれは何なんでしょう? 伏線として生きられるように頑張ります!

なんだかんだ、先週言っても通常通りできましたね。


この三ヶ月の訓練、ひとまずかくれんぼ編が終わり次第、七章へ移りたいと思います。なんというか、この訓練verが長くなりそうなので。

こんな感じになります。


かくれんぼ編終了

 ↓

七章で本編続行

 ↓

七章終了

 ↓

かくれんぼ編の続き


とりあえずかくれんぼ編が終わるようにしますので、今後ともよろしくお願いします。

6/20

追記です。今日、アクセス数をチェックしたらなんと!

これの更新した日に百人という大記録がっ! たった一日でPVが29000になっていました!

数えてみれば字数は十五万をこえ、計算をしてみればおよその読書時間が五時間ちかくにあてはまるわけで。

このような機会に、たくさんの方々に読んでいただけるのは幸いです。もっと今まで以上に、リオンを「面白い」と感じていただけますよう頑張りますので、応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ