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戦鬼の王国  作者: 高嶺の悪魔
第五幕 〈王国〉軍冬季大攻勢

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204/204

勝利の代価 10

 後の事は部下に任せて、ヴィルハルトは旅館を出た。戦闘の熱で火照った頭に、極寒の外気が心地良かった。煙草を吹かしていると、北の浜における敵船団への強襲成功を告げる伝令がやってきた。幾つか指示を与えて、伝令を送り返す。そうこうしていると、南から砲声が響いてきた。見れば、アスペルホルンのある方角で噴煙が上がっている。

 さてさて。

 煙を吐き出す山々を眺めながら、煙草を咥えたままヴィルハルトは低く笑った。

 どうにも。細工は流々、とはとても言えないが。さては、仕上げを御覧じろ、だ。


 〈帝国〉軍特別挺身別働隊指揮官、イードリ・ウスチノフ大佐は自らの置かれた状況に絶句していた。

「馬鹿な……」

 無意識に、喉が渇いた声を発する。

 北で打ち上げられた赤色発煙弾を目にして、敵の策略に嵌り、友軍が窮地に陥ったことを知ったウスチノフはその救援へ向かうべく、部隊を率いてアスペルホルンを発った。それから、一リーグと行かぬうちの出来事だった。

 気がつけば、ウスチノフは鉄火吹き荒ぶ嵐の中に立っていた。

 いや。正確に云えば、未だ彼の脳はそこまで状況を正しく理解できてない。

 全ては一瞬だった。それまで凍り付いたように静かだった周囲の山々が突然、轟音に打ち震えたかと思えば、次の瞬間には世界を砕くかのような強烈な衝撃とともに、彼が率いていたはずの数百の人間が姿を消していた。砕けた鉄と、火薬の燻る臭い。そして地面にぶちまけられている、赤黒い何か。

 戦慣れしているはずにも関わらず、ウスチノフの脳はそれらの情報から導き出されるはずの当然の結論が出せずにいた。今朝、これ以上驚くことなど起こらないだろうと思える出来事に遭遇していた矢先だったからだろうか。

 ようやく、状況が理解できたのは街道に面した山々が二度目の噴火を起こすのを見た時だった。無論、噴火などではない。だが、それが自然現象であれ、人為的なものであれ。彼にとって破滅的という点において一切の違いはなかった。


 街道全域を火制下においた〈王国〉軍砲台による一斉砲撃。それがウスチノフたち特別挺身別働隊を襲った現象の正体だった。

 天高く放り上げられた砲弾を仰ぎ見ながら、ウスチノフはぼんやりと思う。

 敵はこれほどの火力を、どうして今の今まで隠していたのか。みすみす、我々に街一つを差し出してしまう前に、どうしてもっと早く攻撃しなかったのか。

 いや、違う。と頭の隅で反論があった。

 しなかったのではなく、できなかったのだ。

 昨日までは、あの砲台と我々を挟んだ先に蛮軍がいた。だから、おいそれと打つわけにはいかなかったのだろう。これだけの火力だ。一発の誤射でも、どれだけの損害がでるか。それを嫌ったのだろう。つまりは、昨日まで追い回していた敵は知らずのうちに、我々に安全を提供していたことになる。

 だが。もはや、それもなくなった。であれば、蛮軍の砲台が砲撃を躊躇する理由もない。

 加えて、蛮軍の砲台はおしなべて、照準を南へ向けていたはず。何故なら、奴らは南から攻めてくるはずの我が軍の主力に備えていたからだ。重砲というのは一度据えてしまえばそう簡単には動かせない。蛮軍の守りは南からの侵攻に対しては厳重でも、その背後。北からの攻撃には脆弱だ。

 だからこそ、敵後方への上陸作戦という奇策が、蛮軍にとり致命的なものになるはずだったのだ。来るはずがない背後からの攻撃。蛮軍は準備を万端整えていたからこそ、反撃することもできぬまま前後から押し潰されるはずだった。


 絶望的な状況とは裏腹に、ウスチノフの思考は妙に澄んでいた。

 そうか。やはり、あの街は囮だったのだ。いや、そもそも我々があの街を攻略目標に据えていたのだから、囮と呼ぶのは適切ではないかもしれないが。ともかく、我々は差し出された餌に食いついてしまった。その結果、制圧していたと思っていた敵後方を全て取り返された。奇襲を躱され、状況は振り出しに戻った。

 いや。本当にそうだろうか。結局、蛮軍はこの街道内における最大の都市と、その以南を失ったのだから。しかし、一方で我が軍もここで頭打ちだ。これだけの重砲の火制下に置かれた道を闇雲に突き進めば、損害はとんでもないことになる。無論、対処は可能だ。部隊を山に入れて、敵の砲台を一つひとつ潰してゆけばよい。恐ろしく根気のいる作業だが、それが最も現実的な策だろう。しかし、少なくともこの冬の間は実行できない。土地勘もない、真冬の雪山で自活しながら敵を捜索するなど自殺行為だ。

 と、ここまで状況を理解したところで。ウスチノフの胸に去来したのは、敵にまんまとしてやられたことへの悔しさではなく。この判断を下した敵指揮官への敬意だった。

 大したものだ。こんな決断ができる奴はそういない。

 確かに、敵のとった行動は合理的だ。だが、そうあっさりと街一つを放棄することができるものだろうか。それも司令部が置かれている街ともなれば、なおさらだ。普通なら、何が何でも守ろうとする。無理と分かっていてもやる。そして、何もかもが手遅れになってから、ようやく諦めという言葉を弄び始める。軍人とは、軍隊とは、そして国家とは、そういうものだ。

 だが。この敵はそうしなかった。初めから全てを守るのは無理だと諦め、隘路の中、前後を敵に挟まれた圧倒的に不利な状況を、街一つを差し出す代わりにひっくり返してみせた。

 なるほど。俺たちに渡海上陸作戦なんて無茶をやらせるわけだ。

 この敵は、手強い。


 そう認めたところで。しかし、ウスチノフにできることなど何もなかった。砲弾が急接近する音が聞こえた。長年の勘から、ああ、これは当たるな、と思った。既に運命を受け入れたウスチノフは静かにその時を待った。最期の数寸。ふと、頭を過ぎる考えがあった。

 もしも。敵にとって、あの街以上に重要なもの、或いは目標があったとしたら。そもそも。アスペルホルンに敵の司令部があるというのは、いったいどこからの情報だったのか。

 その可能性に思い至った時、彼は思わず大声をあげた。この思いつきを。否。思いつきなどではない。これは真実だ。何故か、彼はそう確信していた。誰かに伝えなければ。誰だ。ラノマリノフだ。彼はすぐそこにいる。アスペルホルンに。まだ一リーグも離れていない。

 ウスチノフは駆けだした。途端、凄まじい衝撃が彼を襲った。痛みはなかった。ただ一瞬で彼はこれまでと、これからの全てを失った。


 街道に響く砲声は収まりつつあった。既に日は暮れ始めており、真っ白に染まった山々を吹き抜ける風の冷たさは鋭利ささえも感じるほどだ。

 戦闘の舞台となった旅館内の捜索と、ひとまずの片づけが済んだところでヴィルハルトはそこを団本部として使用することにした。

 思えば、この旅館はここ数日の間に三度、主人を変えたことになる。〈王国〉軍第三軍司令部から〈帝国〉軍特別挺身隊の手に渡り、そして再び〈王国〉軍へ。それなりの由緒のある旅館だと聞いたが、その長い歴史の中でもここまで波乱に満ちた日々は無かったに違いない。

 ひとまず、ヴィルハルトは戦闘の被害を免れた客室の一つを自分の執務室とした。金のある上客用に用意された、広く豪華な一室である。リビングの他に寝室が二つ。それに風呂とトイレもついている。とはいえ、ヴィルハルトは別に快適さを求めて選んだわけではない。一般宿泊客の部屋では狭すぎたのだ。

「団長」

 ヴィルハルトがたっぷりと綿の詰め込まれた座り心地の良い椅子にもたれ掛かりながら煙草を吹かしていると、ノックとともにカレンが顔を覗かせた。

「敵船舶部隊から押収した物品の目録、これが最後になります。とはいえ、取り急ぎ纏めたもので正確さには難がありますが。それと、こちらが捕虜にした者の名簿。こちらには戦闘報告の草案がまとめてあります」

「ご苦労」

 ヴィルハルトは差し出された書類の束をぱらぱらと流し見てから、それを大量の書類で埋もれた机の上に放り出す。乱暴に扱ったせいで、既に積まれていた書類が雪崩を起こした。床に散乱した紙の束をカレンが慌てて拾い上げる。それを見ながら、ヴィルハルトは煙草を咥えたまま小さく溜息を吐いた。

 まさか戦果の大きさがそのまま、事後処理作業の膨大さに化けるとは。ヴィルハルトをして、盲点だった。敵船舶部隊から押収した積み荷の目録だけで何頁あるのかも分からない。

 とはいえ、戦闘の熱が冷めるに従い、現実を直視できるようになったヴィルハルトはそうした諸々の処理に関して匙を投げていた。第3旅団に同行させた臨時司令部の面々は、あちらの状況が落ち着き次第、グリーゼに集まる手筈になっている。事後処理は彼らに丸投げするつもりだった。

 もっとも。拿捕した敵帆船に関しては何もせずとも、執政府と軍本部あたりが嬉々としやってくれそうだが。

 と、他人事のように思いながらヴィルハルトは紫煙を吐く。

「団長!!」

 と、そこへ大声とともに見た顔の軍曹が飛び込んできた。酷く慌てている。今度はなんだと、ヴィルハルトは眉を顰めた。

「ああ、良かった。副官殿もここにおられたのですね」

 軍曹はカレンを見るとほっとしたような顔で微笑んだ。妙な態度だ。慌ててはいるが、かといって焦ってはいない。いや、むしろ、全身から喜びを溢れさせているような。

「どうした」

 またぞろ、なにか戦果になるような思いもよらぬ発見でもあったのか。

 正直、これ以上面倒事が増えるのは勘弁願いたいのだが、とヴィルハルトは紫煙を細く吐き出す。対する軍曹は背筋を伸ばすと、カレンへ視線を送りつつ報告した。

「はっ。グリーゼ市内の捜索を行っておりましたところ、先ほど、敵軍の捕虜に囚われていた者の中から、アーバンス・ディックホルスト大将閣下を発見、無事保護いたしました!」

 部屋の中が静まり返った。ヴィルハルトは深く紫煙を吸い込み、吐いた。

「閣下はいま、何処に?」

「街中央にある、〈飛び跳ねる兎〉亭という大衆宿です」

 軍曹の報告にヴィルハルトは頷く。カレンが自分を見つめていることに気付いた。瞳が潤み、頬が上気している。ヴィルハルトはさっさと行け、と手振りで示した。カレンは背筋を正し、勢いよく敬礼をすると部屋を飛び出ていった。自分はどうしたら、とヴィルハルトとカレンが出て言ったドアを交互に見ている軍曹にも、同じ手振りで合図をする。軍曹が出ていった後、ヴィルハルトは煙草を一本、ゆっくりと吸いきってから彼らの後を追った。


 軍曹の言っていた〈飛び跳ねる兎〉亭は、山腹にある旅館から伸びる坂を下りきった先にあるグリーゼの中央通りに面していた。二階建ての大きな建物だが、大衆宿というだけあって格式ばった造りではない。踏み込むと、どうやら一階部分は酒場になっているようだった。大衆酒場らしい酒気と煙草と汗の入り混じった、すえた匂いがヴィルハルトの鼻をついた。

 雑多な店内には多くの人がいた。どうやらグリーゼを捜索して救出された〈王国〉軍の将兵たちのようだった。顔を知っていたのか、彼らは店に入ってきたヴィルハルトに気付くと、一様に目を丸くしている。そこへ先ほど報告にきた軍曹が飛んできた。

「団長、こちらです」

 そういって、彼はヴィルハルトを二階へ案内した。店の中ほどにある階段を上ってゆくと細い通路があり、その左右には宿泊客用の客室へと続くドアが並んでいる。ヴィルハルトが通された一室で待っていたのは、彼を呼びにきた軍曹の上官である中尉と軍医。それに泣きはらした目のカレン。そして。

「シュルツ中佐」

「ご無事でなによりです。ディックホルスト閣下」

 椅子に腰かけ、軍医の手当を受けていたアーバンス・ディックホルスト大将からの呼びかけに、ヴィルハルトは軍帽を脱いで腰を折った。傍らに立っているカレンは未だ鼻を啜っているが、どうやら感動の再開における一連のお約束は終わった後のようだ。そんな場面に出くわさなくて良かったと、ヴィルハルトは一安心した。


 軍医が診察を終えるまでの間に、ヴィルハルトは場の指揮官だった中尉から事情を聞いた。やたらと張り切っている若い中尉からの説明によれば、市内の〈帝国〉兵掃討を終え、捕らえた者たちから聞き取りを行ったところ、この店に〈王国〉軍の捕虜が集められているという情報を入手した。さっそく踏み込み、内部を捜索したところ、この部屋に囚われてディックホルストを発見したのだという。

「急ぎ、団長にお伝えせねばと思い、ラトラル軍曹を使いに出しました。それから軍医殿を呼んで……」

 説明を続ける中尉にヴィルハルトはわかった、わかったと手で制して黙らせる。見たことのある顔だが、どうにも名前が思い出せない。ヴィルハルトはこうした時、下手に誤魔化すような真似をする男ではなかった。率直に名前を聞くと、中尉はクリストフ・ラッツだと名乗った。どこかで聞いた名前だなと思った。その時、カレンが控えめに咳払いをした。それでようやく思い出す。

「任務は順調か、第三中隊長。確か第三中隊は……」

「市内の捜索と治安維持、捕虜の収容、市民及び友軍の救助に当たっております!」

「そうか。ご苦労。任務に戻りたまえ」

 やたらと元気のよい返答をする若者にヴィルハルトは素っ気なく応じる。それにラッツは何やら残念がるような顔を浮べた。誰かとの別れを惜しむような。この場を離れたくないというような態度だった。当然、ヴィルハルトはその感情が目の前の老大将に向けられたものだと理解した。〈王国〉軍初の平民出身の大将にはそれなり以上の人徳と人望があることくらい、ヴィルハルトとて承知している。

「ディックホルスト大将閣下はお疲れだ。しかし、閣下は君の名を忘れはしないだろう」

 内心で溜息を吐きながら、そう口にする。

 史上の人物と少しでも接点を持ちたいのか。或いは単に敬愛しているだけなのか。

 まあ、いずれにしてもこれはこれで世渡り上手と言えなくもないか、と思った。カレンが何か言いたげな、曖昧な笑みを浮かべているのが目に入る。が、ヴィルハルトにはその意味を汲み取ることができなかった。

「了解しました! クリストフ・ラッツ中尉は任務に戻ります!」

 結局、ヴィルハルトには取り付く島もないと諦めたのか。ラッツは敬礼をして去っていった。同時に、診察を終えた軍医が所見を述べても良いかと訊いてきたので、頷いた。


「全身にかけて細かい擦過傷や火傷がありますが、いずれも軽いものばかりです。閣下のおっしゃる通り、砲弾の炸裂に至近で巻き込まれたとすれば、この程度で済んだのはほとんど奇跡と言えるでしょう」

 ディックホルストの診察をした軍医は、そう言い残すと階下に降りていった。次の患者が待っているのだろう。これで部屋にはヴィルハルトとカレン、そしてディックホルストだけが残されたことになる。

「敵は何故、閣下をここに?」

 ヴィルハルトはまず、そう尋ねた。

 ラッツの報告によれば、この宿には他にも〈王国〉軍の一般兵や中尉、少佐といった下級、中級の将校も囚われていたという。その中で、ディックホルストは仮にも大将である。それほどの上級将校を他の捕虜と、それも一般兵と、同じ待遇に置いていたのは何故なのか。事実、襲撃された際、当時グリーゼにいた人物の中で彼に告ぐ上級者であった第三師団長のウォレス中将は、敵が本部としていた旅館の一室に監禁されていた。待遇の良しあしは別としても、この扱いの差についていえば、聞く者が聞けば烈火の如く怒り出しそうな話である。

 無論、ヴィルハルトはそんなことに怒りを覚えるような性質ではない。単純な疑問であった。

「ああ、それが情けない話なのだがな」

 老大将はヴィルハルトの質問に、悪戯っぽい笑みを浮かべて答えた。

「グリーゼが敵の襲撃を受けた際、敵の放った砲弾の炸裂に巻き込まれて気絶したらしいのだ。それから、目を覚ますとここに寝かされておった」

 と、ディックホルストは部屋にあるベッドを指さした。

「しばらくすると、〈帝国〉軍の下士官が兵を連れて入ってきた。初めはしまったと思った。まさか、自分が〈帝国〉軍の捕虜になる日が来ようとはな。言っておくが、我が身可愛さだけでこう言っているわけではないぞ?」

「お父さま」

 冗談を言うような口ぶりの養父に、カレンがぴしゃりとした声を出す。ディックホルストはそれに楽しそうな顔を作ると、話を続けた。

「だがまあ。運に見放されたわけでは無かったらしい。先ほどの軍医の言った通り、幸いなことに五体は満足だった。怪我らしい怪我もないし、まあ、頭もまともに動いとると思う。それに加えて、近くで炸裂した砲弾の欠片が掠ったのか。制服から階級章が吹き飛んでおってな」

 言いながら、ディックホルストはベッドに脱ぎ捨ててあった自分の制服をつまんで広げてみせた。確かに本来は階級章が縫い付けられている部分だけがわずかに焦げて、破れている。ヴィルハルトはそれを確かめてから、それで、と話の続きを促した。

「それで、どうやら連中は儂のことを予備役から招集されたおいぼれ将校だと思ったらしい。まあ、おいぼれには違いないが。階級や兵科についてあれこれ聞かれたので、適当に答えた」

「なんと答えたのです?」

 ヴィルハルトが訊くと、ディックホルストは会心の笑みを作った。

「連中の予想通り、自分は予備役から招集された老いぼれ少佐で、この街における軍の兵站業務の監督を任されていた、と答えた」

 以来、〈帝国〉軍はディックホルストに対して興味を失ったらしかった。

 この時代、いや、或いはさらに進んだ時代であろうと、兵站は軍の行動その全てに必要不可欠なものでありながら、常に軽視されがちな職務であった。それはヴィルハルト・シュルツのような例外を別として、〈王国〉軍でも変わらない。軍の第一義は戦う事。戦闘に直接関与しない、という理由だけで兵站に関わる将兵は腰抜けと見做される風潮が、大陸世界の各軍に存在していた。

 その中でも、特に兵站軽視が顕著であるのが〈帝国〉軍だ。絶対的支配者たる皇帝を頂点に戴く彼の国において、それ以外の全ての人民は皇帝に奉仕すべきとされている。その筆頭が軍隊だ。圧倒的兵力と火力、そして揺るぎなき忠誠を以って、遍く皇帝の敵を打ち砕く。見返りは求めず。ただ、栄誉のみを求める。そんな〈帝国〉軍において、中央に頼らない部隊自活は当然の考えだった。故に、〈帝国〉軍は部隊自活に必要な物資は現地調達をと、基本方針に据えている。たとえその結果として行われるものが、現地調達の名を借りた略奪であろうと。勝利の前には、些事に過ぎない。

 そういった次第であり、〈帝国〉軍における兵站将校の立場は著しく低いものと見做されていた。

「まぁ、おかげで飯が少ないと文句をつけたら、自分で調達してこいと罵られたがな」

 そういって、ディックホルストは愉快そうに笑った。横ではカレンが脱力している。ヴィルハルトだけが、真面目にその話について考え込んでいた。

長々と続いた本章もそろそろクライマックス。なのに、遅々とした交信で申し訳ありません。

ところで今さらですが、なろうチアーズププログラムなるものに参加させていただきました。何故なら金が欲しいから(忌憚のない本音)。

まぁ、読者の皆様におきましてはこれまで通りお付き合いいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
ラッツ君いいよなぁ
わーい更新だぁ! 敵本部を叩いたというのに司令官を取り逃がすとは如何なものだろうか……とはいえ時間があったらバレてたかもだし、そこは主人公のお手柄だろうか。 貰えるならばお金はやはり欲しいですよねぇ…
補給を軽視する軍隊の末路って…
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